第4話 ボスが住まうシャンティ・タウン
「疲れたぁ…」
最初の戦いを終えた俺は、地面に仰向けになっていた。
転生させられた挙句、初っ端からあんな化け物と戦ったら誰だって疲れるさ。
逆に疲れないやつなんか居ないでしょ。
俺は無言で空を見つめる。
星が瞬く夜空はとても綺麗だ。赤、緑、青、白、オレンジ……
色とりどりの粒子が浮かんで幻想的。更に、月も満月と来た。
こんな最高の組み合わせってのはなかなか見れないぞ。
俺の理想じゃん。
キャンプとかで見る景色ってのはこういう物なのかなぁ。
こういう星空の下で、焚き火をしながら仰向けになって涼む。
良いねぇ。
そういえば、一つ気になることが俺にはあるんだ。
何かって?そりゃ、異世界物ではお馴染み、ステータス画面のことさ。
レベルや、スキル。そう言った制度もあるのかってのも、気になる。
「…ステータス!」
俺は思い切って言ってみた。すると、俺の言葉に呼応して本当に画面が出現する。
「おわっ!?びっくりしたぁ…いきなり出てくんなよ…えーっと…?」
愚痴りながら、画面に表示された文字を読む。
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所有武器 : 機械式電磁靖国刀『初風一文字』
所有者 : 朝海 慎也
敵対者 : アリア・フォンスベルク
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読み終えた俺は、声を出すことができなかった。
文字通りの絶句状態だ。
なぜかって?そりゃ…あいつがきてるからだよ!
「絶対さ、この敵対者ってやつ、アリアのこと言ってるよね…」
あいつも何かしらの方法で、こちら側の世界に来ているのだろうよ。
見つかるのは時間の問題だ。しかも名前が変わっている……という事は、だよ?
こっちの世界に来た時に、貴族とかの存在になっているってのも否めない。
(大変な事になったな…さて、ここからは目立たないように行動するか…)
まああいつのことだ。どうせ俺の事を血眼になって探しているに違いない。
見つかったらどんな事をされるか、分かったことじゃないからね。
誘拐or拉致、からの監禁。それぐらいで終わるならまだ良い方よ。
けれでもあいつだ。暴力からの殺害なんて事も平気でやるだろうからな。
ああ怖い怖い。早くこちら側から一手を打たないと。
そんなわけで、俺は街を探す事にした。
そして山中を彷徨うこと20分。ようやく、整備された石畳の道を見つける。
服や髪についた葉と汚れを落とし、一歩を踏み出した。
「よし…いくぞ!」
月明かりを頼りに、歩みを進めていく。
道中、何度か隊商らしき集団とすれ違いながらも、街を目指して歩き続けた。
どうやら、暗いところが怖い…と感じるのは、転生しても同じのようだね。
案の定、俺は心霊スポットを探索してるような気持ちだから。
ワクワクを感じると同時に、霊とかそう言った物に対する恐怖も感じる。
例えるなら、スリル満点のジェットコースターに乗ってるような感じだな。
……しかし、本当に身体中が痛い。
初戦のあとに、少し仰向けになったとはいえよ。
俺としては、あれは休んだうちには入らんのさ。え?休憩するの基準は何かって?
そりゃ…腹一杯食ったり、風呂に入ったり、十分な睡眠を取ること。
まあ、時と場合によりけりさ。
状況によって異なるから、一概にこれだ!とは言えない。
……やっべ、マジで倒れそう。よし決めた。今は寝る。
戦ったりしてる最中に休憩不足で倒れるだなんて、冗談じゃないからね。
俺は隠れられそうな木陰を見つけて、横たわった。
横になって、目を閉じる。
その瞬間、溜まっていた疲れが津波のように押し寄せてきたんよ。
俺の意識はあっという間に、闇の中へと沈んでいく。
「ふんっ…よく寝た……」
翌日、差し込む日の光によって目を覚ました。
あれ?スマホがねぇや……あ、そういえば異世界転生してたんか。
俺は新鮮さと、悲しい感じを同時に味わうという複雑な体験をした。
でも、いつまでもクヨクヨしてちゃあいけない。
前に進めなくて、遅れるのは真っ平だからね。
起き上がって、服についた土を落とす。
さて、出発するとしよう。刀を背中に携えて、一歩を踏み出した。
清々しい空気と、雲ひとつない晴れ渡った青空。最高の組み合わせじゃん。
特に支障もなく、順調に街へと進んでいく。
途中、休憩を挟みながらも軽快な足取りで歩いていく。
距離が近づくにつれて、街道を行き交う人々の数も多くなっていった。
「やけにでかい所だな…経済の都だったりして。」
何を隠そう、行き交う人々の数が、渋谷のスクランブル交差点並みに多いんだよ。
もしかしたら王都だったり?
そんなことを考えていると、正門の前にたどり着く。
重厚な石造りの城壁に囲まれた王都の正門を抜けた。
すると、目の前にはフランスのエトワール凱旋門に酷似した建造物が建っている。
街道は門を回るように作られており、遥か奥にはヴェルサイユ宮殿に似た王宮らしき立派な建物も建っている。
「やっぱり首都だったか…」
すごいの一言しか言えんわ。
けれど今の俺はこんな悠長なことを言ってられない程、重大な問題が発生していた。
何を隠そう、moneyがないのだ。まだ何もわからない王都を彷徨い続ける。
やがて、右も左もわからない俺は、スラム街らしきところに迷い込んでしまった。
「やっば…完全に迷子状態だよ……正直スラムなんて犯罪者の巣窟だろ?」
スラム街では強盗や殺人は日常茶飯事って本で読んだことがある。
酷いところじゃ、人身売買や闇取引なんかもあるだとか。
……こんなとこにいたら、何をされるかわかったもんじゃない。
特に俺みたいな弱い存在は、彼らにとっちゃ格好の的だろうよ。
餌に飢えてる所へ、どうぞ食べてくださいと言わんばかりに、肥えた極上の獲物がノコノコとやってくるんだから。
逃げなきゃまずい。
焦って右往左往しながら走っていると、前からやってきた人にぶつかってしまった。
「あっ…ごめんなさい……」
見上げると、俺の背丈の倍以上はあるゴリマッチョだった。
いかにも裏社会に通じてるようなその顔で、俺のことを鬼のような形相で睨む。
俺はネズミのように、すっかり縮こまってしまった。
ある程度距離を取ったら、逃げることにしよう。
が、後退ろうとした時。
マッチョが俺に声をかけてきた。
「おい、テメェ………。どこに目ェつけて歩いてやがる、クソネズミが」
「ここは道端じゃねえ、俺の庭だ」
……あ、オワタ。こいつ絶対あれじゃん。裏社会のボス的なやつじゃん。
やばいやばい。初っ端からこれとか、俺はどんだけ運がないんだよ。
「あっ…いや、その…」
恐怖と不安が全体を支配して、俺は何も言うことができん。
俺の様子をみて更に苛ついたのか、マッチョが舌打ちする。
「チッ、鬱陶しいな……俺はな、虫の居所が悪りぃんだよ」
「いいか、ここはルール無用の領域だが、一つだけ絶対のルールがある」
「それは、『この俺を邪魔するな』だ。その役立たずの細い手足、一本置いていくか、それとも──」
言い終えるや否や、マッチョは俺の頭を鷲掴みにして最後の言葉を口にする。
「……コロシアムに送り込んで、テメェを俺の猛獣愛玩具の餌にしてやるか?」
その言葉を聞き終えた途端、俺の頭に金槌で殴られたような衝撃が走った。
痛みを感じる前に、俺の視界は一瞬にしてホワイトアウトしてしまう。
(ああ……俺の人生はここで終わるのかよ……早いもんだ……)
深い海の底へ沈んでいくような感じを味わいながら、意識は闇へと沈んでいった。




