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白い美少女

あらすじ

25歳の若き作家ユン・シウは、ソウルの喧騒と、次回作への重圧から逃れるため、祖父母の故郷である北海道・小樽へ逃避行にやってきます。初夏の小樽運河近くの横断歩道で、シウは白いワンピースに麦わら帽子をかぶった神秘的な美少女に目を奪われます。その姿は、大女優である母の元に残されていた正体不明の古い写真の女性にどこか似ていました。信号が青に変わり、吸い寄せられるように歩み寄ったシウに対し、少女は澄んだ美しい声の韓国語で「韓国の方ですか?」と話しかけます。日頃は社交性に難のあるシウでしたが、理屈抜きの喜びから穏やかに微笑み、「そうです、韓国人です」と紳士的に挨拶を返すのでした。

ソウルの喧噪から逃げ出したくなるほどの狂騒は、もうここにはない。

六月の小樽。

扉を押し開けて外に出ると、初夏らしい爽やかな青空が広がっていた。

まだ早い午前中の、透き通った潮風がそっと頬を撫でていく。

港町特有のほのかな香りを運ぶ風に乗って、

遠くの港から低く響く船の汽笛が聞こえた。

気まぐれな海鳥たちが、気ままに空を舞っている。

ユン・シウは、ゆっくりと小樽運河へと歩みを進めた。

昭和八年に建てられたレトロなホテル、今は美術館となった旧銀行建築、

そして歳月を重ねた石造りの建物群。

アスファルトに響く自分の足音を聴いていると、

まるで過去と現在が交差する不思議な境界線を、

歩いているかのような錯覚にとらわれる。

昨日、この街へやってきた表向きの理由は仕事の取材だった。

祖父母の故郷ということもあり、シウはこの街に深い繋がりを感じていた。

彼は二十五歳にして、小説家、脚本家、

放送作家として多彩に活躍する誰もが認める若き新鋭だ。

処女作の映画公開が始まり、第二作を刊行したばかりの彼は、

作家として確かな成功を収めていた。

だが、その華々しい成功の裏で、彼の身辺は多忙と狂騒を極めていた。

迫り来る第三作目の重圧。周囲の喧噪。

それらから逃れるための、これは一種の「逃避行」でもあった。

彼の作品はすべて北海道を舞台に構成されており、この街もまた、

新たな物語において重要な役割を担うはずだった。

臨港線と呼ばれる大きな道路に出て、歩道の信号を見上げて立ち止まる。

この横断歩道を渡れば、日銀通りの浅草橋だ。

ふと、その先に視線をやった瞬間、シウは息を呑んだ。

そこに、一人の若い女性が立っていた。

眩いほどの白いワンピースと、大きな麦わら帽子が、

初夏の光の中で美しいコントラストを描いている。

そよ風が、ゆったりとした白い裾と、伸びかけの黒髪を優しく揺らしていた。

彼女は胸元に、何かを愛おしそうに大切に抱え、

もう片方の手で帽子が風に飛ばされないよう押さえている。

その表情は、まるで目に見えない風の妖精との会話を楽しんでいるかのように、

かすかな微笑を浮かべていた。

年の頃は大学生くらいだろうか。

色白の整った輪郭に、切れ長な瞳は伏しがちで、

その長い睫毛まつげにはどこか神秘的な気配が宿っている。

すっと通った美しい鼻筋が、小さく控えめな唇を引き立てていた。

ラフに羽織った薄手のカーディガンのせいで、

その華奢な体形はいっそう守ってあげたくなるような儚さを際立たせている。

(……綺麗だ)信号が青に変わった。

シウはその少女から目を奪われたまま、まるで吸い寄せられるように歩き出した。

一歩近づくごとに、彼女の姿が鮮明になってゆく。

そのとき、シウの脳裏に、

幼い頃に写真で見ただれかの綺麗な姿がよみがえっていた。

写真の女性が誰なのかは、今でもわからない。

母親に聞けば解決したのかもしれないが、

大女優である母はほとんど家にいなかった。

仕事の関係で膨大な量の写真が家に溢れ返っており、

尋ねる機会を失ったまま記憶の底に紛れてしまったのだ。

目の前の少女は、その正体不明の美しさにどこか似ていた。

横断歩道を渡り切ると、彼女との距離はわずか数歩となった。

少女はシウと視線を合わせると、にこやかに会釈をした。

そして、澄んだ小鳥のような美しい声の韓国語で、彼に話しかけてきた。

「こんにちは。韓国の方ですか?」

日頃、社交性に難のあるシウだったが、

この時ばかりは自ら進んで愛想よく振る舞っていた。

きっと、彼女と出会えたことが理屈抜きで嬉しかったのだ。

少しでも良い印象を持たれたい、そう思ったのかもしれない。

シウは穏やかに微笑み、紳士的に挨拶を返した。

「こんにちは。そうです、韓国人です」




今後、記載する表現に関して、常識に基づいて気をつけて参りますが、

もしもを考慮して15歳未満閲覧非推奨を設定させて頂きます。

こちらに何か落ち度がございましたら、お知らせ願います。


※作中のメインキャラクターは日本語も韓国語も話せる設定となっておりますが、読む側を考慮して日本語表記にしております。キャラクター達は場面に応じて言語を使い分けているとご理解願います。


参考データ

※ユン・シウ…小説家25歳

※カン・サラン…女優志望のアルバイト20歳

※ソン・カナン...女優。カン・サランの芸名。ソン・インナに名付けられた。

※ソン・インナ…女優、シウの母親

※ユン・ジュンソ...シウの父。総合映像制作会社S.S.Iの会長

※ユン・ヒョヌ...シウの異母兄。ソヒョン・チョヨンの恋人。S.S.Iの後継者

※イ・ソジュン...シウの親友。Juringエンター専務。子犬の幼顔と低音ボイス

※イ・ウジン...映画監督。『残酷な美しさ』『私にキスできますか?』

※パク・ドユン...映画監督。シウの親友。Juringエンタ常務。映像制作部部長。

※イ・ダイン...『私にキスできますか?』ヒロイン

※キム・ソヒョン...シウの元恋人『Love Hunt』プロデューサー。

※キム・ソンミン...キャサリン。薔薇組第二夫人。数千万ウォンの身体を誇る

※ハン・チョヨン...女優『私にキスできますか?』イ・ダイン役

※ハン・ジヨン...女流写真家。奇跡の1枚を撮る「アメイジングメーカー」

※ナ・ジウ...薔薇組音響アシスタント。通称小枝。


※虹の薔薇組...ドユンのハーレム軍団。精鋭撮影チーム。

※佐藤直樹...ユン・シウの祖父。伝説の投資家。

※佐藤志乃...ソン・インナの本名。

※天翔樹林...ソン・インナのシルフィード歌劇団時代の芸名。

※涼風小鳥...中村綾。サランの母親。

※中村綾...サランの母親

※トリニティG...韓国最大の財閥グループ

※S.S.I...総合映像制作会社

※Juringエンタ...芸能事務所兼資産管理会社。会長インナ。社長シウ。

※アトリエ・ノア...中堅芸能事務所。サランことカナンが所属していた。

※『Love Hunt』…ネット配信の恋愛リアリティ番組

※『私にキス出来ますか?』…シウ作の小説

※『ずっと僕は君を』…シウ作の小説

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