アルテミス、いのちの野外授業①
夏休み前のある朝.
まだ、午前5時頃.
早朝の別館は静かである.
ドクトルとルシフェルは図書室で何やらむづかしい本を読んで勉強しているようである.
静香と海丸くんは、夜寝るのが遅くてまだ寝ている.
はるなや、お母様方は朝ごはんの支度を始める前である.
健ちゃんと、アンテロスが、じっと土を入れた水槽の中を身動きもしないでのぞいている.
ははきちゃんはお父さんの大年神様と一緒に、朝の散歩をしていた.
セミが土から出てくるのを見に行こうかという話になって、朝早くから見に行ったのだが、セミが土から出て、羽化するにはまだ早い時期なのかもしれない.
「セミさん、まだ出てこないねー」玄関から家の中に入ろうとすると、倉庫の近くでアンテロスと、健ちゃんがしゃがみ込んで、ずっと下を見ている.
ははきちゃんがお父さんと手を繋いで、近づいてきた.足音は立てないで.
健ちゃんがははきちゃんに気がついて、隣にしゃがんでいる、アンテロスとの間にははきちゃんが入れる隙間を開けてくれた.
ははきちゃんが小さい声で二人に尋ねる
「何見てるの?」ひそひそ声できく.
大年神様も、ははきちゃんの頭越しに水槽の中を注視する.
「これはね、カブトムシの幼虫がね、蛹になるところ・・・・」アンテロスが教えて
くれた.
「幼虫は、土で表面のツルツルの丸い壁(これを蛹室というらしい)を作ってその中で、ほら、体を捩って、幼虫の皮を脱いで、蛹になるんだ・・・・」健ちゃんの解説である.
去年の夏に飼っていたカブトムシの卵が孵った幼虫もいれば、山で椎茸農場をしている知り合いのおじさんにもらったのもいる.春から、夏にかけてかなり大きくなった、カブトムシの幼虫が、いよいよ蛹になるところである.
「へえ・・・」ははきちゃんと、大年神様も一緒になって、幼虫の脱皮を観察する.
「最初はね、腹筋運動みたいに、縦の動き、そしたら、幼虫の頭が割れて中から、蛹の体が出てくる.
ほらこっちのは、オスでツノがあるでしょ・・・・
こっちのツノがないのがメス・・・・
それで体の上の方が出てくると、今度は体をくるくるねじるようにして、下の方の幼虫の皮を脱いでいく.
ほら、20分ほどで、真っ白な蛹の体全体が現れた!」健ちゃんが、詳しく教えてくれる.
「カブトムシの形をした真っ白な蛹.これがね、何時間かたったら、茶色い色になるんだ.」アンテロスも得意げにははきちゃんに教えてくれる.
「へえ・・・・・なんか綺麗・・・・」とははきちゃんがうっとりとしたように見ている.
「そうだね、お父さんも初めて見たよ・・・」
大年神様も、瞬きもしないで見ている.
朝ごはんに呼ばれるまでの間、カブトムシの「蛹化」を観察した.
ははきちゃんは、ちょっと顔が熱ったようにほんのり赤い.
そして、アテナとアルテミス、ヘスティアおばさんや、静香を相手に、カブトムシの幼虫がどうやって、蛹になるかを詳しく話して聞かせてあげた.
「なんか、すごいって思う.ははきもああやって産まれて大きくなるのかなあ、なんて・・・・」
少し興奮気味に話す、ははきちゃんを見て、アルテミスと、アテナが頷きあった.
アルテミスが、ははきちゃんの方を向いていう.
「ははきちゃん、いきものが好きみたいだから・・・・
動物が産まれるとこ、見てみたいと思わないかい?
今度、一緒に行こうよ、動物のお産・・・・」
なんと、山の獣の守り神である、アルテミスが、直々に獣のお産を見学に行こうと誘ってくれた.
しばらく考えて、ははきちゃんは、お父さんの方をみた.
大年神様も、ははきちゃんを見て、にっこり頷いた.
「アルテミス、お願いします.動物の誕生、ははき見てみたい!」
じゃ、次の日曜日、山に行ってみよう!
ははきちゃんは、仲良しの愛ちゃんにも声をかけてみた.
「あいちゃんも一緒に行かない?」遠慮がちに・・・
愛ちゃんもははきちゃんが大年神様を見たように、健ちゃんと、ママの方を見る.
健ちゃんと、ママは大きく頷いてくれたので、一緒に行くことにした.
「いいよ!一緒に行こうよ、山の動物見に.」
健ちゃんと、アンテロスも、今からワクワクである.
当然のように彼らもアルテミスの野外授業に参加である.
「おや、面白そうだね、私も一緒に連れてっておくれ」とおばば様も参加希望を表明した.
ははきちゃん、愛ちゃん、健ちゃん、アンテロスに、ママ、大年神様、それにアルテミス、おばば様.
マイクロバスに乗って、近くの山に行くことになった.
運転手はもちろん、愛ちゃん・健ちゃんのママである.




