信頼者
彼女が答えを告げた。
そしてそれが、彼の心に響き渡る。
木島「…本当、もう少し早くあんたと会いたかったぜ」
はぁ…とため息をつき、苦笑いのような、諦めのような、決して良いものではない笑みを浮かべた。
木島は宙に浮かんだ杖を手元に引き寄せ、視界を哀れな人々から、空へ伸びる紫色の糸へと移した。
木島「動機についてはまぁ正解。重力魔法が完成したことは忍の里に漏れ、あまりにも危険であるからと、俺は…俺達は、何度も殺されそうになった」
いやぁあいつら、強かった。そう疲れたように笑いながら、懐かしむように語った木島の真意は計り知れない。
木島「初めは、誰でも使える便利な移動手段を開発する筈だったんだが…気がついたらこんな兵器が生まれちまった。秩序を遵守するあいつらは、重力魔法の開発者を消して回っている。どうやら…俺が最後らしい」
語っているうちに、今にも彼の涙は溢れそうだったが…彼は涙を見せない。涙は…既に枯れ果ててしまったのだろうか。
木島「同僚、親友が死んで…日に日に刺客は強くなっていった。…だが、刺客に追われながらも…俺は何とか、このローブを完成させた」
クイクイ、とモノクロのローブを指し、木島は自慢気な表情を作った。
木島「フードまで被ることで存在感を完全に消し去る。魔力探知にも、索敵にも、引っかからない。科学技術的な物のセキュリティに引っ掛ろうと、追ってくる人間は俺に気づけず、自然とスルー…。完璧だろ?」
表情を崩さず、木島は自慢気に語った。そして、メニューウィンドウをスイスイと手慣れた手付きで操ると、彼が着ている物と同じコートが現れた。
木島「最も、あんまりにも目立つ行動を取ると、流石に引っかかっちまうんだがな。…あんたはなんだかんだで生き残りそうだし、これ、やるよ」
a「…いいんですか?これ、闇討ちとかできちゃいそうですけど」
木島の行動に戸惑い、aは受け取れない。そんなことをしてきた意味がよくわからないからだ。
木島「闇討ちしないだろ、あんた。第一、一旦視界から外れてから着なきゃ存在感消えても大して意味ねぇから、仮に視界から消えたら全力で逃げりゃいいだけだし」
いいから受け取れ、と木島がコートを投げ渡してきたのをなんとかキャッチした。
a「…ありがとうございます」
木島「おう」
コートを受け取り、早速メニューウィンドウに仕舞い、そこから【装備】をする。
木島「火とか斬撃とか、そこらへんも多少なら防いでくれる。修理は…魔道院にいる、加山、っていうのに頼んでくれ」
さて…と、ゆっくりと立ち上がり、木島は杖を空に掲げ、隕石に伸びていた糸を断ち切った。
木島「もうこんだけ近づければ、まぁ十分だろ。俺は転送装置の辺りを見に行くつもりなんだが、一緒に来るか?」
これだけの騒ぎを起こしたのだ。あのコートで気付かれないとはいえ、いつか、何かしらの手段で捕まるだろう。生き残ったとしても最期であろう自由を、自身の好奇心を満たす為に使う。素晴らしい学者魂である。
a「そうですね。…私も、どうなってるのか気になりますし、行きましょう」
彼女もその生き方に習うことにした。
杖を宙に浮かせ、木島はそれに、スケボーに乗るかのように飛び乗った。
続くaは翼を広げる。
それはどういう作りなのか、服を擦り抜けるようにして現れた為、コートが破れることは無かった。
大きく広げられた翼の先端部分、全体の2割程が、黒く染まっていた。
木島「実際に見るのは初めてだが…なんで黒く染まってるんだ?」
ふわりと浮かび上がったaは自身の翼を振り返り、黒い部分が増えていたことに気づいた。
a「この、翼の色は、私の心の色を表しているらしいです。今は8割が白くて、2割が黒、つまり…それだけ闇に染まっているということです」
木島「ふぅん…。へぇ」
なるほとなるほど、と納得したようにうんうんと木島が頷いた所で、一瞬、ブシャ!という水の弾けるような音がした。
そしてその発生源を振り返ると…海が水柱に乗り、aを追ってきたんだろう、あれ…?と不思議そうに二人の目の前でキョロキョロと見回していた。
木島「…こいつは?」
しかしコートの効果で、二人に気づく様子はない。
水柱から屋根へ飛び移り、んん…?と考えに耽り出す。
a「私の…ただ一人の友人ですかね」
木島「へぇ…」
どうしたものか…。と海に同じく考え込みそうになっていた所で、海が先に考えをまとめ終えた。
先程のaと同じように、水の魔力を貯めだしたのだ。
木島「んで、どうする?……連れて行きたいなら俺は構わんが」
a「あ、いいんですか?」
木島「ああ。…ただ、俺が犯人なのは解ってるだろうし、時間も惜しい、3分で説得してもらうぞ」
頷き、海の背中をちょんちょん、と叩く。海が振り返る。それに合わせてフードを取った。
海「a?どうしたんだそれ」
a「時間がないので簡単に説明します。1.私の後ろに犯人がいます。2.でも和解しました?3.今から転送装置の周りがどうなっているのか見に行きます。ここまでいいですか?」
スラスラとそう告げられ、海はまた、頭痛にやられだす。
海「…は?犯人が後ろにいる?和解した…?」
どういうことだよ、と頭を押さえている海の様子を気にかけつつも、言葉を続ける。
a「それで、一緒に来ますか?どうしますか?決めてください」
海はなんとか理解しようとしつつ、取り敢えず事実は事実なのだろう、と受け入れることにした。
海「…待て、あの隕石はどうするつもりなんだ?放置するつもりか?」
a「止められるかどうかは置いておいて、止めるべきかどうかを今から見定めに行くんです」
…視線が交錯する。お互いを見つめ合うその様は、目に見えない何かを、お互いに確認しあっているようにも思えた。
aは後ろをチラリと振り向く。木島は未だフードを着けていたが、存在を確かに認識出来た。…このフードの性能については、色々と研究する必要があるかもしれない。
木島がニヤリと笑っているのに合わせ、小さく微笑み返す。その笑顔に罪の意識などありはしない。
海「…解った。ついていこう。…で、犯人はどこに?」
信じてるぞ、そう言われているようで、少し嬉しい。あれだけ適当な説明でも信じてくれた海は、ある意味異端なのかもしれない。
木島「ここだ」
木島がフードを取る。ニヤリと口角を上げた木島に訝しげな目を向けながらも、海はよろしく、とだけ挨拶を交わした。
木島「さて、行くか」




