79話 2回戦の相手は!
「華園、百合……!?」
真中が中学の時、苦戦した相手。
「あ、あれって……」
友希も声を上げるが、投球を目の当たりにしたことはない。
ただ、バイト先で一度見かけただけだ。
「華園百合さんって、あのマウンドに立っている人やんね?」
左門が指さした先に立っているのは、『河咲女子高』という名前が胸に刻まれたユニフォームを纏っているピッチャーだ。
後攻のため、マウンドで試合開始前の投球練習をしている。
「でも、そんなに凄そうなピッチャーには見えないネ」
投球フォームは熟練のものだが、かといって投げている球筋は別段けた外れているというわけでもない。
「……あれは流しているだけです。友希、バックネット裏に行くわよ」
そう言って真中は友希の手を引っ張ってバックネット裏へ走る。
「ちょっと雨音ちゃん、強引すぎだよー」
「ずるい、僕も行く!」
2人に小鳥遊が続き、面白がった右京も続き、仕方なく左門、熊捕、投山も後を追う。
そして、試合が始まった。
初回、華園は内野ゴロ1つ、内野フライ1つ、外野フライ1つで簡単に3人で終わらせる。
「スライダーは投げていないみたいだね」
「そうね。怪我した原因だし、封印しているのかもね。まあ、硬球に合わないってだけかもしれないけれど」
コントロールは見事、というべきだったが、球速は早かったりそうでもなかったり。
だが真中の言っていた中学時代のウィニングショットである鋭いスライダーは散見されなかった。
「じゃが、初戦の初回であの落ち着き様は見事じゃな。桜も見習って……」
熊捕が投山の方に顔を向けた瞬間、投山の顔が熊捕の肩にこつんとぶつかった。
「……すーすー。むにゃむにゃ」
「大事なこの時に何寝とるんじゃ」
投山は熊捕の肩に寄りかかって小さく寝息を立てている。
「仕方ないよ。ピッチャーはすごい疲れるだろうし」
「……まあ、そうじゃのう」
熊捕は投山の頭を軽くなでる。
「そこ、いちゃいちゃしてないで、ちゃんと試合を見なさい。特にキャッチャーの紅葉は」
「い、いちゃいちゃなんてしとらんわ。雨音に言われんとも分かっておる」
「どーだか」
試合は2回まで動かなかったが、3回の表、ワンアウトから相手のピッチャーに四球を出し、次のバッターにポテンヒットを許し一、三塁。
「……ここね」
真中がそう言って、友希も身を乗り出して投球を見つめる。
「……速くなってる気がするネ」
「ギアチェンジ、したんやろか」
華園はピンチになって、さらに球速を増す。
120km/h、は出ていないだろうが、それに近い速度は出ている。
だが。
「決まりね。スライダーは投げられない」
「正直、スイングを見るに河咲女子より相手の方が打撃力はありそう。同点にもかかわらずそのスライダーを投げないってことは、そう見ていいんだろうね」
小鳥遊も真中の考えに同調する。
中学生とはいえ、全国トップクラスの選手相手にばったばったと三振を取りまくった華園のスライダーが投げられないとなれば、正直ありがたい。
しかし、ワンアウト一、三塁のピンチにもかかわらず、河咲女子は危なげなく無失点で切り抜けた。
友希にはそれが、どうしても引っかかった。
チーム力が低いというわけではないが、斡木クラブと比べるとはっきり言って劣る。
それでも、全国ベストナイン級の高峰が要注意といった華園のピッチング。
「……高峰さんって他県から来たって言ってたけど、東京じゃないよね?」
「少なくとも自分は聞いていないわ。それがどうかしたの?」
「いや、高峰さんが要注意と言ってたのは、中学の華園さんなのか、高校の華園さんなのか」
「他県とは言え、あのレベルの2人だし、練習試合で会ったことがないとは言えないわね」
「あの言い方じゃと、高校の方じゃろう」
少し間が空いて、ネット検索をしていた左門が口を開く。
「去年の春大会、1回戦が斡木クラブと河咲女子だったみたいやね。スコアは3‐1で斡木クラブが勝っとる」
それを聞いて友希は押し黙る。
ギアチェンジして球速が上がるとはいっても、球が速いくらいで斡木クラブを3点で抑え込めるとは到底思えない。
「何か、からくりがあるのかも……」
3回の裏、相手のエラーも絡んで河咲女子は先制点を挙げる。
「……」
「どうしたの? 雨音ちゃん」
「いや、自分は、あんなに喜ぶ華園百合の姿なんて見たことなかったから」
小鳥遊の質問に、真中は腑に落ちていないような表情で返した。
「あの人の中学時代のあだ名は、野球ロボットとか、そういった感じだったから。感情なんてないものだと思ってた」
試合はテンポよく進んでいく。河咲女子はピンチらしいピンチも作らず、のらりくらりと相手の攻撃を躱していく。
そして、2時間半もたたぬうちに試合は9回の表に突入し。
「アウト!」
相手の最後のバッターが、内野ゴロに倒れた。
その場面を見届けて、友希たちは帰り支度を始める。
「監督、とりあえず今日は解散して家に帰って休んで、って言うとったわ」
監督からかかってきた電話を切った後、左門が皆に伝える。
2回戦は1週間後、その日は解散して帰路に就いた。




