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Baseballスター☆ガールズ!  作者: ぽじでぃー
第五章 夏休み!
54/150

53話 関東大会 1日目

土曜日、晴れ。

今日は関東大会1回戦。


 2つの球場で同時に行われるため、友希たち相模南の野球部は神奈川チームの試合が多い球場へと足を運んだ。


「いやぁ~申し訳ないネ、せっかくマリアに来てもらったケド」

「いいよぉ。ワタシも秋葉に行ってたし」


 マリアとは、右京のアメリカの友人で、野球と漫画をこよなく愛する高校生である。

 旅行で日本に一時滞在しており、右京の紹介で3日間だけ野球部に参加することとなった。


 だが1日目と2日目は関東大会の観戦が主であり、一緒に練習できる時間は少ない。


「そういえば、第一試合はどことどこデスカ?」

「大田原クラブと……埼玉のクラブチームやね」


 サイタマ? と首を傾げる右京の横で、マリアは左門の顔を覗き込む。


「ワタシアイリちゃんからよく聞いてたけど、アツコちゃんとってもキュートな顔をしてる。羨ましいなぁ」

「え?」


 マリアと戸惑う左門の間に、右京が割って入って来る。


「そ、そんなこと言ってないデス! マリアは嫉妬しぃだから困りマスネ!」

「うふふ。アイリちゃんも可愛い所があるんやねぇ」

「なんだか負けた気分ネ!」


 そうこうしているうちに、試合が始まる。

 夏日で熱さは厳しいが、澄んだ空にプレイボールの声が響き渡る。

 大田原クラブは序盤に先制を許し、3回終了時には0-2で負けていた。


 しかし、大田原クラブの部員に焦りは微塵もなかった。

 じわじわと追いすがり、遂に7回、主将の大和が同点のタイムリーヒットを放つ。

 そこで相手チームはエースを降ろし2番手を投入したが、投手を変えただけでは大田原クラブの勢いは止まらなかった。


 両チームともエラー0、四死球も少ない引き締まった試合だったが、結局5-3で大田原クラブが勝利を収めた。

 スタンドから手を振ると、大和がそれに気付き手を振り返してくれる。


「勝てて良かったねぇ。あたしたちも嬉しいよぉ」

「ありがとう。みんなの応援のおかげだよ」


 試合が終わった大田原クラブは、他の試合を観戦するためにスタンドに上がり、相模南の隣に座った。

 色々と制約があったとはいえ、同点だったチームが関東大会を勝ち上がるのは自信に繋がる。


「まあ、優勝を目指す以上、これからの道のりの方が大変だけどね」


 次の試合は翔和女子校と東京の高校野球部。クラブチームではなく高校の野球部の関東大会参加校は16校中この2チームだけだったが、1回戦で当たることとなった。


「えっと、翔和女子の特徴は『とにかく打ち勝つ野球。打力に限れば全国トップクラス』って書いてある」


 友希は雑誌『週刊女子野球』の関東大会特集ページを捲りながら言う。


「ふーん、じゃあ投手や守備はしょぼいわけ?」

「いや、『エラーは多いがとにかく守備でも攻めまくる。投手もコントロールは悪いがボール球を一切要求しないため四球は少ない。決め球は〝やけくそど真ん中〟。案外バランスの取れたチームで今大会のダークホースとして注目されている』だって」

「やけくそど真ん中? 何よそれ、決め球なんて言えないわね」

「私もそう思うけど……」


 友希は真中の意見に同意するも、やけくそど真ん中という言葉の響きは何故だか好いた。

 力と力の勝負みたいでカッコいい。


「それはね、打撃に自信があるからだと思うよ」


 アメリカの高校では投手をやっているというマリアが話に入って来る。


「多少点を取られても逆転する自信があるから、守備でも攻められるの。それに、女子高生は男子やプロと比べるとホームランの確率はどうしても劣るから、四球を出すくらいならど真ん中に投げる方が良いってワタシも思うなぁ」


 確かに、柵を超えるホームランなんて滅多に出ない。

 中学の頃は軟式だったせいかそれが顕著だった。

 ビヨンドマックスという、反発力が高いバットを使えば話は別だが、試合の中で金属バットでホームランを打った人を見たのは1人だけだ。


 それが、天ノ川雫。


 練習でなら友希も打ったことは何度でもある。

 だがそれを試合で、本気の投球を完璧に打ち返せるのは、滅多にない。

 友希がそんな思い出にふけっている時だった。


 前に座っていたマリアの肩がびくっと震える。

 そして、小鳥遊を挟んで2つ隣に座っていた投山も、見たことのない険しい顔をする。


「どうしたんじゃ?」

「……」


 さらに奥に座っている熊捕が少し心配そうに声をかけたが、投山は何も答えなかった。

 いや、答えられなかった。

 その震えが何を示すのか、投山には分からない。


 しかし、マリアには分かった。アメリカで幾多の修羅場を潜り抜けてきたからこそ、分かる。


「ワタシ、あのバッターとは戦いたくない……」


 直後だった。

 女子高生がホームランを打つ機会など滅多にない。そんな話をしていた直後。


 3番に座っていた海乃が、初回に先制の2ランホームランを放ったのだ。

 決して甘い球ではなかった。

 しかし海乃は完璧に弾き返し、美しい軌道を描きながら白球をライトスタンドまで運んでいった。


「これが……全国最強のバッターなのですわね」


 同じくしてホームラン打者を目指す一之瀬が、目つきを鋭くさせながらダイヤモンドを一周する海乃を見据える。


 ……はっきり言えば、試合はこの時点で決した。

 大方の予想通り乱打戦となったが、得点ペースは明らかに翔和女子が上回っていた。

 結果、11‐5で翔和女子も1回戦を突破することとなる。


「さて、ご飯にしようかぁ」


 3試合目は神奈川代表が出ない。

 斡木クラブの試合は別の会場で、4試合目に立浜クラブが出場し、本日の日程は終了する。

 偵察することもなく、ご飯を食べながら純粋に野球の試合を楽しみながら、たわいのない話で盛り上がる。

 

 そして午後4:00、本日の最終試合が行われる。

 関東大会にシードはないが、1回戦で同地区の相手と戦うことはなく、位置だけで言えばシードに座る立浜クラブ。


 関東大会においても優勝候補である立浜クラブがグラウンドに現れた瞬間、歓声が沸き起こった。

 打撃の翔和女子。守備・走塁の斡木クラブ。経験の大田原クラブ。

 関東4強のうち3チームは雑誌などでそう評される。

 そして―――全てを統べる立浜クラブ。


 ……なぜ斡木クラブが、決して低いレベルではないのに「バッテリーをどうにかしたい」としきりに嘆くのか。


 答えは簡単だ。

 立浜クラブのバッテリーのレベルが高すぎるから。


 エースの空見は左腕でスリークウォーター。持ち球は、スライダー、カーブ、フォーク、シュート。

 特にスライダーとフォークは被打率が非常に少ない。


「このチームは……」


 世代交代をして初めての大会だと言うのにも拘らず、誰の目にも「王者の風格」が備わって見えた。


「アイリちゃんたちも、こんなチーム相手に戦うかもしれないなんて、大変だねぇ」


 廃校の事を知らないマリアは、軽い口調で言う。


「でも、どうしても勝たなきゃならないネ! 弱点を見つけて欲しいデス!」

「弱点かぁ……」


 立浜クラブの練習と、2回までの攻防を、マリアは一言も発さずに見守った。

 そして2回が終わり、スコアは3‐0で立浜クラブの優勢。

 そこでマリアはようやく口を開いた。


「難しいなぁ。あの空見っていうピッチャーは本気を出してないみたいだし。だから球種とかコースとか、そう言う弱点は見分けられない」


 でも。

 マリアは続ける。


「ここまでレベルの高い強豪チームは、普通チーム内でも競争して切磋琢磨しているの。……ううん、たぶんここもしてると思う。だけど、例外がいる」


 マリアには、天ノ川雫が春の大会で3年生もいる時分に神奈川ベストナイン。そして全国ベストナインをも取ったと言う事実を知っているわけではない。

 そして、主将の天ノ川が特別な存在だと聞いたわけでもない。

 それでも、この短い時間だけですぐに理解できた。


「あの4番が、キャッチャーが、主将が。天ノ川っていう人だけが、次元が違いすぎる。だからこそ信頼を置きすぎている。つけ入るすきがあるなら、そこくらいかなぁ」


 直後、初めてのランナーは積極的に盗塁を企画した。

 小鳥遊と同レベルの走力および盗塁技術。


 しかし、アウトになった。

 点差があるとはいえ、普通に考えればキャッチャーのビッグプレー。

 それでも当然の結果と言わんばかりに、立浜クラブのナインが喜ぶことはない。


「……でも、凄い人に信頼を置くのって普通の事だと思いマス」

「うん、普通の事だよ。でもね、それが正しいとは限らないの。だって、どんな完璧な人だって癖はあるから。ましてやそれがキャッチャーなら、致命的なミスに発展することもある。一発勝負の世界なら、なおさら」

「……癖、か」


 天ノ川と唯一接点があったのはこの中で友希だけだった。


 天ノ川とチームメイトだった2年弱を思い出す。

 癖なんて有っただろうか。そんなものとはまるで対極な存在だったというのに。

 友希は試合を見ながら思い出にふける。


 ……試合結果は、10‐1で立浜クラブが快勝した。


 そして1回戦が全て終わり、神奈川勢は4チームとも2回戦に進出した。

 2回戦以降は、波乱の幕開けとなる。


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