39話 期末テスト、後篇!
「はい、ではテスト終了ですよー。解答用紙を一番後ろから前に送って下さいー」
3日間に渡った期末テストは、ようやく終了した。
「燃えた。燃え尽きたよ。真っ白な灰にね!」
「燃え尽きたら駄目じゃない。焦げ臭いのは勘弁よ」
期末テストのため席は出席番号順になっており、前に座っていた真中が友希の方に振り向く。
「でもやれることはやったよ! 雨音ちゃんはどうだった?」
「普通ね。周りがどれだけかは分からないけれど、赤点はないんじゃないかしら」
「確か平均点の3分の2だったよねー。ちょっと不安」
そんな話の中に、小鳥遊たちも混ざってくる。
「とりあえずお昼休憩にしようか。一応部活はないけど、今日どうする?」
「もちろん野球だよ! この一週間部活禁止で溜まってたストレスを存分に発散するよ!」
「ふっふっふ! 我が蓄えられし力が遂に解放されるのだ!」
「……まあ、そうじゃのう。テストが返ってくるまではの」
熊捕の言葉に、友希と投山は苦い顔をする。
「そ、そんなこと言って、紅葉ちゃんも赤点になる可能性もあるしねー!」
「そうだぞ! 赤点だけに赤っ恥なのだ!」
「……上手くはないわね」
昼ご飯を食べ終わり、部活は禁止なので近くの公園でキャッチボールをする。
「そう言えばこの前雑誌で見たのだ! オーバースローの方が球速が上がるという事を!」
「フォームが崩れるだけじゃろう」
キャッチボールが終わり、一休憩している最中に友希がおもむろにバットを持つ。
「そう言えば私も、フォームの改善に取り組んでるんだよ!」
「どんな風に?」
「高校生ともなると相手ピッチャーの球速も上がるからね! 前までは足を上げてたんだけど、すり足にしてみたんだ」
「そういやあ、そろそろ対戦相手のことも考えなきゃならんのう」
熊捕はキャッチャーミットの整備をしながら呟く。
他の選手はともかくとして、配球を組み立てるキャッチャーとしては、相手をよく知らなければならない。
「……相手、か」
「どうしたのだ? みずき、顔色が暗いぞ!」
「そうかな? 高嶺さんの事を考えてたら、ちょっとね」
「まさか、それは恋というやつなのだ!?」
「そうじゃないよ。だって僕には……」
焦る小鳥遊を見かねた真中が、小鳥遊の心中を言い当てる。
「同じポジションとして、斡木クラブのキャプテンとの実力差に憂いがあるのね」
「う……。まあ、そうなるね」
「まあ確かに、あの実力は驚きじゃったのう」
高嶺の1つ1つのプレーが、今でも脳裏にこびりついている。
打撃、走力、守備。その三つの掛け算ならば、神奈川で1番のプレーヤー。
しかし。
「あの高嶺って人に対する戦略を練らなくちゃならないのは当然ね。でも、神奈川にはもっと厄介なチームがあるんでしょ?」
立浜クラブ。
神奈川県大会を春夏合わせて10連覇。全国においても毎回上位に食い込む神奈川最強のチーム。
「斡木クラブ、翔和女子、古豪の大田原クラブ。その頂点に立つのが、立浜クラブ」
「……立浜クラブ、か」
素振りをしていた友希が、コトッとバットの先を地面に着ける。
「何か、思い入れでもあるわけ?」
「まあね。今の立浜クラブでキャプテンをしてる人が、私の中学のチームの先輩だったから」
友希は、自分自身の野球の才能について、無い方ではないと自負している。
母親がプロ野球選手で、比較的に幼少の頃から野球の練習に明け暮れてきた。
高い才能とたゆまぬ鍛錬。
友希は同学年の間では、かなりハイレベルな位置にいると言っていい。
だけど。
それは平均との比較。
甲子園に出るような、ましてやプロの世界に足を踏み入れるような人と比較すれば、まだ足りない。
高嶺のように、自分よりも上のレベルだと思う人は何人も見てきた。
しかしながらその高いレベルに嫉妬した相手は、いまだかつて一人しかいない。
現立浜クラブのキャプテン、天ノ川 雫。
尊敬し、嫉妬し、そして畏怖した。
小鳥遊も、高嶺に対して同様の感情を抱いている。
「どんなに凄いバッターでも、我が全員三振に取ってやるのだ!」
「……その楽観的な思考が羨ましいわね」
「でも、そうだよ! せっかくテストが終わったのになんかしんみりしちゃったし、時間がもったいない!」
「しんみりしてたのは、アンタと小鳥遊だけ……」
そんな折に、複数の足音が聞こえる。
「みんな早いねぇ。テストはどうだったぁ?」
「やーっと野球が出来るネ!」
部活はまだ解禁されていないが、全員がグラウンドに集まった。
全国大会に向けて。
これから、野球漬けの日々が待っている。
負けられない、暑い夏が。
……しかし、現実は甘くなかった。
「はい、じゃあテストを返却しますよー」
のほほんとした口調だが、テストの答案を返す鈴木先生の声はいつもより低い気がした。
「……桜ちゃん、どうだった?」
「9科目中、3つが赤点なのだ」
「数学は免れたけど、私も同じだよー。お母さんになんて言い訳すればいいか……」
悲壮感を漂わせる友希と投山とは違い、小鳥遊と熊捕は涼しい顔をしている。
しかし、あと1人は。
「ちょっ、先生! なんで自分の数学の点数がこんなに低いんですか!?」
「いやー、まさかですよねー。マークシートでもないのに、解答欄をずらすのなんてー」
「……!?」
真中は返却された数学のテストを確認し終えると、一言も発せずに顔を赤くするのみだった。
結果。
野球部員9人中、友希、投山、真中、右京の4人が夏休みの補習を受けることとなった。




