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Baseballスター☆ガールズ!  作者: ぽじでぃー
第五章 夏休み!
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43話 夏合宿、始まるよ!

 時間は夏休み直前まで戻る。 


「みなさんに重要なお知らせをするのですよー。夏休みもGWと同様、合宿を開催するのですー!」


 監督が合宿の言葉を口にすると、みんなのテンションが上がり、自然と拍手が沸き起こった。

 以前から夏合宿はやると言っていたので驚きはしないが、それでも正式に発表されると嬉しくなる。


「それで監督、夏合宿はいつ、どこでやりますの?」

「聞いて驚かないで下さいよー? 4泊5日ですがー、なんと食費以外の宿泊費は無料ですー!」

「おお!」

「しかもプールつきですー!」

「おお!!」

「買って来れば打ち上げ花火もできちゃいますー!」

「おおお!!!」

「開催時期は8月のお盆明けですけどもねー」


 ……ここで。

 一之瀬、二宮、左門、小鳥遊、熊捕の5人は気が付いた。

 ここらへんが、赤点を回避するかしないかの違いなのだろう。


「すずセンセー、まさかぁ、合宿ってぇ……」

「そうですよー。お察しの通り、学校でやりますー」


 一気に、皆のテンションが下がった。


「嫌なのだ! GWみたいなところが良いぞ!」

「そうですよー、遠出したいです!」

「アメリカにあるミーの家なら宿泊費は無料デスネ!」

「どうでもいいけど、練習試合したいわね」


 普段なら二宮も、監督に対して愚痴の1つや2つこぼすところではあるが、今回ばかりはそうではない。

 むしろ、その矛先は今文句を言った4人である。


「ねぇ……。なぜ学校でやるか分かってないのかなぁ?」

「何か理由があるデスカ?」

「8月の第3週は赤点とった人向けの補習授業だよぉ?」

「……そ、それなら別に、違う日にちにやればいいじゃないですか~」


 ようやく自分達のせいで合宿先が学校になったのだと理解した友希は、目を泳がせながらしどろもどろに呟く。

 正論ではあるが、言い訳にしか聞こえない台詞だ。


「それはですねー。8月の第1週は、教員の旅行があっていけなくてですねー」

「はぁ……」


 仕方無いと言えば仕方無いのだが、あまり納得はできない。


「第2週はお盆なので空けておくとしてー、第4週は関東大会があるのでー」

「関東大会?」


 部員のほとんどが初耳なのか、監督の言葉を復唱した。


「あ、そう言えばお母さんに聞いたことがある! 8月の終わりに関東大会があるって!」

「そうなのですー。強豪……神奈川で言えば先の大会でベスト4以上のチームが呼ばれてー、関東全体では20チームくらいですかねー。8月23日から31日の間と、その後の土日で関東大会があるのでー、それを見に行くのですよー」


 春の県大会ベスト4以上。

 ベスト4どころか、出場さえしていない相模南女子高には関東大会への参加資格はない。

 しかし、秋の大会でぶつかる強豪の、全力とまでは言えないまでも戦力を実際に目にするいい機会ではある。


「それで、神奈川ベスト4ってどのチームなわけ?」

「ベスト4は……大田原クラブと、海乃さんのとこの翔和女子。準優勝が高嶺さんのとこの斡木クラブ。優勝が……立浜クラブ」


 真中の質問に答える友希は、スマホの検索画面を神妙な面持ちで見つめていた。

 練習試合で対戦した斡木クラブは当然として、他の3つの力量も知っている。

 翔和女子については動画でだけだが、大田原クラブと立浜クラブは入ろうかと考えていた時期もあって、体験入部したこともある。


「どうしたのだ?」


 投山に顔を覗き込まれて、友希はハッと顔を上げた。

 以前自分で言った言葉を思い出す。

 強いチームに勝つのが面白い。

 ……それなのに、なんでこんなにも弱気になっているんだろう。


「ああ、そうですー、ちゃんと練習試合も準備してますからねー。対戦相手は、大田原クラブですー。夏合宿の翌日、敵陣に乗り込みますからねー」

「強豪チーム相手に、ハードスケジュールじゃな」

「それは関東大会を控えている相手も同じですよー。調整目的とはいえ、前回と違ってレギュラーが出てくると思いますのでー、頑張ってくださいねー」

「なんで他人事なんですか……」




 ……。

 で、結局。

 四泊五日用の大荷物を抱えて校舎の前に野球部員が並んでいる。


「家に帰ろうと思えばぁ、帰れるんだけどねぇ」


 練習は夜まである。

 室内で出来る筋トレや素振りなどが主だ。

 当然、ボールを使った練習は昼にやる。

 

 しかし、午前中は……。


「赤点を取った人はちゃんと勉強道具も持ってきましたよねー?」


 監督が脅しているような声色で赤点を取った人の肩を叩く。


「一応持ってきましたけど、自分は解答欄をずらしただけだし、必要ないと思うんですが」

「そんな言い訳をする真中さんにはー、2つの選択肢を与えるのですー。補習をやらずに赤点通りの通信簿になるかー、補習を受けて挽回するかの2つですー。まー、その通信簿は年度末のですけどねー。うふふ、もし後期の点数が今回と同じくらいならー、留年しちゃうかもですねー」

「ぐっ……。点数の割に成績が良かったのは年末にそんな落とし穴を作っていたためだったのね……」

「まぁまぁ、雨音ちゃん、私たちと一緒に頑張ろうよ!」

「友希たちとは教科違うわよ」


 赤点を何個とっていようと補習は昼までに終わるので、午後の部活は問題ない。

 しかし。


「遅かったのう、桜」

「友希ちゃんと雨音ちゃんも、お疲れ様」

「アイリちゃんも、なんかやつれた顔しとるなあ」


 炎天下で野球の練習を終えた5人より、涼しい部屋で補習を受けていた4人の方がグロッキーになっている。

 

「さぁみなさん落ち込んでないでー、昼ご飯はお弁当ですよー」


 学校近くで経営しているお弁当屋さんで、定価よりも安く購入してきたものが部員に振舞われる。

 しかも増量サービス付きで。


「はぁ、補習があと4日もあるのかー」

「なんかもう疲れたのだ……」

「っていうか、3教科の友希たちと1教科の自分が、どうして始まる時間と終る時間が同じなのよ」

「それはですねー、真中さんは今日と明日だけで終わらせる予定ですのでー」


 いつの間にか、監督が話に割って入って来る。

 しかも、弁当におかわりがあるのか2つ目である。


「えー、ずるいですよー!」

「おかわりなら向こうにありますよー?」

「補習の話です!」


 監督は口に詰めていたご飯を飲み込むと、文句を垂れる友希の耳元に近づいた。


「赤点3つも取ったのは誰でしょうかねー」

「……すいません」

「まー、大事なのは切り替えですよー。天気もいいですしー、午後はフリー打撃と実戦を想定したケースバッティングをしますからねー」


 監督につられて、友希は空模様を見る。


 空き教室の窓には、青い背景に入道雲が浮かんでいた。

 夏休みももう半分切ってるのかー、なんて、少し感傷的になりながらお弁当のご飯を口に放り込んだ。


 まさかこの後、思わぬアクシデントがあるとは知らずに。


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