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神界から追放されし少女は叫ぶ。絶対目にもの見せてやるからな!!  作者: 万年亀
第七章 復讐

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大天使と下界の温かい日々

 大教会での秘密の会談より更に数日後。

 魔王出現という未曾有の危機に見舞われ、中途で取りやめとなっていた学園祭の続きが行われることとなった。


 ただし安全確保と事後処理の観点から闘技祭のエキシビジョンマッチは中止され、三位決定戦もアランとセリアの同着三位という異例の措置となった。


 エキシビジョンマッチが中止となったことに、序列第一位のクリストフは、これ以上ないほど晴れやかな笑顔を見せていた。


『いやあ残念だなあ。マリエル嬢と全力でやり合ってみたかったんだが実に残念! 私も今年卒業だし、もう彼女の規格外の魔法とやり合う機会は無いな! 本当に残念だな!』


 彼は言葉とは裏腹に実に爽やかな顔でコメントを残し、周囲から生温かい視線を浴びていた。

 王家の体面を守りつつ、理不尽な敗北を回避できたのだから無理もない。


 そして表彰式にて。

 並んで三位の表彰を受けるアランとセリアは、妙に仲良さげに身を寄せ合っていた。


 なんでも魔王との激戦の中でアランがセリアを身を挺して庇い、生死の境を彷徨ったことで二人の関係は一気に急接近したらしい。

 その絆の深まり方は凄まじく、アランとセリアの間でいつの間にか将来の『婚約』の話まで出ているという噂が、学園中を駆け巡っていた。


(恋人のお試し期間をすっ飛ばして、いきなり婚約という手もあるのか……)


 マリエルは表彰台の二人を眺めながら、下界の恋愛のスピード感に目から鱗が出る思いであった。

 神界の感覚では計り知れない情熱と行動力だ。


 そして現在。

 学園祭の最終日。各クラブの研究成果を発表する大舞台。


 マリエルは演劇場の舞台袖で、セリアとリーズリットによって着せられた衣装を身に纏い、かつてないほどの緊張に震えていた。


 その衣装は純白を基調とし、フリルとレースがふんだんにあしらわれた、まるで絵本に出てくる『天使』を思わせるような可憐すぎるドレスであった。


「ねえ、本当にやるの……?」


 マリエルは自分の姿を鏡で確認し、泣きそうな声でセリアに確認を求める。


「やるよ。ルカ君はあんなに渋ってたけど、私が絶対にこれが一番効果的だって説き伏せたからね。マリエルは自信持って!」


 セリアがマリエルの背中をバンバンと叩いて気合を入れる。


「でもさ。私なんかがこんなヒラヒラの格好しても、似合わないし……」


 マリエルが弱音を吐くと、少し離れたところで腕を組んで不機嫌そうに立っていたルカが静かに、しかし熱を込めて提案した。


「やはり、出場は取りやめた方がいいんじゃないか」


「ルカ君もそう思うよね?」


 マリエルがすがるようにルカを見るが、彼の却下の理由はマリエルの自己評価の低さとは全く別のところにあった。


「マリエルが可愛すぎて、この姿を見た瞬間に惚れる男が何十人、いや何百人出るかわからない。この服は俺の精神を脅かす決戦兵器だ。俺だけのものとして温存しておくべきだと思うが」


 ルカは大真面目な顔で、とんでもない独占欲を露わにした。


「ええ……それは流石に言いすぎ……」


 マリエルは顔を赤くして引きつった笑いを浮かべたその時。

 舞台上の拡声魔道具から、進行役のロッタの声が響き渡った。


『では次、魔王研究会のマリエルさんどうぞ!』


「うええ、呼ばれちゃった……」


 マリエルは覚悟を決め、重い足取りで舞台の中央へと進み出る。

 閉まった幕の裏側で、心臓が早鐘のように鳴っている。


 なぜ、こんな見世物のようなことをしなければならないのか。


 それはあの闘技場での魔王との決戦において、彼女が『光翼』と『天輪』を顕現させ、その圧倒的な力と光を観客の大多数に言い訳できないほどしっかりと見られてしまったからだ。


 魔王を浄化したあの黄金の光と、背中に生えた光の羽。

 もはや『ちょっと凄い水魔法の使い手』で押し通すことは不可能だった。

 学園中が彼女の正体について騒ぎ立て、根も葉もない噂が飛び交っている。


『どうせバレてるなら、自分たちから真実を公表して、それを『魔王研究』の成果発表という形にしちゃおうよ!』


 セリアのその強引な提案により、マリエルは自らを「神界から魔王を倒すためにやってきた神人」と脚色して、研究発表の最大の目玉という名の出し物として舞台に立つことになったのである。


 ジリリリリ……!


 開始のブザーが鳴り、重厚な幕がゆっくりと上がり始めた。


 マリエルは深呼吸をし、意を決して背中の朝焼け色の『光翼』と、頭上の『天輪』を顕現させる。

 そしてセリアから「絶対にこれやってね!」と厳命されていた通り、少しだけ首を傾げて、可愛らしくピースサインを作るポーズを決めた。


「し、神界から来ました……神人のマリエルで~す……。よ、よろしくね……」


 消え入りそうな棒読みの挨拶。

 その瞬間。


「ウオオオオオオオオオッ!!!」


 演劇場が揺れるほどの、割れんばかりの大歓声が響き渡った。


『出ましたァ――!! 先日の闘技祭で魔王を浄化した奇跡の光! 彼女の正体は、なんと神界からやってきたという本物の神人、マリエルさんです!!』


 ロッタの実況が、興奮で裏返っている。


『人間じゃなかったのね~。そりゃあんなワケわからんデタラメな魔法使うわけだわあ~。納得納得~』


 イヴェッタもキセルを揺らしながら、心底納得したような声で解説を入れる。


 マリエルは観客たちがもっと疑ったり、偽物だと石を投げたりするのではないかと本気で恐れていた。


 だが、客席の反応は彼女の予想を遥かに斜め上に超えていた。


「おい、あれ作り物じゃないのか?」


「いや、あれは魔力で精査したらわかるが、この世の物質でできたものじゃないぞ。詳細不明の物質だ」


「じゃあ、神人が天上にいるってのはマジ話なのか」


「すげえ……でも、正直可愛ければ何でもいいよな」


「わかる。マジで天使」


「マリエルちゃーん! こっち向いてえええええ!!」


 観客たちは、恐怖よりも圧倒的な好奇心と、彼女の可憐な姿への熱狂で沸き返っていたのだ。

 神界から来たという事実すら「なんかすごい留学生」くらいの軽いノリで受け入れられている。


(……人間の適応力、どうなってるの)


 想像以上の好意的な反応に、マリエルは舞台の上で半笑いのまま完全に固まっていた。

 恐らくこれは魔王を倒すために彼女が尽力した、というのが大きい。

 疑おうとしても「じゃああの活躍は何だよ」と責められる空気になってしまうのだ。


 舞台袖では、五天星の面々がその様子を見守っている。


「いやあ、魔王研究会の発表で、自分自身を出し物に使うとは恐れ入ったな。まさかの実物展示とは予想外だ」


「神人なんて、僕らからすれば天使みたいなもんだよねえ、多分。それにしてもマリエルちゃん、あの衣装よく似合ってる」


 クリストフが感心し、アランが頷く。


「輪っかも翼もあるし、天使とどう違うのかわかりませんわね。とても神々しいですわ」


 リーズリットも扇子を口元に当てて微笑む。


「つうか、神人っつうのは学園の階級だと平民になるのかァ? なんか違ェ気がすんだよなァ。身分制度の枠外だろ、あれ」


 ローランドだけは少し真面目な顔で疑問を呈している。


 舞台に近寄ろうとする熱狂的な男子生徒たちには、セリアが舞台の下でボディーガードとして目を光らせ、牽制していた。


「はいはい! 舞台に上がらないでー。神聖な存在だからお触り禁止でーす! 近づいたら私が物理で浄化するよ!」


 セリアが拳を鳴らすと、男子生徒たちは蜘蛛の子を散らすように大人しくなる。

 そんな様子を見ながらクリストフが、ふと思いついたように提案した。


「思うんだが、マリエル嬢はもう水魔法以外も自在に使えるんだろう? 『水精姫』という二つ名をこの機会に改めた方がいいんじゃないか」


「同感だね。どんな二つ名にしようか」


「決まっていますわ」


 リーズリットが扇子をパチンと閉じ、自信満々に宣言した。


「ズバリ、天使を超えた天使……『大天使』マリエル。これですわね!」


「恥っず」


 ローランドが思わず素の感想を漏らす。


 だが、そのリーズリットの言葉は思ったより大きく、会場中にしっかりと響き渡ってしまった。


「おおおっ! 大天使ー!」


「大天使マリエルー!」


「大天使、俺と結婚してー!!」


 観客席から、新たな二つ名のコールが嵐のように巻き起こった。


「大天使って呼ばないでよ! なんで広まってるのさ!」


 マリエルは顔を真っ赤にして、舞台の上で悲鳴を上げる。


『水精姫』だけでも恥ずかしかったのに、さらにハードルが上がってしまった。

 神界の連中から『混ざりもの』と蔑まれていた自分が、『大天使』などと呼ばれて崇められる日が来るとは、何の皮肉だろうか。


 その時。

 ルカが舞台袖から足早に出てきて、マリエルの背後にピタリと寄り添い。

 そして何千という観客が見守る中で、後ろから彼女を力強く抱きしめたのだ。


「ちょ、ルカ君!?」


 マリエルが驚いて振り返ろうとした、その瞬間。


 ルカはマリエルの顔を自分の方へ向けさせ、そして。

 彼女の唇に、迷うことなく自身の唇を重ねた。


「んっ……!?」


 マリエルの目が、限界まで見開かれる。


 静まり返る演劇場。

 そして一瞬の空白の後。


「キャアアアアアアアッ!!!」


「ウオオオオオオオオッ!!!」


 会場が、今日一番の悲鳴と歓声が入り交じった爆発的な熱狂に包まれた。


 ルカはゆっくりと口を離し、顔を真っ赤にして放心状態になっているマリエルを後ろから抱きしめたまま、観客席に向かって堂々と、しかしよく通る声で告げた。


「この場の全員に言っておく」


 ルカの漆黒の瞳が熱狂する観客たちを冷ややかに、しかし熱い独占欲を込めて見据える。


「彼女は俺の妻になる女性だ。不埒な真似は絶対に許さない」


 その宣言は五天星の第三位としてではなく、一人の男としての所有権の主張だ。


『出たァ――! 闇の貴公子の誰もが予想しなかった強烈な独占宣言!! 降臨した大天使マリエルも未来の旦那の予想外の攻勢にはタジタジだァ――!!』


 ロッタの実況が、会場の熱気をさらに煽る。


『いいわあ~。超言われてみたいわあ~。私もイケメンに囲われて甘やかされたいわぁ~。大天使そこ変われ』


 イヴェッタがマイク越しに本気の羨望の声を漏らす。


 観客からは、二人の熱愛を祝福するような凄まじい『大天使』コールと拍手が轟き続ける。


 ルカは自分の目的をやり遂げたという満足げな顔をしながらも、絶対に他の誰にも渡さないとばかりに、マリエルの小柄な身体をさらに強く抱きしめた。


 そんな熱狂と祝福に満ちた周囲の状況に対し。

 マリエルはまだ唇の熱を感じながら真っ赤な顔で天を仰ぎ、震える声でぽつりと呟いた。


「どうして、こうなった……」


 神界から理不尽に追放され、孤独な復讐鬼となるはずだった少女。

 それが今や大勢の友人に囲まれ、過保護すぎる恋人に抱きしめられながら大天使として学園の頂点に立っている。


 人生とは本当に何が起こるかわからない。


 これは一人の少女が神界から追放され、憎しみを乗り越えて復讐を遂げ。

 そして下界の温かな騒がしさの中で皆と共に前を向いて歩むことを決めた、希望の物語である――。

ここまでお読みいただきありがとうございました!

なるべくコンパクトにまとめようとしましたが、思ったより長くなりましたね。

一旦彼女の物語はここで終了とさせていただきます。


面白いと思ったら下記より評価やブクマ等よろしくお願いします!

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