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リポグラム短編集〜『あい』を失った女〜  作者: 石河 翠


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『ほしまつり』なんて大嫌い

条件:「ほ」「ぼ」「ぽ」「し」「じ」「ま」「つ」「っ」「づ」「り」を使用してはならない


※星祭は、七夕の別名

 明日(あす)は七夕(たなばた)だ。最近(さいきん)では盛夏(せいか)のバレンタイン(ばれんたいん)なんて呼(よ)ばれているけれど、このイベント(いべんと)にそんな大層(たいそう)なネーミング(ねえみんぐ)はやや贅沢(ぜいたく)だと思う。そもそも、これで七夕(たなばた)なんて読(よ)むのもどうにも腑(ふ)に落(お)ちない。


 子(こ)どもたちは短冊(たんざく)へ願(ねが)い事(ごと)を書(か)くのに夢中(むちゅう)だ。そもそも一組(ひとくみ)の恋人(こいびと)たちが一年(いちねん)に一度(いちど)の逢瀬(おうせ)を堪能(たんのう)するだけの日(ひ)なのに、なぜに他人(たにん)の願(ねが)い事(ごと)を叶(かな)えてくれるイベント(いべんと)に変化(へんか)するなんて。意味(いみ)がわからない。らぶらぶで機嫌(きげん)がよいから、幸福(こうふく)のおすそわけをするのか? みんなの願(ねが)い事(ごと)を叶(かな)えてくれるというのも神(かみ)ならではのおおらかさということなのだろうか。そんなことをするなら、日頃(ひごろ)からそれぞれ勤勉(きんべん)に働(はたら)いてくれたらいいのに。


 面倒(めんどう)くさいと言(い)えば、七夕(たなばた)の日(ひ)の献立(こんだて)だ。どうせならイベント(いべんと)に絡(から)めたメニュー(めにゅう)を用意(ようい)するべきだろうか。だが七夕(たなばた)には何(なに)を用意(ようい)すればよいものやら。イベント(いべんと)固有(こゆう)の食(た)べ物(もの)がないイベント(いべんと)でも、ハロウィーン(はろうぃぃん)では南瓜(なんか)をメイン(めいん)にすることもできるのだけれど、七夕(たなばた)は……。


 アレクサ(あれくさ)に聞(き)いてみると、七夕(たなばた)にはそうめんというのが定番(ていばん)のようだ。これならば簡単(かんたん)にできると喜(よろこ)んだものの、なんと七夕(たなばた)の日(ひ)の幼稚園(ようちえん)の献立(こんだて)がそうめんスープ(すうぷ)であることが判明(はんめい)する。日頃(ひごろ)からから揚(あ)げやらカレー(かれえ)やら、メニュー(めにゅう)が夕飯(ゆうはん)とかぶるることに子《こ》どもたちからクレーム(くれえむ)を受(う)けている。さすがにそうめんでかぶると、子(こ)どもたちも飽(あ)きるうえ、栄養バランス(えいようばらんす)も気(き)になるところだ。


 うんうん悩(なや)みながらテレビ(れれび)で野球(やきゅう)観戦中(かんせんちゅう)の旦那(だんな)に聞(き)いてみたところ、「俺(おれ)は当番(とうばん)だからさ、宅配ピザ(たくはいぴざ)でも注文(ちゅうもん)するのはどう?」なんて返(かえ)された。明日(あす)の夜(よる)は晴(は)れの予定(よてい)だけれど、そもそも雨天催行(うてんさいこう)であるから、待機(たいき)義務(ぎむ)があるそうだ。


「明日(あす)は当番(とうばん)なのね。残念(ざんねん)だわ」

「ささやかだけれど手当(てあて)が付くから。それに生誕祭(せいたんさい)に比(くら)べれば気(き)が楽(らく)だからね」

「警備(けいび)の内容(ないよう)も、速度(そくど)や高度(こうど)が違(ちが)うものね」

「さすが元同業(もとどうぎょう)は飲(の)みこみが早(はや)くて助(たす)かる」


 こちらは元地域課(もとちいきか)といえど、一応(いちおう)よその課(か)の気苦労(きぐろう)もわかる。だが、このところなんとももやもやがとれないでいる。なにせ世間(せけん)がイベント(いべんと)で賑(にぎ)やかなときにこそ、警備(けいび)で大変(たいへん)なのだ。大(おお)きなイベント(いべんと)ともなればなおさらだ。子(こ)どもたちから「パパ(ぱぱ)は今日(きょう)も当番(とうばん)なの?」と言(い)われると、どうにも胸(むね)が痛(いた)い。みんなの安全(あんぜん)は、パパ(ぱぱ)のおかげだと言(い)いきかせているのだけれど、彼(かれ)らの気持(きも)ちもわかるのだ。


 ふと、強風(きょうふう)のせいで開催(かいさい)できずという花火大会(はなびたいかい)のニュース(にゅうす)を思(おも)い出(だ)す。七夕(たなばた)は雨(あめ)が降(ふ)ると、かささぎ隊(たい)の要請(ようせい)のために余計(よけい)に警備(けいび)が大変(たいへん)になるが、それなら七夕(たなばた)がなくなるような出来事(できごと)が起(お)きたならば……。


「きめた、明日(あす)のメニュー(めにゅー)は、ゴーヤチャンプル(ごおやちゃんぷるう)ー、ズキーニ(ずきいに)の天(てん)ぷらに胡瓜(こか)のあえものね」

「君(きみ)のごはんは何(なん)でも最高(さいこう)だけれど、どれも縦(たて)に切(き)らないようにね。いくらみんな慣(な)れているとはいえ、その後(ご)の作業(さぎょう)が大変(たいへん)だろう?」

「ええ、もちろんよ。ただの軽口(かるくち)よ」


 め組(ぐみ)の身内(みうち)は火災(かさい)を起(お)こせないように、銀漢(ぎんかん)治安部隊(ちあんぶたい)の家族(かぞく)がトラブル(とらぶる)を起(お)こすなど言語道断(ごんごどうだん)だ。とはいえ、誰(だれ)であろうとトラブル(とらぶる)はなるべく起(お)こさずにいるべきものなのだけれど。


 天界(てんかい)の営(いとな)みは肩(かた)が凝(こ)るが、人間界(にんげんかい)とやらも同様(どうよう)に制約(せいやく)に溢(あふ)れているのだろうか。はるか先(さき)、地球(ちきゅう)と呼(よ)ばれる地(ち)で輝(かがや)く無数(むすう)の灯(ひ)を見(み)ながら小(ちい)さくため息(いき)を吐(は)いた。

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