菊理媛にも苦手がある・・・
思わせぶりな表題である.
これはまあちょっとおいといて.
今日は、30日、晦日である.
子供達は朝からそわそわしている.毎月でもないが、30日は、大年神が、お小遣いをくれる日だからだ.
大年神は、大晦日に各家を回って、餅やら、金銀を配って歩く、正月の神様だ.
配るのは、日本銀行券とか、造幣局の作る貨幣ではなく、金やら銀を配って回る.あとはお餅とかお菓子の「現物支給」である.
別館のお姉さんたち、つまり、はるなに静香、アテナやママたちが、大年神が配る金銀を、日本の貨幣に変換して改めて子供達に配るという仕組みである.
最初はそのようにしていたが、そのうち、大年の神様、子供たちの欲しいものがわかるようになって、本とか、おもちゃとかで配るようになったのだが.
「あれ、サンタさんって大年神様?」海丸くんはいうが、
「ウーん、なんか紛らわしいですけどね、ちょっと違うみたいですよ.神様はいろんなところで同時多発的にできますからね、サンタさん的な存在、なのでしょうけど、日本の大年神様は独自の発生なのではないでしょうか」ドクトルはその辺のことはよくわからないが適当に話を合わせておいた.
大年神様、優しいおじいさんという感じなのだが、実はそれほど爺さんではないらしいが、仕事柄、年寄りに見えるらしい.
別館の図書室に子供たちが正座をして待ち構える
「はい、健ちゃんには、ラジコンのドローン・・」
「わ、これ欲しかったんだ、ありがとう大年神様!」
「愛ちゃんには、世界の子供絵本の全集」
「大年様、ありがと!」
「アンテロスには、そうだな・・・アンテロスには、ちょっと難しいが、心理学の本だ」
「あ、すごい、嬉しい・・・」アンテロスくんは、子供だが、物静かに話をする.今からすでに小さな哲学者の趣だ.
「それで、キューピーには、日本書紀全五巻、岩波文庫!」
「お、これ欲しかったんだ、図書室になかったらか買おうと思ってたんだ」
「海丸、にはそうだな、ほれ、この実体顕微鏡をやろう.指の動きそのままに見えるから、蟻とか、小さい虫とか動物とか観察できるよ.先の細いピンセットで見たまま触ることもできる.大きくなったら、動物実験とか、血管を縫う練習にも使えるし・・・」
学習用の顕微鏡の多くは、左右前後が反転するから、見たままピンセットでさわれない.
「血管吻合の練習用の、10-0のナイロン糸とか人工の血管なんかはまた大きくなったら持ってきてあげる.あれも買うと、結構高いんだ・・・・」
「うあーすげー、大年神様、ありがとう!」
子供達はそれぞれに欲しかったものをもらって大喜びである.
「おや?まだ子供さんいたっけ・・・」
最後に一人、手を伸ばして何かください、というかっこをしているのは・・・
「ぐえ、菊理媛の姐さんじゃないですか!」物静かな老人という大年神様が、急に慌てた.なんと白髪のカツラと白い付け髭が取れると、なんだ、若い人だ.
「エヘヘへ・・・私にもなんかちょうだい.
金銀でもドル紙幣でもいいよ.あ、大きな米俵でもいいけど.
この頃ねえ、円安だし、物価は高いし、賽銭収入減少による金欠で、あんま旅行にも行けねえんさ」
「え、姐さん、ダメでしょ、子供だけですよ、それに、親父に知られたら、私が叱られますよ」
大年神様は、須佐之男命と、神大市姫命(大歳御祖神?)の息子で、
妹に、宇迦之御魂神、つまり、お稲荷さんの神様がいる.
大年神様が、親父に叱られるというその親父とは、須佐男命のことである.
廊下をドタドタと乱暴に歩く、音が聞こえる.
荒い鼻息の音まで聞こえそうな勢いである.
「何に〜、クオラー!菊理媛が来てるって!大年のやろう、小遣いやるんじゃねえだろうな!」ものすごい勢いで、叫びながら、須佐男の声が近づいてくる
「え、やべ、須佐男、いたんだ、私はちょっとトンズラ・・・」
と菊理媛は、庭の方から逃げ出した.
事情はこうである.
須佐男が、海の支配を父である、イザナギノミコトに任されたのち、母親が恋しいと毎日泣き喚き、荒れ狂い、物を壊して回ったのは、黄泉国の母親に会いたいから、という理由だった.
そもそも父と、母の離婚の原因は菊理媛が話をうまくまとめたからで、須佐男は、以来、菊理媛を目の敵にしている.
「それにさ、あいつ、私と、八岐大蛇、ごっちゃにしてるんだよね.頭がたくさんある龍、八つが大蛇で、九つのは九頭龍ってのがまだわからないみたいで・・・・」
という理由らしい.
「こら、菊理媛、出てこい、八岐大蛇、出てこい!」
須佐男は、菊理媛が出て行ったところから庭に出て、追いかけ回す.
捕まりそうな距離まで追い詰められた、菊理媛は、くるりと振り返り、須佐男に対峙した.
「もお、あんた、何回言ったらわかるのさ、あんたのご両親が別れたのは、イザナミが亡くなって黄泉の国から出られなくなったからで、
あんたが生まれたのはその後に、イザナギが禊をして生まれたわけでしょ、それもあんたはお父さんの鼻から生まれたんだから、お母さんはいないの、
何度説明したらわかるのさ、この脳筋やろう!
それにね、
わたしゃ、九頭龍で、頭は九つでしょ、
あんたの敵は八岐大蛇で、頭八つでしょ.まだ数も数えられねえかな!」
「うっせ!母さんを返せ、クシナダ姫を連れてくな、ぶった斬るぞ!この化け物・・・」
「何!このやろう・・」菊理媛も黙ってはいない.
「六六変じて、九九鱗になーる!!」と叫ぶと、
菊理媛の背後の鯉は、上昇しながら、増大し、天空で弾けて九頭龍と、十一面観音に変身した.
十握剣を振りかざした、荒ぶる神、須佐男と、菊理媛のバトルはいつ果てるともしれなかった.
子供達は、なかなか見られない、本格的なバトルに大喜びである.
「お、そこだ、須佐之男の爺さん、いけ!」建御名方と、事代主、はるなは須佐男を応援する.こちらは身内席らしい.
「くくりの姉さん、後ろだ、炎だ、暴風だ、水を噴射だ!」ヘラ様や、アフロディーテは、菊理媛を応援する.
「うーどっちも強い・・・どっちも頑張れ」子供達は両方を応援する.
「やれやれ、親父と菊理媛の姐さんの喧嘩、毎度で大変ですね、じゃ私はこの辺で失礼して・・・じゃ子供達、またね、今度はいつ来るかわからないけど、親父とくくりの姐さんのこと頼みましたよ・・・」
と子供たちにいうと、大年神様はこそこそと裏口から出て行きました、とさ.




