↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/74

シアと彼

シア「ん…んぅ」

目を覚ます。いつも通り6時丁度、着替えを済ませ、顔を洗い髪型を整えると、シアの一日は始まる。

まず最初は、洗濯物を干す事から取り掛かる。

以前は大所帯だったが、今は自分と彼の分だけの為、楽である。

身長の低い彼女は木製の台に登り、手慣れた速さで物干し竿に掛けると、続いて食事の支度へと移る。

ご飯、味噌汁、肉じゃが、目玉焼きを2人分、ササッと作り上げると、彼の部屋へと向かう。

シア「フィアさん、ご飯できましたよ」

いつも通り、扉をノックしそう告げるが…いつも通り、彼からの返事はない。

音を立てないようにそっと扉を開け、足音を消しながら部屋の中に入る。

安らかに眠るその寝顔を見ると、今日も一日、平和な日が続くのであろうことを実感する。

頭を撫でてみる。彼の銀髪は、毎日しっかりとシアがケアしている甲斐もあって、サラサラとしていて触り心地がいい。

彼らの前では見せたことのない穏やかな笑みを浮かべながら暫く撫で続けていると、彼が目を覚ました。

「……。」

目を開き、頭を撫でているシアとその手を交互に見ると、再び彼は目を閉じた。

瞳は何も映さず、何を捉えているのか解らない。まるで人形のようであるが…頭を撫でられて、安心して再び眠ってくれているのだと思うと少し嬉しい。

シア「…起こさなきゃなんだった」

ここに来た目的を思い出し、寝ている彼をなんとか起こさせるのに、ご飯が冷めるだけの時間が掛かってしまった。


基本的に、そこまで彼は何もできないわけじゃない。ご飯を用意したなら食べるし、家事手伝いを頼むと手伝ってくれる。

だが…頼まれなければ、何かされなければ、彼は動かない。生きていく上で必要な最低限しか、彼はしない。

しなければならない家事を全て終わらせ、ソファに何をするでもなく座っている彼の横に腰を下ろす。

シア「フィアさん、お茶入りますか?」

尋ねてみるが、特に彼女はリアクションを示さない。余程のこと、例えば殴って、等を告げてみると首を振るのだが…。

取り敢えず、と2人分の麦茶を目の前の机に置く。

そのコップを視界の中心に置き、動きが停止すること10秒、彼はコップを手に取ると、少しずつ飲み始めた。

シア「…喋ってくれたらいいのに」

客が一人も居ない時に比べれば寂しくはないが、全員が集まっている時に比べたらやはり寂しい。

しっかりしているが、それでもまだ…彼女は子供である。


やっぱり…待つだけじゃダメなのかな。

だが、ただの少女であるシアに出来ることなんてこれ以上、ありはしない。いっそのこと闘い方を自分も習おう、なんてことも…怖くて出来そうになかった。

途端に、自分がやっていることが、何もかも無駄なことなのでは無いか、と悪い考えが脳を支配する。

貴方が居なくなったら誰がみんなの家事、面倒をみるの?貴方にだって大事な役目があるよ。

そう諭してくれる人も今は…心を失ってしまった。

本を読む気にもなれず、溜息混じりにソファから立ち上がる。机とソファの間、彼の目の前に移動すると、彼と目を合わせるためにカーペットの上に立膝を立てる。

シア「…聞こえているんですか?もうそろそろ、元に戻ってもいいんですよ」

試しにそんなことを言ってみる。

あ、そうなの?

なんて風に元の彼の調子に戻ってくれることを、期待してたわけじゃない。それでもやはり…何のリアクションも見せない彼に、シアは思わず涙を零しそうになる。

潤い出した瞳を、最早誤魔化すことは叶わない。

どうせ今の彼の意識なんて、合って無いような物だ。

シアの身体は細く小さいため、スルリと、身長差約20cmの彼の身体の中…つまり、彼の股の間にストンと座ることができた。

シア「…ぇへへ」

なんだか…少し、照れくさい。

たまにはいいよね。ご褒美だ。うん、私…頑張ってるもん。

シア「……。」

それでも、まだ足りない。心酔しかけていた意識は冷め、シアは途端に冷静になりだした。

彼の中で縮こまっていたシアは、少しずつ、そっと彼に寄りかかりる。

…おっきいな……胸。

枕代わりにしてみたが、やはり大きい。…理想の姿、そう言っていたし、大きい方が好きなのだろう。

トクン……トクン、と彼の鼓動が聞こえてくる。やはり、生きてはいるのだろう。

…この位置、包まれているみたいで…何か、温かい。

…もし抱き締めてくれていたなら、もうずっと此処にいたい、と思ってしまったかもしれない。…してはくれないだろうけど。

…やはりまだ足りなくて、溜まっていた寂しさは誤魔化しきれなくて、遂に堪え切れなくなった涙が零れだす。

今のこの状況だって、自分が勝手にやったもので、彼に呼ばれたからじゃない。なんだか1人で人形劇をしているようで、ただただ虚しくなった。

…このまま寝てしまおう。起きたらもしかしたら、彼が元に戻っているかもしれない、なんて起こるはずの無い願いを込めながら、シアが目を閉じかけた。

その時…ストン、と何かが自分の頭に乗ったのを、シアは感じた。

思わぬ違和感に驚き眠気が何処かへ飛んでいく。

…な、何が乗ってるの?う、動いても大丈夫かな?

そこまで重くないが、軽くもない。乗っているそれが動く様子はないが、なんなのか解らない以上、下手に動いてはまずいかもしれない。

…しかし、それの正体はすぐに解った。

次に来たのは細い腕で、ちょうどその真ん中に居るシアの胸上辺りに回された。

シア「あ…」

ストン、と何かが自分の心に収まったのを感じ、そしてそれの正体に、シアは気付いた。

彼がシアの頭に顎を乗せ、腕を回したのだ。

目に見える効果が無い、つまり、意味のない行動はしなかった彼がようやく動き出したのは、傷付いた彼女の心を癒す為だった。

溢れてくるのはやはり涙で、しかしその涙の理由は違った。

シア「…ありがとうございます。フィアさん」

その言葉に返事を返すことはせず、彼はただシアを抱き締め続けている。

でも…今はそれでいい。心は…ちゃんと育っている。少しずつでも、いつかきっと帰って来てくれるって、解ったから。

彼に生まれた小さな(やさしさ)に包まれながら、シアは深い眠りについた。


忙しい時期になってまいりました。来週いっぱいまで忙しくなるので、更新がストップしてしまいます。何卒ご理解ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。