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『あい』を失った女
この作品を書くきっかけになった暁 乱々様に感謝申し上げます。
未読の方は、「『か』の消えた世界」をぜひご覧ください。(https://ncode.syosetu.com/n9932ei/)
条件:「あ」「い」を使用してはならない
どちらへ進めば、光が見えるのだろう。
雪のように降りそそぐのは、寂しさと切なさ。そして、底知れぬ孤独だけ。
苦しみに満ちた、この場所は寒すぎる。わたしの言葉は、白く立ちのぼり、儚く散るばかり。誰かに寄り添うことさえ叶わず、ただひとり凍えてゆくのだ。
掌の向こうの温もりが消えた日を、わたしは覚えておらず。
悲嘆にくれ、かすかに震えるわたしのことを、君は知らず。
ふたりの道は、もはや永遠に別れてしまった。失った君の熱が、さらに寒さを際立たせるなんて、皮肉な話だ。ほら、風が蔑むようにわたしの髪をなぶる。
それでもわたしは、君に捧げよう。
もはや言葉にすることもできぬ、恋情を。誰の耳にも届かずとも、ただわたしが覚えておけば、それで十分なのだから。
失われた「あい」は果たして何処に。