『ね』絶やし男と『の』焼き姫
条件:「ね」「の」を使用してはならない
まあ、ようこそお越しくださいました。さあさあ、どうぞこちらへ。
なにぶん辺鄙で貧しい国ですから、特別な品などひとつもございません。それでもささやかではありますが、客人を歓迎する夕餉にいたしましょう。
お酒は嗜まれますか。それは良うございました。これだけはとっておきが、ほらここに。来たるべき時に開けようと決めておりました。ふふふ、ぞっとするほど、美しい紅でしょう?
ええ、お噂は以前から耳にしております。貧しく哀れな民草に庇護を与える、尊きお方よ。
もちろん存じ上げておりますよ。王族を皆殺しにし、首を街道に晒すという悪名高き所業につきましても。
神とは極端な二面性をお持ちでしょう。天罰が些か過激であろうとも、不思議ではございません。
おやまあ、いかがなさいました。
顔色が悪いようですが、思ったよりも早くお酒が回りましたか。あなた様もやはり血が通った人間だということでしょうか。
ふふふ、なぜにそんなことをお聞きになります。もう幾人、灯火を刈り取ったことか見当もつきません。他者に刃を向けたならば、自身に刃を向けられたとしても当たり前。
今更どうして、死など恐れることがありましょう。
暴君であった父を謀殺し、国を傾ける母を骸に変えました。愚鈍な兄を害ない、幼く無垢な弟を手にかけました。
奸臣を八つ裂きにし、一族郎党を処刑したことも、疫病に苦しむ人々を村ごと生きたまま焼き尽くしたこともございます。
血に飢えた気狂い姫とも、全てを消し去る苛烈姫とも。ええ、呼び名など何でも構いません。
申し開きすることは一切ございません。まさか、後悔したことなど。
父が王である限り国は疲弊し、兄が王位を継げば、他国に攻め入られ、いずれも国が滅んだことでしょう。幼過ぎる弟に政治は務まらず、奸臣は好き勝手に国を食い荒らすばかり。
わたくしが政治を取り仕切るには、これが最善であったと今も思っておりますが、王が不要とあらばそれもまた素晴らしい時代ではございませんか。
これでようやっと楽になれます。
ええ、とても苦しゅうございました。皆に憎み恐れられ、誰かに心を許すこともできず。気がつけばわたくしは、ただひとりで冬を生きておりましたゆえ。
どうぞお慈悲を。わたくしに自由をお恵みくださいませ。
例え地獄に堕ちましても、玉座よりは心安らかな場所でございましょう。
ああ、何故でございます。あなたを慕い、心待ちにしておりましたわたくしを、お見捨てになるなんて。
王族であることなど、誇りに思えませぬ。ここは息もできず、ただただ苦しいばかり。わたくしが生きる意味など、どこにありましょうか。これから先も血塗られたまま、ただひとりで耐えよと仰せになりますか!
……いいえ、失礼いたしました。とんだお目汚ですが、お許しくださいませ。
それにしてもいつまで冬が続くことやら。春は誠に遠うございます。
なぜでしょう、お酒が妙にほろ苦いような。こんな夜は人肌が恋しくてかないません。
ご無体な、何をなさいます。どうぞ、お離しください。守ることもできぬ戯言に誑かされるほど、愚かではありませぬ。本当に、神と呼ばれるに相応しく崇高で、悪魔と呼ばれるに違わない傲慢なお方。嘘だとわかっていてもなお、甘美な味に囚れてしまいそう。
まあご覧になって。袖がすっかり濡れてしまいました。古い城ですから、雨漏りでもしたに違いありません。
もう夜も遅うございます。明日は朝早く発たれるとか。お身体に障りがあってはなりません。どうぞ今宵はゆっくりとおやすみくださいませ。




