『リクエスト』は通らない
条件：「り」「く」「ぐ」「え」「ぇ」「す」「ず」「と」「ど」を使用してはならない
来月は私の誕生日だ。
友人には、希望があるなら先に言うように言われている。何を欲しがってもかまわないらしい。だからこそ、体裁なんて構いもしないで頼んだのだ。ぜひぜひ彼氏いない歴イコール年齢の私のために、合コンを開いてほしいって。
実は我が友人は、容姿端麗、才気煥発、さらに実家は大金持ち。まさに女子が夢見る王子さまみたいな奴なのである。世界的に有名な会社の御曹司らしいが、なぜにそんなお坊ちゃまが我が家のご近所さんなのかはいまだにわからない。
ああいう人種はテレビの中に存在しているのではなかったのか。うちの親もまた彼が幼い頃から顔馴染みだが、いまだに友人が御曹司だなんていうのは何かの冗談のように認識している節がある。御曹司は一般家庭に平凡な夕飯を食べに来ないものね、普通は。
そういうわけで、友人の友人たちもまた、高嶺の花ぞろいなのである。
今まで彼へのお願いで叶わなかったものはない。この間も温泉のパンフを見ていたら、次の日には足も高級ホテルも手配されていた。なぜか彼もついて来たが、まあ出資者なので気にしない。持つべきものは、完璧な友人なのである。
さあこれで私も寂しい単身生活から脱出だ。次の連休には初めてのいちゃらぶお出かけも夢ではないかもしれない。毎回、友人プランを堪能していたが、これからは新しい歴史を刻むのだ。
なんて妄想しながらるんるんで返事を待っていたのだが、一向に返事がない。
しょうがないので風呂に入っていたら電話が鳴った。何やら電話の向こうが騒がしい。繁華街にしては何かがおかしい。確めてみれば、我が家の近所にまで来ているらしい。そこに電話があるのに、なぜ事前に言わないのか。いやはや。
部屋は散らかっているし、私は風呂に入ってしまったせいでパジャマになっているし、親兄弟も外出していて他に誰もいないが、友人は別に気にしないだろうからまあいいか。
それからしばし、彼を歓迎した私は玄関で押し倒されていた。器用に後ろ手で鍵を閉めているのには感心してしまう。
君に紹介できる相手はいない。
うそ、なにそれ。それを言うためにわざわざ、ここまで外車を走らせてきたの？ ちなみにこの友人の愛車は、おベンツさまである。路上駐車していて被害に遭っても知らんぞ。
大事な女を他人に紹介してやるような馬鹿はいない。
はあ、大事な女って、まさか私？ いや、そんなの初耳なのだが？ って、何を勝手に、おい、変な場所に手をつっこむな！
後日、腰が痛い、股関節が変なんて、別の友人に上記の件について不平不満をこぼしていたら、さんざん呆れられた。私たちは、周囲を想定以上にやきもきさせていたらしい。
彼に頼んでいようがいまいが、憧れの合コンは実現しなかったのだ。そう今更ながらに思い知った。
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