51話 だって、野球選手だもん!
9回の表、同点に追いついたものの後続が倒れ、9回の裏になる。
7番から始まる下位打線だったが、8番と1番が出塁し、2アウト1・2塁のピンチで主将の大和を迎えた。
バッターボックスに入る大和は本日5打席目で、現在まで4打数2安打。
インコースを全く苦にせず、広角に打ち分ける中距離打者で、大田原クラブの中で最も当たりのいい打者だ。
ミスをすれば終わり。
そのはずなのに、練習試合だからというのもあるが、緊張感が心地よい。
もっと。もっと痺れる勝負がしたい。
フルカウントまでもつれ込み、両チームともにこの1球が勝負だとどこかで感じ取っていた。
投山は100球を超えながらも球威の衰えない渾身のストレートをインローに投げ込む。
大和の打球は一瞬ヒヤリとする打球音を轟かせたが、真中のグラブへと収まった。
「延長ネ!」
胸を撫で下ろすのではなく、次の回へと向けて士気を挙げる。
特に先頭バッターの右京は全速力でベンチへ戻ってきた。
しかし。
残念そうに監督が立ち上がる。
「申し訳ないですがー、試合はここで終わりなのですー」
「何でデスカ!?」
「普通の練習試合なら延長戦をやってもいいのですけどー、大田原クラブは関東大会を控えてますのでー」
「「えー!?」」
監督の言葉に、部員は難色を示す。
それは、相手の大田原クラブも同様だった。
相手が格上だとか、格下だとか、そんなものは関係ない。
一発勝負の高校野球の選手が、引き分けなんて納得いかないのは当然だ。
「この借りは公式戦で返せ。さあ整列だ」
大田原クラブの監督がそう言って手を叩くと、選手もそれに従った。相手が整列しているのに、こちらが渋るわけにもいかず、相模南の選手も挨拶に向かう。
「こんな幕切れなのは残念だけど、いい勝負だった。次に試合を出来ることを楽しみにしてるよ」
「そうだねぇ、公式戦で会えるといいねぇ。関東大会は見学しに行くから、応援してるよぉ」
主将の大和と二宮が握手をすると言葉を交わすと、今まで敵だった相手がまるで旧知の友人だったように映る。
「本当かい? ありがとう」
礼をして、グラウンド整備の後に解散となる。
「じゃあ、また抽選会で」
別れ際に、大和は言葉を残して去って行く。
満面の笑みで手を振っていた二宮だったが、大田原クラブの姿が見えなくなった瞬間、隣にいた友希に聞く。
「抽選会ってぇ、いつだっけ?」
「もうそろそろ、じゃないですか?」
友希も詳細の日時を知っているわけではない。というより、むしろ部員では二宮しか知らない情報のはずである。
「ニノさんは出席するんですからー、ちゃんと覚えてなきゃ駄目ですよー」
そしてもう1人、知っているのは監督である。
「今年の関東大会は神奈川県で開催されるのでー、関東大会の表彰を終えて昼休みを挟んでー、午後に抽選会ですよー。ちなみに表彰は決勝戦の翌日なのですー」
それを聞いて、友希の体がぶるっと震えた。
相模南と大田原クラブは4-4の引き分け。
双方に制限有りとはいえ、確かに神奈川の強豪チームの中へ足を踏み入れたと言ってもいい。
その事実が自信を与え、緊張だけではない体の高揚を引き起こす。
「友希」
武者震いをしたのは友希だけではなかった。
真中も同様に、試合で疲れたはずの体が嘘のように熱を帯びていく。
「いよいよね」
ハマスタに行くと、色々な人に約束した。
「待ち切れないね!」
秋の大会はもうすぐそこ。
だがそこには当然、今日の大田原クラブ以上の強敵が待ち構えている。
その筆頭である立浜クラブ、その主将である天ノ川に、大田原クラブの大和から一通のメールが送信された。




