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廃墟の街/俺にリーダーは似合わない

 長い夜が明け、朝が訪れた。

 大欠伸をかき、水を一杯。

 全身から失われた水分が補充され、少しだけ思考がクリアになって来る。

 みんなも起き始めていた。


「おはようございます、皆さん。さ、それじゃあ行きましょうか?」

「落ち着けって、ミンク。まずは飯食ってからだ。だろ?」


 マイトははやるミンクを押さえ、ミンクは恥ずかし気に赤面した。

 ほんの数時間の間に仲良くなったものだ。

 そう言えば、夜二人が何か話していたのを思い出した。

 内容までは分からないが、しかし上手くやりやがって。

 村ではモテなかったのに。


 周辺から食べられそうな果物を採集し、バッグから保存食を取り出す。

 過剰なまでに塩漬けにされているので、少し塩抜きするのがポイントだ。

 パッサパサだった肉に少しだけ汁気が足されるので、食べやすくなる。


「次は第二チェックポイントだよな。どんなもんがあるんだろうなぁ?」

「さてな。地図で見てみると街みたいなものがある。考えられるとすれば」


 宝探し、リレー、あるいは鬼ごっこ。

 少なくとも街の地形を使ったものであることは予想出来る。

 出来れば降りる前に一度、街の全景を見ておければいいなと思った。


「さてと、行こうぜ。願わくばこのまま楽に進めますように……」

「えー、楽に進めちゃ面白くないじゃん。もっと楽しもうぜ、これを!」

「そうですね。どうせやるんなら、楽しんだ方がいいですよね!」


 昨日も思ったが、この二人は波長が似ている。

 多少理性的な分、ミンクの方がマシか。

 大きなため息を吐く俺に、フェリックは苦笑した。

 お互い押さえる立場はキツいな。


 悲観しても始まらない。

 こいつらの相手をすると決めたんだ、最後まで頑張るとしよう。

 チェックポイントである街には昼までに着くことが出来るだろう。

 俺たちは鬱蒼とした森の中を進み、目的地へと急いだ。

 木々に覆われ、光さえ遮られている。


「昨日のあれは凄かったですねぇ……

 あんなのに巻き込まれたらと思うと、僕は」


 フェリックは昨日の争奪戦を思い出し、顔を青くした。

 俺もあんな戦いに放り込まれたら生きて帰って来られるワケがない。

 マイトは楽しむだろうが、それでも無理だろう。


「襲われるかもしれない。注意して進もう、昨日までと同じじゃいられない」

「私たち以外にも、テストをクリア出来なかった人があんなにいたんですね」

「聞いた話じゃ、俺たちがやったテストはまったく同じものだったみたいだな。

 フェリックがいなきゃ俺も無理だった。俺たちを弾き出すためのテストだ」


 貴族なら写本や本物を見たりして、図柄が分かったのだろう。

 もしかしたら、ヒントが部屋にちりばめられていたのかもしれない。

 俺たちのような平民にはあれを目にする機会がない。

 圧倒的不利な状況からスタートしなければならないのだ。


「警戒しておけよ、お前ら。

 どこからか襲い掛かってくるかもしれない。例えば――」


 瞬間、俺は身を沈めた。

 直後、藪の中から何かが、人間が飛び出して来た。

 それは血走った目をしており、剣を両手でしっかり持って振り下ろした。

 直撃を喰らえば、人間の頭くらい簡単に叩き潰せるだろう。


 ギリギリのところでそれを避け、両手を地面に着く。

 腕で体を持ち上げ、落下してくる男の足に風車蹴りを喰らわせた。


 落下の方向を急激に変えられ、男は肩口から地面に激突した。

 苦悶の叫びをあげる男の頭に、マイトのチョップが炸裂。

 男は白目を剥いて気絶した。


「早速来やがったな。残念だが、お前の星は頂いておく……」


 そう言ってマイトは悪い顔をしながら懐を探ったが、すぐに真顔になる。

 どれだけ探しても星が見当たらないのだろう。

 予想はしていたので俺はやらなかった。


「こいつ、星を持ってねえ!

 ってことは、あそこでもう奪われた後ってことか!」

「ああ、星がなくなっても即脱落ってわけじゃないからな。

 ようするに、最後に星10個を集められりゃいいんだ。

 取り戻す機会を伺っていたんだろうなぁ」


 逆も考えられる。

 すなわち、星を独占するような輩だ。

 自分にとっても、相手にとっても星は生命線。

 それを使って何かをしよう、ってやつが出て来たって不思議ではない。


「ま、こういう奴も今後は現れて来るだろう。

 油断するな、相手は化け物だけじゃない」


 ガサリ、とまた叢から音がした。

 俺たちは弾かれたようにそちらを見る。

 そこにいたのは雄牛と蛇、どちらも臨戦態勢と言う感じだった。


 更に、反対側からも音が聞こえて来る。

 ちらりとそちらに視線を向けると、人がいた。

 休む暇さえもないってことか。


「取り敢えず、切り抜けるぞ。マイト! 牛の方はお前に任せた!」

「おう、お前は蛇の方をやれ! ミンク、フェリック! ついて来いよッ!」


 俺たちは武器を構え、怪物どもに向かって突撃していった!






 油断ならぬ強敵であった。

 俺はついさっきまで行っていた戦いの記憶を胸に刻み付け、先に進んだ。

 さすがは人造生物、そして騎士採用テスト参加者である。


「ギリギリでどうにかなりましたね。

 この先もこんなことが続いて行くんですか……」

「なーに、余裕だっての。なあ、クレイン?」

「調子に乗るなよ、マイト。俺たちは星を取れちゃいないんだからな」


 俺たちに襲い掛かって来たのは、星を持たない連中だけだ。

 当然、星をもぎ取った奴らがこちらに攻撃を仕掛けて来る意味はない。

 チェックポイントをクリアするだけで、あいつらには十分な星が手に入る。

 逆に言えば、俺たちがあいつらを倒すしかない。

 依然状況は不利だが、進んで行くしかない。


 森の中を少し進んで行けば街に着く。

 だが俺は先に高台に向かうことを提案した。

 一度全景を見ておきたかったのだ。

 そして、結果としてそれは正解だった。


「先にやっている連中がいるな。結構、マジでやり合ってる……」


 街一帯に展開した連中は二つの陣営に分かれて戦っている。

 赤と青の腕章はチーム分けだろう、その内一人が(フラッグ)を持っている。

 結構大きくて、重そうだ。あれは持ち辛そうだ。

 両陣営は旗を持ったものを守りながら、相手の旗を奪おうとしている。


 加えて、チーム分けは極めて分かりやすい。

 片方は薄汚れたチンピラ然とした格好、もう片方は小奇麗な御貴族様。

 この島でどうやってあの格好を維持できるのか、謎だ。


 ともかく、戦いの決着はすぐについた。

 平民軍は星の争奪戦で傷つき、疲労している。

 反対に貴族軍は気力、体力ともに充実した状態だ。勝負にさえならない。

 あっさりと平民たちのフラッグが奪われた。

 笛の音が鳴り響き、試合終了が告げられた。


「旗取り合戦か。面白そうだなぁ、これ。早く行こうぜ、みんな!」

「ちょっと待ってろ。街の地図を頭に叩き込んどく……

 きっと役に立つだろうからな」


 意気揚々と去っていく貴族たちと、むせび泣く平民たち。

 クソッタレめ。こうなったら目にもの見せてやろうじゃねえか。

 手前らの思い通りにはさせねえぞ。




 高台を降り、俺たちは街へと向かった。

 下に降りなければ分からないことだが、街の外周に白線が引かれている。

 これより先に出てはならない、ということだろう。

 しっかりとルールの整備された試合のようだ。

 チーム分けが不公平でさえなければだが。


「ホッホッホ、よく来たなぁ、若いの。なかなか骨のある連中じゃ」


 そこには、白髪と白髭の爺さんがいた。

 ドームで出会ったのと、同じような。


「もしかして爺さん、あんたがこれの審判全部受け持つってこと?」

「安心せい、そんなことはせん。ドームにおったのはワシの双子の弟じゃ」


 ああ、なるほど。それなら納得だ。

 辺りを見回すと俺たち以外に先客がいた。


 五人の貴族。

 巻き毛の金髪女、寡黙な赤毛の男、生意気そうな金髪のガキ。

 中にはアナンの姿もあった。

 俺たちを見るなり、さっきに満ちた目を向けて来た。


 だが、俺を驚かせたのはそれではなかった。

 最後の一人が、問題だったのだ。


「……ウルザ=ダイル」


 対峙しているだけだが、俺の頬を冷たいものが伝うのを感じた。

 Bブロックでの戦いを見学させてもらったが、まさに規格外だった。


 戦闘訓練を積み、魔法の練習をしたはずの貴族が、まるで相手にならない。

 一振りで剣士が吹き飛び、軽く作り出した魔法が魔法使いの全力を相殺する。

 それだけの力を持ちながら、まったく慢心が見えなかった。


「ダルク『様』だろ、平民。アンタ、口の利き方知らないのかい?」


 巻き毛が挑発するように言った。

 ニヤニヤとした笑みが気持ち悪い。


「王爵様だよ? アンタたち何ぞがお目にかかれる人じゃない!」

「王爵……!」


 マイト以外の面々が、俺を含めて呻いた。

 それほどの高位者が、なぜこんなところに?


「よせ、モリア。いまの俺はただの参加者、それだけだ」


 だがそんなモリアをダルクは諫めた。

 首根っこを掴まれた猫のようにモリアは縮こまった。

 そんな様子を、アナンは面白くなさそうに見ていた。


「そろそろいいかの? ではこれより、チームマッチを始めよう」


 俺たちの前に二色の布が置かれた。

 ダルクは赤を取り、俺は青を取った。


「うむ、それでは二人にはこいつも持ってもらおうかの」


 そう言って、青のフラッグが俺に渡された。


 あれ?


「え、ってことは……俺がこれを取られたらその瞬間、試合終了ってこと?」

「何じゃ、見とったのか。それなら説明の手間が省けていいのぉ」

「んで、向こうはダルク……様がフラッグを持つ、ってことでいいんですか?」

「そうじゃ、よく分かっておるな。では、頑張るんじゃぞぉ」


 こ、この爺。所詮は貴族側の人間ってことか。

 この状況、あまりに不利だ。


 向こうは難攻不落のダルクが旗を持ち、片やこっちは俺。

 どう控えめに見積もっても並より上くらいの俺が旗を持たなければならない。

 マズい、マズいぞこれは。


「ああ、ちなみに旗の形を変えたりどこかに置いたりしてはいかんからな?」


 釘を刺された。

 初戦での俺の行為が知れ渡っているのだろう、対策されている。


「待って、待って、待ってください。

 あっちは5人、こっちは4人。手が足りないぞ」

「そう言うこともある。いまここにいるのはお主ら4人だけじゃ。

 待っても多分、来ないじゃろ。

 別に時間をかけてもいいが、不利になるのはお主らの方じゃと思うが?」


 確かにその通りだ。

 時間をかければかけるほど、星が足りない俺たちには不利になる。

 だが、この状況で真正面から当たることになれば……


 確実に負けるだろう。


「ならば、私がそちらのチームの5人目になろう」


 まったく気配を感じなかった。

 俺たちは全員、弾かれたように声のした方向を見た。


「少し待っていただいたからな。

 こちらに来ることが出来た。よろしいか?」


 そこにいたのは、目深にフードを被った少女。

 全身を覆い隠したロウ=ツィルだった。


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