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Baseballスター☆ガールズ!  作者: ぽじでぃー
第五章 夏休み!
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40話 夏休み 1年生編その1

「さて、と……。じゃあお母さん、行ってくるよー」

「はいはい。今日は泊まってくるんでしょ? 先方の迷惑にならないようにね」

「はーい!」


 日差しが街を強く照らす夏の午後、友希は家を出て集合場所に向かう。

 部活に宿題、バイト等々。夏休みに入っても忙しい日は続いていたが、今日は違う。


「……ん、この日は学校に入れないんじゃな」


 2週間前、練習後に監督から配られた夏休みのスケジュールを見て呟いた。


「その2日間は私を含めて先生が全員出はらってしまうのでー、休みですねー」


 監督どころか、教師全員が不在というのならば部活は出来ない。

 部室に戻ってから、着替えながら小鳥遊が言う。


「練習が過密なのはいいけど、逆に休みの日に何すればいいか分からないね」

「バイトでも入れるかのう」

「……いや、せっかくの高校生初めての夏休みだし、みんなで何かしようよ!」

「別に自分は良いけれど、何をするわけ?」

「うーん、野球以外だと思いつかないなー」


 海、山、旅行! 

 と様々な案は出たが、1つ重大なことを見落としていた。


「金がないから、遠出は出来ない……」

「……」


 ……結局、いつもと変わらない場所にいる。


「お泊り会をするのは良いのだけれど……」


 赤点を取ったせいで友希の家は駄目となり、そもそも5人入らない熊捕と投山の家も対象外、そして小鳥遊の家も弟がいるからという理由で……。


「自分の家には何もないわよ? ゲームもないし」

「いや、もうゲームは良いよ……。ははは」

「お主、まだトラウマになっとるのか」


 泊まる家は真中の家に決まった。

 そして娘の友人が遊びに来てくれることに感動した父親が、夕食を豪勢にすると言うことなのでそれまでの時間は暇となってしまった。


「元々ウィンドウショッピングでもするっていう話だったけど、5時間はちょっと長いね。何か違うこともする?」


 小鳥遊の提案に、友希は少し考え込んで、柏手を打つ。


「そうだ、バッティングセン……」

「さすがに5時間は無理よ」

「大丈夫だよ! きっといける!」

「5時間は無理じゃな。体力の前に金が尽きるけえ」

「うう~」


 そして、今まで黙っていた投山が隠していた左目をかき上げて言い放つ。


「なら、からおけに行くのだ!」


 反対しようとした真中が声を上げる前に、集団の雰囲気はカラオケに行く様相となってしまい、あれよあれよという内に駅ビルのカラオケの部屋についてしまった。


 部屋に入り準備万端。

 最初にマイクを手にしたのは、友希。


『レディース&ジェントルマーン!』

「男はおらんぞ」

『みんな、飲み物は持ったかー!』

「「「「おー」」」」


 友希の掛け声に、全員ドリンクバーでいれてきたグラスを掲げる。


『じゃあみんな聞いてね! 1曲目、燃える星たちよ!』

「「「「……」」」」


 マイクを持つ友希以外の4人が耳を疑う。

 どこかで聞いた曲名だが、詳しくは分からない。

 だが、タイトルからして嫌な予感がする。


 メロディが流れた瞬間に、合点がいった。


「1曲目にスターオーシャンズの応援歌とはね。友希ちゃんらしいけど」

「……カラオケって、こんなものだったかしら?」


 若干冷ややかな視線も気にすることなく、友希は熱唱しきった。


「ふーっ、スッキリした! 次は誰が歌う?」

「よし、わしが歌うけえ」


 熊捕はデンモクに入力を終えると、友希からマイクを受け取る。


「こ、これは……」


 聞いたことは有るし、有名な曲ではある。だが。


「大分古そうな曲なのだ……」

「昭和の曲ね。良い曲ではあるけれど、女子高生が一曲目に入れるものではないわね」


 下手、というわけではないが上手いわけでもない。

 しかし、こぶしが利いているというのか、なにか心に来るものがある。

 歌い終えると、友希と同様にさっぱりした顔つきになった。


「久方ぶりのカラオケじゃから、少し変だったかもしれんのう。次は……みずき、お主じゃったな」

「なんだか緊張するね」


 小鳥遊の選曲は、ランキングでも上位に連ねる、テレビCMの曲だった。

 あまりテレビを見ない人でも知っている、最近の曲。


 小鳥遊はそれを、しっとりと歌い上げる。


「期待に背かず、ラブソングじゃったな」

「みずきの歌声、心にジーンときたよ!」

「……いや、この曲は別にラブソングじゃないと思うんだけど」


 何故だか良からぬ方向に話が向かいそうなところに、小鳥遊が突っ込みを入れた。


「確かに友情の曲とも取れるけれど」

「みずきが歌うとラヴソングになるのだ!」

「桜ちゃん、『ラヴ』って言うの禁止」


 ふぅ、と小さく溜め息を吐いて、小鳥遊は持っていたマイクを机の上に置く。

 しかし、誰もそのマイクを取ろうとしない。


「まだ歌ってないのは桜と雨音じゃな。はよ次入れんと時間がもったいないじゃろ」

「くっ……。投山、早く入れなさいよ」

「我は今、曲を選んでいるのだ。雨音が先に歌って欲しいぞ」

「なっ! じ、自分はいいわ。聞く専門だから。友希、アンタが歌いなさいよ」

「えー。私も雨音ちゃんの歌聞いてみたいよー」


 期待のこもった眼差しを向けられ、真中は困惑の表情を浮かべる。


「そ、そうよ! 自分も曲を選ぶのに手間取ってて……」

「なら、わしの独断と偏見で曲を選んでやろうか」

「鬼か!」


 熊捕に選ばれるよりは自分で選んだ方がマシだと、真中は急いでデンモクを操作する。

 ランキングに載っている、真中が知っている曲を選び、メロディが流れ始める。

 そして、意を決してマイクに向かって声を出した。

 すると。


(あ、雨音ちゃんのこの歌は……)

(あまり言いたくないけど……)

(音程が合ってないのだ……)

「音痴というやつじゃな」


 真中が歌い終え、皆の時と同じように拍手が起きる。

 心なしか、その拍手が小さいような気がした。


「だから嫌だったのよ! カラオケなんて!」


 同情される様な視線を受け、真中は憤慨した。


「まあまあ。でも一生懸命歌ってる雨音ちゃんも可愛かったよ!」

「そ、そんな言葉に騙されるわけないでしょ!」

「どうどう。女子は少し抜けてるところがある方が可愛げがあるもんじゃ」

「うっさいわよ! 言っておくけど、ちゃんと聞こえたんだから! 自分が歌ってる時にアンタが『音痴』って言ったのをね!」

「お主が昨日のスワンズ×レッドスナーパー戦の件で煽ってきたのが悪いんじゃ」


 熊捕と真中が言い争いをしていた時だった。

 突然、メロディが流れ出す。

 そして、最後の投山が歌い出した。


「こ、これは……」

「上手い……!」


 普段話している声とは違う声質で、音程は勿論、ビブラートなどもうまく使いこなしている。

 おまけに、ところどころ挟む英語の発音もネイティブ並みになっている。


「ムカつくわ。まるで自分が引き立て役みたいじゃない……」

「桜ちゃんって凄いね! 料理も美味しいし、歌も上手いし!」

「ふふん! 我をもっと褒め称えよ!」


 その後は、友希が嫌がる雨音とデュエットをしたり、小鳥遊が本物のラブソングを歌ったり、熊捕が昭和どころか大正の曲まで戻ったり、投山がロシア語の曲を歌い出すなど、時間はあっという間に過ぎていった。


「いやー、歌った歌った!」

「じゃあ次はショッピングなのだ!」


 カラオケ店を出て、5人は駅ビルの中にあるアパレルショップを回る。


「そう言えば友希、アンタっていっつも青色の服しか着ないわよね」

「えー、そんなことないよ?」


 学校では制服、ジャージ、野球のユニフォームしか着ないので、私服を見ることは少ない。

 しかし真中は、数少ないその機会で、友希の青いワンピース姿の友希しか見ていない。


「お気に入りだからね! そもそも私服で外に出ることがないから」

「そういう雨音こそ、シンプルな服しか着ないのう」

「いいのよ。服に必要なものなんて、機能性だけよ。小鳥遊のが派手なだけだわ」

「……だって、僕はこういうの着ないと男の子に間違えられちゃうから。紅葉ちゃんのは男らしいよね」

「別に、男物を買ってるわけじゃないんじゃがの。制服以外でスカートは着る気にならん」


 互いの着ている服について話している中、不敵な笑みを浮かべて仁王立ちしている者が1人。


「もうこんな時間ね。そろそろ行こうかしら」

「そうじゃな」


 時計を確認して、4人はぞろぞろと店を出ようとする。


「ちょっと待つのだー!」

「……何よ」

「おかしいぞ! なんで我の服に誰も興味を持たないのだ!」


 4人は投山のファッションを頭から足まで一通り見て、投山の目を見る。


「その……個性的で、僕はとってもいいと思うよ」


 全身黒、というだけでなく、夏にもかかわらず手袋をつけ、チェーンやアクセサリなどの装飾品を身に付けている。


「……なんじゃ、ツッコんでいいんか?」

「? 紅葉、これが欲しいと言っても譲れないぞ!」

「いや、いらんわ。その……なんじゃ、人には趣味があるからあんまり言わん方がええかもしれんが、髑髏のTシャツは止めといたほうがええと思うぞ」


 熊捕にしては気を遣った言い方だ。友希と小鳥遊と真中は心の中でそう思ったが。


「まあ常人には似合わんだろうがな! 大魔王サタンくらいだろう、これを身に付けられるのは!」


 気を遣った意味がなかったな、と悲しい目になった。

 十人十色で、それでいい。別に、他人の評価を気にする必要もない。

 考えるのも面倒くさかったので、そう思い込み、真中の家に向かうことにした。


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