2-18 今日は唐揚だ
「う~~~ん、米なあ・・・・・」
カタカタとキーボードを打って米の代替を検索してみるがダイエット用のこんにゃくご飯とかしか出てこない。
とりあえず年輪都市にない日本の料理を再現できないか考えたときにどうしてもネックになるのが米だ。丼ものなど米があることが前提の料理を避けるにしても日本人の性なのかおかずと一緒にご飯を食べたい。折角カレーが再現できそうなスパイスの存在も分かったことだし。
何故赤髪亭で手伝っていながらそのスパイスを知らなかったかというと都市の地域ごとに異なった料理の流行廃りが起こり、そのせいで好まれる味付けが異なってるのである。 なので赤髪亭以外で使われているスパイスがあってもまったく知らなかった。
日本でも各地でおでんの具や味が異なっていたり、肉まんにつける調味料が全然違うようなもんだ。なので味付けは塩!って地域もあればスパイスを多用したり、やたらに甘い味付けが好まれる地域がある。
それはともかく、とりあえずバチカーの肉を確保してこれで唐揚げを作ってみるとして料理本とかネットで作り方のおさらい。昨日、赤髪亭の営業が終わってからバチカーの肉を一口サイズに切り、適当な香辛料を振りかけてからタッパーに入れておいた。
こっちのようにナイロン袋は存在しないがプラケースに変わるような素材はある。そもそも都市カードなんてものを作れる技術を持っていたんだからいくら人口激減期に遺失した技術があったところで原始時代に戻ったわけじゃない。まあ年輪都市はその成り立ちが一からのスタートだったんで他の都市よりも技術が遅れてる(取り残されている)のは間違いないんだが。
唐揚はこれまで家で作ったことはあるけど問題は油だ。植物油もあるけれどあっちは獣脂からのラードが多いんだよな。それで揚げられないってことはないだろうが結構ギトギトになりそうな・・・・・・。いや、でもとんかつ屋さんで使ってるのはラードが多いらしいから大丈夫かな。
年輪都市では加熱料理は一般的に工術士が火の異法士の力を定着させた板が使われている。一般家庭の場合は長方形で半分が高熱、半分が低熱に加熱できるようになっており、鍋を置くとそれぞれ強火、弱火として使える。見た目はIHクッキングヒーターのようなものだ。
ところがガスや電気の代わりが異法を定着させた板に溜まる源力なので長時間使うと切れてしまう。なので複数の板を所持していたり広い厨房を供えた食堂や酒場は専用の大きい板を作ったり、火力が不安定になるが竈を使ったりしている。
この「鍋板」の起動は源力だがこれは一般人でもカードを持っていれば使用できる。
源力を流し、異法を使えない一般人だが普段カードは源力として体に溶け込ませることが出来る以上、誰でも源力は備わっているためである。ただ学校を卒業して市民としてカードを交付されないうちは、例外的に出る幼少時からの異法発現者以外は使えないということになる。
スイッチのオンオフが出来ないだけだから誰かに起動させてもらえば料理は出来るので厨房でヴェガもコーリンも手伝っている。
タミーから香ったスパイスからカレーとはいかなくてもカレーもどきが作れるんではないか?という希望が出てきた。なので余計に米が欲しいのだが無理ならカレースープ。 いやパンを作る小麦粉の類似物があるんだからナンはできるのか?とりあえずこれも作り方は調べておこう。なんせ年輪都市に持っていけるのは記憶だけだから覚えていかないと。
そう思いながらキーボードを叩いてネットを検索する。
四季がないし微妙に暦も違ってるあっちとは比べられないがあっちとは一ヶ月遅れ、こっちでは期末テストが目の前だ。
あっちの充実がこっちの生活にいい影響を与えているので勉強面は問題なく、健康面も問題ない。もちろんテスト勉強もしているが息抜きを兼ねて昨晩(昨日)購入したバチカーの肉を唐揚以外に利用できないか調理法を調べてネットを見ているわけだが友人の小野から携帯に連絡が掛かってきた。
「ワリィ、モッさん。明日のテストのヤマってどこに張ってる?」
「またかよ?明日は生物と日本史だろ? こんなもんヤマって言われても暗記しろとしか言えねえぞ?」
「そこをなんとか、せめて出ることだけでも。もうテストまで12時間切ってるんだよ!」
「諦めろ。それに寝ずに覚えるよりも寝たほうが睡眠中に記憶の整理が行われて覚えられるとかいうしな」
「何?迷信科学? それより暗記が無理なら明後日の、」
「(付き合いきれん)ところで小麦粉から米って作れないもんか?」
「あん?そんなもんチネれ!チネれ! それより・・・・・・」
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あんなテスト前に焦っててそこそこテストはいいんだからわからんよなあ。
それよりあいつが言ってたチネるってなんだ?
そう思ってネットで調べると某TV番組の某企画で挑戦した芸人の相方がやったことらしい。でもこれって見た目だけが米だよな。しかも労力使いすぎだ。楕円形に拘らないなら、板二枚あれば球形だけどいっぱい作れるだろうに。まさか食感も味も米になるわけはないから、ソバメシに入ってる刻んだ麺って感じになるんだろうけどとりあえずあっちで作ってみるか。
それにしてもこれ俺達が小学校低学年くらいの放送だろ?なんでそんなTVの企画覚えてるんだあいつ。
ノートPCを閉じて試験勉強を再開し、午後10時を回って帰宅した母さんを労って休むことにした。最近遅いけど大丈夫かな・・・・・・
-*-
朝、カイルとして目覚めた休日3日目だ。今日は朝からみんなに手伝ってもらって岩場近辺に散在しているであろう残りの宝石の原石を回収予定。昨日の話でいつもの時間に狩人詰め所に向かうのでアンジェたちより早めに起床、顔を洗っているとキィと微かな音がする。
窓からの風で部屋のドアが開いたかと思って振り向くとドアが5モイトほど開いた隙間から
「あなたはSですね?いえSに違いありません。」
とコーリンの声がする。
「なぜそんな性格と断じられなきゃならん?しかも朝イチから・・・・・・
それに言いたいことがあるなら姿を見せろい!」
あらぬ疑いを断定で被せてきたコーリンの言葉に返し、洗面所に向き直り歯磨きに取り掛かる。
「バチカーの肉を切り分けるのを手伝わさせたのに食べさせてくれないなどと・・・・・・
お預けさせられた私を見て楽しむなどなんという加虐的異常者、しかも家族でも良人でもない貴方の前へ裸の私に出てこいなどとなんという人非人。」
暑がりなだけあって寝てるときは裸なのか。そうなのか・・・・・・そういや
「人に非ぬ人」って八部衆の緊那羅の意味もあるんだよなぁ、なんて豆知識を思いながら口をゆすいでから返す。
弁明しておくが俺はコーリンに肉処理を強要していない。
バチカー肉を一口サイズに切ろうとしたら勝手にやってきて同じように切り出しただけである。肉狙いなのは分かるがまだ食べないと言ったらものすごく睨まれた。
「あのなぁ、あの肉は新しい料理を試すために仕込んでるだけだ。今日は仕事で出かけるが夜には食わせてやるから恨みがましいことを言うなよ。」
そういうと顔だけ隙間から見せてドアの前を通り過ぎる俺を目で追いながらいう。
「本当ですね?」
ああっもう!しつこい!!振り返って
「大体 欲しけれれば差し入れに頼らずに自分で買えばいいだ、ろう・・・・・・?」
「学校卒業前で自分の都市カードを持たない私がバチカーを買えば当然オリジナルカードの母には何を買ったかがバレてしまいます。
私が育った衛星都市ではバチカーは高級品なので学校に通っている身分で贅沢するわけにはいけません。」
と言ってるコーリンだが聞いてなかったりする。その理由は、
「見えてるぞ。」
廊下を移動したためにさっきよりもドアを斜めから見ているせいで隙間の向こうに立っている顔だけ出してたコーリンの体が見えている。
先ほどの言葉通り裸だ。とはいえ所詮隙間なのでほとんど見えてはいないが。
パタンと冷静にドアが閉じられた後、
「見ましたね? 乙女の柔肌を、嫁入り前の瑞々しい素肌を! ということでその賠償として食堂に置いてあるバチカーの肉の所有権を請求します!」
態とかこいつめ。
「分かった分かった。
お前が食いたいのは理解したし、食わせてやるがあくまで今日の夜だ。それまでは手をつけるんじゃないぞ? それから前みたいに食べたいからといって早引けしてくるな。ちゃんと学校に行ってこい。」
そう言ってやったが
「目の前にバチカーの肉があるのに待てと? 肉を切り分けておいて食べないなんて・・・・・・」
イヌだって指示すれば待てるいうのにこの娘ときたら・・・・・・こっちに愛玩犬はいないけどな。
「味が染みるを待ってるの!そもそもお前はバチカーが絡むと壊れすぎ! 普段の冷静で落ち着いた態度がなんでそうなんだよ?」
単に好きだからっていうんだろうなぁ。
「・・・・・・種族的に抗い難い味なのです。舌で味わう麻薬のようなものです。
混血とはいえ私が育ったところは獣人族の文化を守る目的で混血同士が集まっていたため血が濃く現れるものが多いのです。それが原因で私は人とは違って匂いや味に対して強烈に惹きつけられるものがあるのです。
そう麻薬のように・・・・・・。」
「麻薬って、バチカーの肉に対して依存性があるんじゃないだろうな。」
「目の前にないならいいのです。ですが手に届くところにあるのが問題です。食欲に対する自制が効きにくくなります。」
大丈夫かよ、肉に目がくらんで犯罪に加担しそうで怖いな。
「わかった。なら今から朝食だから食堂でついでに少しだけ焼いておく。だがそれ以上は食べるなよ!」
「わかりました。ですが私の肌を見た以上はあの肉の所有権を主張します。」
と再び開いたドアの隙間から覗く青い目が輝いている。怖い。
次から別の肉を買うことにしよう。俺は話を打ち切って仕事に向かう。
-*-
メンバーに手伝ってもらって朝から夕方までかかってこれまで狩場にしていた8箇所の岩場の周りの土の洗い出して原石の回収は終了した。
しかし思った以上に回収した原石は多く、時間を短縮するためにただの石も一緒に袋に詰め込んで運び込んだため、すべての回収が終わると提供されたサンタシの部屋の床はほぼ袋で埋まってしまった。 その上依頼があればその時に回収しようと思っていた残りの水晶岩4つも運び込んだ。買い手が付かずに徒労に終わることはないと思うがさすがにメンバーは疲労困憊の様子だ。
中央買取課広場に歪門をくぐって運び込んだ後に時間をあけて2回目、3回目と歪門を開けて出てくる俺達の様子に引き手の連中やサンタシと彼の部下の窓口職員は全員怪訝そうな顔をしていたが 他のパーティーの指輪を金で払って借りたと説明すると原石や水晶岩の買取価格を知っている職員達は納得していた。
1日の作業を終えてすべて運び込んだ後、床が抜けそうとサンタシは心配して声を出したがその目は笑っているのだった。そういえば一昨日ジバシリをミイネに買い取らせた民間買取業者のおっちゃんは俺たちのことを目で追っていた。何を運んでるか気付かれたかな?
そういやあの問屋の店主みたいな人は俺のことを知ってたが単に引き手に名づけられたからって店頭に来たことが無い狩人の顔なんて覚えてるもんなのかな?
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俺のおごりで全員で銭湯を済ませてから解散、気温が下がってきた夕暮れに赤髪亭に帰ると手薬煉を引いて待っていた人物から声を掛けられる。
「さぁ、では『私の肉』を頂きましょう!」
といわれて食堂に手を引っ張られて連れ込まれる。
さすがに赤髪亭の営業時間なので官能的(俺にとって)なタンクトップもどき姿でなく、普通の格好にエプロンである。
「誰の肉だって?」
「『私の肉』です。少なくとも貴方が私の裸を見た時から。」
俺はすぐに近づいて自分の額をヤツの額にぶつける。
「そういう言い回しでマリアさんたちに言ったら、もう二度とバチカーは買ってこないと思え!」
頭を左右に動かしてくっつけた額を左右にグリグリ
「でもそっちの脅しよりはこちらの脅しの方が効果的ですね♪」
そういいながらコーリンからも左右にグリグリと・・・・・・。
俺は14歳の年下娘にいいようにあしらわれ、勝てないことに心の中で泣いた。
「カイル、手伝ってくれるの?」
夜は厨房に入ることが多いアンジェと注文を取っているヴェガがいる。まだお客さんは少なくて混んで来るのはもう少し後になってからだろう。
「マリアさん、今日の夜は手伝いますんでちょっと厨房使わせてもらっていいですか?」
「いいわよ?コーリンがあなたを引き連れてくるなんて珍しいわね。さてはお肉ね?」
既にコーリンの食性は周知されている。
「少し思いついた料理があるんで試してみるんですよ。あくまで試作ですけど。」
ということで俺は作業に取り掛かる。
試作と聞いてアンジェとヴェガも覗き込んでくる。
炒め物用のフライパンにラード油を入れてっと、鍋板において温度が上がるのを待ちながら下味をつけたバチカーの肉に小麦粉(もどき 日本の物ほど白くないが不純物を除いてこの色らしい)をつけてっと。
ほかに素揚げもやってみるか、あとはこっちのサラダで使うハッカの匂いが強い葉もの野菜で包んで揚げよう。
ついでに卵と酢、塩を少々、こっちではちょっと高価な植物油を使わせてもらってと。ハンドミキサーなんぞ無いのでスパイスを細かくするための乳鉢の大きいやつを使って・・・・・・
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しばし後 厨房の台に置かれたのはバチカーの唐揚が盛られた大皿。どんな味になってるか分からないがとりあえず塩とレモンもどき(こっちのはグレープフルーツのように大きい。)の輪切り、必死こいて混ぜて出来たマヨを置いた。
俺はレモンが邪道とかマヨラーは認めんとか言わない。美味ければいいのだ。
しかし今のところコーリンさえ手を伸ばしていない。
「ええっと、食べないの?」
と聞くとアンジェは目を逸らす。
むぅ・・・・・・揚げ物なんぞ若い時にしか食べられないとこぼす人もいるのに。若いくせに冒険心と探究心と好奇心が欠けておる!
「コーリンは?」
「『私の肉』を油まみれにした貴方を私は許せそうにありません。」
睨んでる。
仕方が無いので俺は1人でフォークを突き刺し、口に運ぶ。
「ん! バチカーの肉は巨獣みたいに脂が多くないからこの油でよかったかもだな。」
肉の色が白っぽいので日本の鶏のささみみたいに感じるのだがコーリンが滋味が溢れると以前に形容していたように単に淡白な味ではない。それに肉質が白いせいで分かりにくかったけどワニ(みたいなもんだけど)にも脂肪って付いてるみたいだ。から揚げの衣とは別の脂の甘みを感じるな。
うーむ、米と一緒に食べたい!が無いものねだりしても仕方が無い。
素揚げやほかのものも食べてみたがやはり食べ慣れているせいかシンプルなものが一番良かった。
「揚げ物は冷める前に食べないと冷めてギトギトになって味が落ちるからな、食べないなら俺が全部食べることにしよう。」
次々と口にする俺の様子を見てようやくフォークを指す一同。
しばし口を動かした後、醜い争奪戦が始まった。俺は小皿に取って注文の料理を1人で作っているマリアさんに後でどうぞと勧め、こっちで作ったマヨをつけてサラダスティックをかじりながら自分が作った料理を争いながら食べる3人を見ていた。
そして食事の後に自称「私の肉」を全部食べられなかったとして更なる肉をコーリンから要求された。その夜、唐揚を提供した代わりにアンジェにアマザが作った球に焼きを入れてもらい、後は源力を込めれば終わりだ。
その後 昼の定食のローテーションに唐揚定食が入ることになる。だがバチカーの肉は下味をつけなくても旨いとの意見で揚げる前は塩と清涼感の香りと味が出るミントのような香辛料を少量振り掛けるだけとなった。
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その翌日、朝から全員の総意としてアマザから本日から狩り再開のはずが1日休みを延長すると念話が届いた。勾配が強い北大門先にある大森林を1日歩いたことと、原石の入った袋を運んだせいで腕が筋肉痛となっていたそうだ。ちなみに重複化を使っていなかったせいで俺は足に筋肉痛が出ているものの腕には筋肉痛は現れていない。狩人の前の外壁修理の単純作業時代に筋肉は使ってたからな。
そして朝からサンタシに教えてもらったある店を探して赤髪亭を出た。




