27.クリフの捜索(そのご)
-王都、中央広場-
王都で最も広く、最も賑わう中央広場内。普段の週末なら、恋人たちが手を繋いで歩いたり、子連れの家族がベンチで屋台の串焼きを食べたりと賑やかな風景が広がるが、今日の中央広場は、別の意味で賑わっていた。
「西の出口をふさげ! 手の空いてるものは、網を張るんだ!」
広場には、数十人もの冒険者たちが、鋭く指示を飛ばし、機能的に連携して、たった一人の男の子をじりじりと追い詰めていた。その先には、泣きそうな男の子。
-どうしてこうなった。
最初に声をかけてきた冒険者の肩に担がれて、私は遠い目をしながら、現実を受け止めることを放棄していた。
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「……で、お嬢さん。報酬は?」
「そうね……」
あのとき、期待に目を輝かせる冒険者さんに、私は報酬を提示した。
「屋台の食事?!」
「そう。どうかしら?」
「いやいや、お嬢さん。……それは報酬としては安すぎるんじゃないかなあ?」
納得できない風の冒険者さんを前にして、息切れも治り、お嬢様らしく振る舞えるところまで回復してきた私は、小首を傾げて反論する。足下が冒険者靴という、なかなか先進的なファッションで周りから浮いていることは考えない。考えないったら、考えない。
「そうかしら。だって、相手は、王都から出られない、たった10歳の男の子で、しかも出現しやすい場所の情報は、私が提示するのよ?」
「ごく適切な報酬だと思うけれども。ねえ、ルドルフ?」
「左様でございますね、お嬢様」
外面のよいルドルフと、お嬢様らしい振る舞いを身につけつつある私のタッグは最強だ。
「で、でもよう。そんなのほとんどタダ働きじゃ……」
やや気弱そうな冒険者さんを説得しようと、畳み掛けるように条件を追加する。
「あら、屋台の食べ物ならどれだけ食べてもいいし、お酒だって好きに飲めるのよ? 割と条件はよいと思うのだけど。どうかしら、ルドルフ?」
「左様でございますね、お嬢様」
ルドルフ仕事して。特にアドバイスするつもりもないのか、同じ肯定を繰り返すルドルフに、若干イラッとしたものの、冒険者さんを説得するためには、最強タッグ同士で喧嘩はご法度。
ルドルフから納得の反応が返ってきた。そんな風を装い、お嬢様らしく微笑み返しておく。
「……お酒も?」
「もちろん。前向きに考えていただけて?」
「……仲間も呼んできていいか?」
「あら、助かるわ。何人でも連れていらして」
お酒という言葉に反応する冒険者さん。これは、チャンス。仲間も少しはいると探す効率も良くなるだろう。気楽に了承した。
「よし。じゃあ、このまま冒険者ギルドに来てくれるか? まずは作戦会議しようぜ」
「依頼を受けてくださるのね?」
「ああ。そっちも仲間が増えても、約束は守ってくれよ」
「当然よ」
……で、今に至ると。冒険者さんを説得はしたものの、正直、私も、大した報酬じゃないと思ってた。
冒険者さん達なら、もっと見入りの多い仕事もしているだろうし、仲間を集めると言っても、4〜5人集まればラッキーくらいに考えていた。そんな日が私にもありました。
だって、想像できなかった。
数週間前に騎士団の魔獣掃討作戦が行われて、近場で冒険者に依頼するような仕事が減っていたなんて。
今日がたまたま週末の夕方で、これから飲みに行きたいけど懐が寂しい冒険者達が、冒険者ギルドであんなに燻っていたなんて。
私に声をかけてきた冒険者さんの陽動も、なかなか良かった。冒険者ギルドに入ると、おもむろに私を肩に担ぎ上げ、冒険者ギルドに勢いよく入った。
貴族らしい服装をした私が物珍しいのか、冒険者達の視線が集まってきて、恥ずかしくて思わず下を向いてしまう。
そんな私に構わず、冒険者さんは受付に話しかけた。
「このお嬢さんが冒険者ギルドに依頼したいってよ」
「家出した坊ちゃんを捕まえるだけで、受けてくれた冒険者には、中央広場の屋台のすべての食べ物と酒を振舞うって条件だ!」
大声での依頼に、自然に冒険者たちが集まってくる。いや、反応いいのは助かるけど、そんなに集まらなくても……あれ、ここにいた人たち、ほぼ全員じゃない?
「な、まじか。ちょうどこれから飲みたいと思ってたとこなんだ。お、俺も参加させてくれ!」
「おい、お前、ずるいぞ。なあ、上限は何人なんだ?」
「上限は無い」
「な、なんだと?」
「無事捕まえた暁には、なんならここにいる全員に奢ってやるってよ! お前ら、フィーお嬢さまに感謝しな!」
「フィー! フィー! フィー!」
まだ仕事を達成していないというのに、謎の大合唱を受け、ダメージを受けた私は、ほとんど人形と化したまま、事態がどんどん大きくなるのを呆然と見ていた。
お、お金、足りるよね? ね、ルドルフ? 視線を逸らすのは、やめてー。
*******
そんなわけで、何十人もの冒険者さん達の、早く飲みたいという異常な情熱のおかげもあり、あっという間にクリフ目撃情報を拾ってきて、中央広場にクリフを追い詰めたというのが、今の状況です。
というか、ここまできたら、捕まえるなんてあっという間で。
「おら! 捕まえたぞー!」
私が現実逃避をしている間にも、冒険者さん達は素晴らしく仕事をしていた。怪我をさせないよう、網で厳重に巻かれたクリフは、捕まえた冒険者さんによって、空に高く掲げられた。
「……ということは」
「……はい。もう、好きなだけ飲み食いしてください」
「おい、聞いたか! 今日、この中央広場の食べ物、飲み物はすべてアムスベルク家のフィーお嬢さまが買い取ってくださった!」
「お前ら、好きなだけ飲み食いしやがれ!」
諦めの境地で呟くと、気弱な冒険者さんは、私の手を高く持ち上げ、広場中に響く声で、そう宣言した。
私、そこまで言ったっけ? ね、ルドルフ? 不安からルドルフに助けを求めるが、やっぱり目を逸らされた。
「フィー! フィー! フィー!」
またしてもフィー祭りである。
……というか、大体、冒険者さん、さっきまでの気弱さはどこへ? むしろ、冒険者のトップと言われても信じられる勢いですよ。
困ったように冒険者さんを見つめると、それに気づいた冒険者さんは、私を下におろし、網に包まれていたクリフを持ち上げている男性に声をかけると、引き渡してくれた。
「ちょっと話を広げちまって悪かったな。ほら、念願の坊ちゃん、渡すからよ。俺は、サニーって言うんだ。また、なにか依頼があれば、冒険者ギルド経由で頼ってくれよ」
そういうと、冒険者さんは、気まずい状態の私とクリフを置いて、うきうきと屋台に向かっていった。
私は、冒険者さんのあまりの切り替えの早さに呆然としたものの、網の中で苦しそうにしているクリフに気づき、慌てて網から救出した。
「あの、……クリフ。こんな無理やり捕まえて、ごめんなさい。信じてもらえないかもしれないけど、ここまでやるつもりはなかったの」
ごめん、クリフ。なんだか、私にも手に負えなかったんだ。
「はぁ……フィー姉さんがお騒がせっていうのは、分かってたから、もういいよ」
「ご、ごめん。……あの、屋台の食事でも食べる?」
「……」
沈黙が痛い。本当に反省してますから。しょんぼりしていると、何故だかクリフが笑い出した。
「……ふふっ。いや、もういいよ。なんか怒るのもバカらしいし」
「……ほら、屋台の食事奢ってくれるんでしょ? 取ってきてくれる?」
「……はい! 喜んで!」
クリフの笑顔にホッとして、私は屋台に駆け出した。あ、一応、ルドルフは、クリフを見張っていてね。




