91話 アナリストって響きがかっこいい!
左門が指さしたのはリリースポイントだった。
「ライズボールは球の回転を普通のストレートより多くしないといけないんです。せやったら、どうしても重力方向に力を入れないといけないんです」
「確かにー……」
1回の裏、左門を襲ったレフトライナー。
それは左門が思っていたよりもだいぶ伸びてきた打球だったが、それは相手のバッターが上から振り下ろしたからこそバックスピンが多くかかったのだ。
だが、動画を停止してみれば確かにはっきりと違うのは分かるが、動いている最中、しかも真正面から見るとなると違和感が少しあるかな、といった具合だ。
そんな違いでは、打席に入った中では有効に使えない。
「それは投法ですから癖ではないんです。癖なのは、首の角度です」
「首―……」
監督は言われるがままに首を注視して動画を再生し直すが、言われればそうかもな、くらいの違いしかない。
「これは一塁側だと見づらいですねー。確かにライズボールの時は投げる瞬間下に動いてるような気もしないもないですがー」
「それであと、ジャイロボールなんですけど……」
左門が、スマホの動画を移動しようとした瞬間。
「敦子ちゃーん、もうそろそろ投球練習終わっちゃうよぉ」
セカンドの二宮から守備に就くよう促される。
「ごめーん、今行くからちょい待っててなー!」
左門は急いでグラブをはめ、それで周囲の目から遮るよう口元に当てながら監督に告げる。
「ジャイロボールは投げる瞬間に一塁側へ体が倒れます。体幹が良いのか投げ終わった後の体勢は変化ないみたいやけど……。あ、これは多分、です」
「それだけでも十分なのですー。さすが私が見込んだアナリストは腕が立ちますねー」
「いや、うちそんな異名、初めて言われたんやけど」
そう言い残し、左門は全力疾走でレフトの守備位置に就く。
「体の向きー……」
監督の仕事は間違い探しではない。
自陣の攻撃では、いかに効率よく点を取るかに尽きる。
打者が分かりやすく、かつどう攻略すればいいか。
この回の守備はすべて選手に任せ、監督は動画の再生の没頭した。
「……どうっスかね。気づきましたかね、相模南は。何やらベンチで話し込んでいたみたいッスけど」
「ライズボールの癖はあたくしたちも気づいたけれど。んふ、あの球種ほど分かっていても打ち辛い球はないわね」
「まー、バックスピンがかかってる分、芯に当たれば飛んでくけどなー」
スタンドにいる斡木クラブの3人はグラウンドを見つめながら雑談を続けている。
「いつも思うんスけど、キャプテンってなんでこの暑い中に熱いものを飲んでるんスか? こっちまで暑くなってくるんスけど」
「あら、あたくしだって真夏なら冷たいのを飲むわよ? でももう秋だもの。暑いときこそ熱いものを飲めと昔の偉い人も行っていたでしょう?」
高峰が得意顔でそういった瞬間、斡木クラブの監督の水筒からカラン、と氷の音が響いて微妙な空気が流れた。
「あ、えーと、か、監督ならどういう作戦でいくんスか?」
「そうだな、私ならな……」
監督は柴谷の質問に答えながらも目を細めた視線は高峰の方に向いていた。
だが高峰は気にしていない様子なのか熱いコーヒーを美味しそうに飲んでいる。
「私ならわざと癖を見抜いたことを相手に知らせて、心理戦に持ち込みたいところだが……」
「なら、相模南の監督もそうするんスかね。監督の元教え子ってことっスし」
「鈴木、か。確かにあいつは優秀で私の言うこともよく理解はしていたが……。性格は大分違うからな、そこの奴と同じで」
監督の視線の先にいた高峰は得意げな顔でにっこりと微笑む。
4回の裏、相手は4番から始まる打順だったが投山は3人でぴしゃりと締めた。
そして相模南の鈴木監督は、5回の表が始まる前に再度円陣を組む。




