理解者
aは小さく首を横に振った。
a「…ここで簡単に手を取るような人を、貴方は望んでいるのでしょうか」
二人の目線が重なる。
…似ている。目が。目つき、雰囲気はある程度偽れるが…目、だけは嘘をつけない。
嬉しさからか、目元を右手で覆い隠し、犯人は口角をニヤリ、と思いっきり上げた。
?「ク、ククク…クッハハハァッ!!!やぁ〜っと俺が救われる時が来たか…。俺は木島 吉二、あんたは?」
そう名を名乗った彼は、何処か嬉しそうな感じがしたが…それでもどこか、達観しているというか、諦めているかのようにも感じにも思えた。
a「a、と呼ばれています。…木島さん。幾つか聞いていいですか?」
木島「おう、何でも聞いてくれていい」
気前の良さそうな笑み、とはとても言えない。どちらかと言うと不気味?な笑みでそう答えた。
a「まず、この隕石を止める気はありますか?というか、止められるんですか?次に、何故この学校を中心に選んだのか、及び動機。最後に、貴方もこの位置だと死んでしまうと思うのですが、どうする気なのですか?」
面倒だった為か、時間に迫られているからか、aはそうまとめて尋ねた。
木島は屋根の端に立ち、足元の生徒、教師達を、哀れんだ目で見下ろし出した。
木島「…最初のを教える気は無い。…最も、あんたなら解りそうだが」
それはそうだろう。彼にとって、aは理解者に成り得そう、という立場だというだけであり、敵である可能性も拭い切れていない。
何を眺めているのだろう…。と彼の背中を見つめていたaだが、意を決して、彼の隣に腰を下ろした。屋根に足をぶら下げ、彼と同じく下を眺める。
恐らく残り25分ぐらいであろう。
何処かへと走っていく者が半分程、その場で誰か、大切な者に電話をしている者、友人と語らい合っている者もチラホラと見られた。
木島「この学校を選んだのは単純に、戦力が一番少なかったからだ。偏差値も中間程、そのくせ、人の数は他よりもかなり多かった。格好の的って訳だ」
そう…。この地域は最も戦力的に弱い、加えて襲撃事件が合ったから、aはこの街に来た。aは大天使に聞いたから、なのだが…戦力が少ないことを、木島がどうやって知ったのかは解らない」
木島「動機は…。そうだな、因みに見当付いてたりするのか?…流石に無理か」
口元に手をやる。
幾つかの情報を纏めよう…としたのだが、そもそも得ている情報が少ない。
a「予想ですし、幾つか候補がありますが…。最初は、誰かしらに恨みがある、と。ですが無差別でしたし…いえ、お前が仲良くなったから〜とか、お前がこの学校にいるから〜とかの鬼畜責任転嫁の可能性…も……いや、無いですね」
木島「なんだよ鬼畜責任転嫁って…」
苦笑いを浮かべる木島に御構い無しに、aは続ける。
a「だとするなら、重力魔法の見せびらかし…いや、最初に襲撃したのも貴方の刺客なのであれば、その確率は…。そもそも、最初に襲撃した理由が、戦闘力を削ぐ為、ぐらいしか思いついてないんですよね…」
木島「当たってるぞ、それ」
a「え?」
予想外の言葉に思わず顔を上げ、木島と目が合う。
木島「ここが一番狙いやすかったからな。結構前から当たりを付けてた。…つまり、かなり前からの計画だ、っていうヒント」
さてさて、ここまで言えば解るか?と木島は頬杖をつきながらニヤニヤしだした。
…最初の、研究させてくれ、という誘い。誘いに乗るはずが無いことは、彼女の立場を考えれば解ることだ。
だが…彼のあの表情、もし手慣れていたいたとしても…嘘だという感じは見られなかった。
a「………貴方は、死のうとしている。そして最期に…往年の疑問を晴らそうとしている」
目を見れば解る…なんてものじゃない。ただの推理と直感だ。
仮に逃げれたとして、魔法が存在するこの世界では、いずれ捕まることは解っている筈だ。そして、そこまで解っているこの人がこんなことをするのは…やはり、賢いが故の理由なのではないか。
どうせ死ぬのなら…そう考えてしまったから、この状況なのかもしれない。
ーーそして…aを誘った時……彼は忘れてしまっていたのかもしれない。自分が死のうとしていることを。理解者の登場によって。
……例えば、一週間後に嫌なことがある、そう言われて、それをなんとかする為に行動していた。でもその途中で、興味惹かれる物と会ってしまったら…?
一瞬、未来のことは忘れてしまうだろう。
いや、そんな人類学、精神学、生物学的なものは、参考程度にしかならない。…自分の感覚を…ココロを信じて、思うがままに告げてみようじゃないか。
木島「…その疑問は?」
ごくり、と鳴った喉の音は果たしてどちらのものだったか。
もし…彼が心から望んでいた回答をぶつけることが出来ていたとしたら…彼の歪み具合、今、世界はどういう状況に立たされているのか…解ったかもしれない。
a「…逃れられない死の30分前、人がどう生きるのか」




