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Baseballスター☆ガールズ!  作者: ぽじでぃー
第五章 夏休み!
51/150

50話 小さなきっかけ

「やったネ! ミーのおかげで2-0ネ!」

「アイリちゃん、皆のおかげやで?」


 とはいいつつも、ノーアウトで2塁打を放ち、生還した右京の功績は大きい。

 5回裏も無失点で切り抜け、相模南は格上相手に、完全に優位に立っていた。


 しかし、6回の裏。

相手は3順目に入っていく。


「あのアンダースローの子の球種はストレートの他にカットボール、シュート、チェンジアップ。球数を抑えるために初球はカットボールで内野ゴロを打たせたがる傾向が強い。逆に追い込まれればストレートかチェンジアップだな。シュートは負担が強いのかあまり投げていない。これを念頭に、打ち崩してこい」

「「はい!」」


 ……まだシンカーは見せていない。

 相手投手も同じで、まだ手の内を全て見せているわけではない。


 全力ではあるが、制限もある。

 これは仕方のないことだ。だが当然それが、命取りになる。


 主将大和の二塁打を皮切りに、6回裏に3点、7回裏に1点を追加し、スコアは逆転する。


「―――っ!」


 キャッチャーの熊捕は唇を強く噛みしめた。

 ネットで覚えた配球の定石、そして天性の勘。それだけでは足りないことに、勘付いたのだ。


 圧倒的に試合数が少なすぎる。

 勘付いただけでも十分過ぎるが、これから秋の大会に向けて補えるかと言われれば、心もとなかった。


「……」


 8回の表、9回の表と。熊捕は打席に立ったとき以外、相手のキャッチャーと配球だけを見続けた。

 体と心をシンクロさせる。

 自分ならこう、ではなく、このキャッチャーならこう。


 同局面で、全く違うコース・球種を選ぶキャッチャーが2人いても、どちらかが正解・間違いというわけではない。

 それぞれに意図があり、結果論でしか語られない。

 

 成りきる。相手のキャッチャーに。

 例えそれが稚拙なリードだとしても、引き出しが1個増えるだけならリスクなどない。

 しかも今回は、百戦錬磨のキャッチャーだ。

 画面越しでは伝わらない意図が、熊捕の頭に入っていく。


 ……そして、9回の表。二死満塁で友希に打席が回ってくる。

 ドクン、ドクンと。

 友希の鼓動がいつも以上に激しくなっていく。


 それは熱戦による興奮ではない。

 逆境に立たされた者が味わう恐怖によるものだった。


「……ふー」


 1つだけ、深く呼吸を吐く。

 怖い。それは以前と変わらない。

 だけど。


 以前、夜のグラウンドで小鳥遊と真中と3人で話したことを思い出す。

 この恐怖を乗り越えてこそ、自分の目指す世界が広がっている。

 だがもちろん、気持ちを少し切り替えただけでは変わらなかった。


 球速が先の打席と全く違うように感じる。変化球のキレが、段違いに上がっているように見える。

 昔の友希なら、ヒットを打つのを諦めて、カットで四球でも狙っていただろう。


 でも、もう違う。

 強打しかない。

 2点差の二死満塁、逆転打を打つことしか考えなかった。


 当然、ホームランなんて簡単に出るものではない。

 まだ体全体が硬く、本調子の友希と雲泥の差があることは、監督の目にも明らかだった。


 しかし、動画で見た中学の頃の友希とは決定的に違っていた。

 体の震えは収まり、怯えた表情でもない。


「たとえ素人であろうと、バットを持っていれば皆スラッガーですからねー。ヒットを打つ気概さえあれば、の話ですけどー」


 ガキィ、と鈍い音がする。

 ボールの上を叩き、平凡なゴロが転がっていく。


 だが、それは何かに導かれたかのように、3遊間の間を抜いていった。

 3塁コーチャーをしていた二宮が思い切り腕を回すと、小鳥遊は迷うことなく本塁に突っ込んでいく。

 当然、二死で足の速い小鳥遊はセーフとなる。


「「やっっったあああ!」」


 ベンチはお祭り騒ぎになった。

 土壇場での同点。格上相手に、今なおチャンス。

 公式戦かと見間違うほどに、試合は熱を帯びていく。


 塁上の友希はこの小さなきっかけを、胸に刻み込んだ。


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