アルコール関連疾患②「飲酒に伴う、脳・神経の病気」
飲酒に伴う、脳・神経の病気
「なかなか勉強しがいのあるテーマだと思います.アルコール、脳にどう働いて、酔っ払ったり、飲みすぎると、依存症になったり、さらに依存症の人が急にお酒をたつと、離脱症状が起こったり.それがさらに興味深いことに、ベンゾジアゼピンと、アルコールが、GABAという抑制性神経伝達物質のレセプターに共通するリガンドであったり・・・」ドクトルがいうと、
ルシフェルも興味を持っているテーマのようで、
「酒と睡眠薬、その他の向精神薬・・・かなり薬理学なんかでも重要なテーマ、だな.」
急性エタノール中毒
大量飲酒が原因のことが多い.
エタノールは胃や、上部小腸から吸収されて、血中に入る.
血液脳関門を容易に通過するため、血中濃度と脳内濃度は速やかに平衡化し、中枢神経症状ともよく相関する.
エタノールは強い中枢神経抑制作用.酩酊状態を呈する.
体温調節中枢、血管運動中枢、抗利尿ホルモンの分泌を抑制する.
「アルコールの中枢神経抑制作用は、なぜ起こる?」
これは、神経伝達物質の中で、GABAを強化して、前頭葉による機能を抑えるから、と言われている.
GABAの受容体には、ベンゾジアゼピン、とアルコールが結合する部位もあるらしい.チャンネルを通るイオンは主に、 塩素イオンである.
(厳密にいうと、GABA -A receptorには、ベンゾジアゼピンとか、アルコールの結合部位があり、これらがアロステリックに、GABA-A receptorの機能を増強することによってその抑制効果を増強するということらしい)
抑制性神経伝達物質の代表だが、あまり興奮が強いと、興奮性のニューロンである、グルタミン酸レセプターの活性が高まる.
アルコールと、ベンゾジアゼピン、GABAそのものの抑制性が急に切れると、グルタミン酸の、NMDA receptorの活動が過剰となり、興奮、痙攣、不穏が引き起こされるらしい.
アルコールは胃や小腸から速やかに吸収されて、血中に移行する.そして血液脳関門も容易に通過し、平衡に達することから、中枢神経にもあっという間に移行する.
容量依存性に症状が出る.
飲酒量にほぼ比例して生じるふつうの酩酊で、アルコールの血中濃度に応じて以下のステージに分けられる.
1.爽快期(血中アルコール濃度20~40mg/dl)
症状:陽気になる、皮膚が赤くなる
2.ほろ酔い期(血中アルコール濃度50~100mg/dl)
症状:ほろ酔い気分、手の動きが活発になる
3.酩酊初期(血中アルコール濃度110~150mg/dl)
症状:気が大きくなる、立てばふらつく
4.酩酊極期(血中アルコール濃度160~300mg/dl)
症状:何度も同じことをしゃべる、千鳥足
5.泥酔期(血中アルコール濃度310~400mg/dl)
症状:意識がはっきりしない、立てない
5.昏睡期(血中アルコール濃度410mg/dl以上)
症状:揺り起こしても起きない、呼吸抑制から死亡に至る
抑制される部位との関係で言うと以下の通りか.
大脳皮質の機能を抑制して、陽気になる、気持ちがでかくなる.あたりを気にせずに大声で話すし、よく笑うし、泣くし、怒る.
→脳幹・小脳と抑制されて、千鳥足になったり呂律の回りがおかしくなる
→脳幹網様体の、覚醒中枢に影響があると、寝てしまう.
→さらに、アルコールの影響が、延髄に及ぶと、延髄の血圧、呼吸の中枢まで抑制されて、血圧が下がって、呼吸が抑制されて、結果として、死んでしまう.
エタノールの中枢神経作用の他に、その代謝産物である、アセトアルデヒドも自律神経作用を持つ.
エタノールから、アセトアルデヒドが生成される、それが代謝されずに、体に溜まると、顔が赤くなり、おう気がして、眠く成ると言った症状.いわゆるフラッシュ現象が起こる.
アセトアルデヒドの自律神経作用と相まって、低体温、血圧低下、頻脈、脱水などの中毒症状を呈する.
中毒症状には民族差、個人差がある.遺伝因子が関与している.
ALDH2をコードする遺伝子型には、
正常活性型N型と、
変異により活性を失った、D型(ALDH2* 2型)がある.
ND型は、NN型の、 1/16の活性しかなく、
DD型は全く活性がない.
日本人には欧米人に比べて、D遺伝子を持つ人が多く、急性中毒を生じやすい
「これが逆に、人類の進化ではないかという意見もある.アルコールを受け付けないということはつまり、アルコールの害毒に飲み込まれることがないから・・・」
ネットで見たことがある気がする.
アルコール多飲に伴って起こる、困った症状に対する対処法.
急性エタノール中毒に対する治療
輸液、血圧管理、血糖・電解質・アシドーシス補正、重症では、血液透析、人工呼吸管理を行う.
離脱症候群
飲酒常習者が、突然飲酒を中断すると、エタノールによる中枢神経抑制が取れて、過活動状態になる.離脱症候群は身体依存症状であり、アルコール依存症に陥っていることを示す.
早期離脱症候群は断酒後48時間以内に起こる.
手指の姿勢時振戦、不眠、不安、嘔吐、発汗、頻脈、幻覚などが出現する.
離脱痙攣は、全般性強直性間代性痙攣で、数回以内で消失し、脳波にはてんかん波は見られない.
ベンゾジアゼピン内服により数日で消失するが、一部振戦譫妄に移行する.GABAreceptorに対する、作用、アルコールの影響が切れたところを、ベンゾジアゼピンで補うという考えである.
振戦せん妄は断酒後、48から96時間後に出現する重篤な離脱症候群である.
全身の粗大振戦
譫妄(幻覚妄想、錯乱、興奮、変動する意識障害)
自律神経過剰興奮(頻脈、発汗、発熱)を認める.
数時間から数週間で回復するが、死に至ることもある.
治療は、輸液や、ビタミン補給、電解質管理を行い、ベンゾジアゼピンで、鎮静を図る.(教科書にはハロペリドールも書いてあるが、あくまで主役は、ベンゾジアゼピン.)
慢性アルコール性神経・筋障害
Wernicke-Korsakoff症候群
ビタミンB1欠乏
病変部位:視床内側、視床下部、乳頭体、中脳水道周囲灰白質、小脳中部
Wernicke脳症は、亜急性に発症し、意識障害、眼球麻痺、体幹失調を3徴とする.(しかし、三つが綺麗に揃わないことがむしろ普通かもしれない.だから診断がむづかしい.)
赤血球中トランスケトラーゼ活性が低下する
ビタミンB1を投与すると
眼筋麻痺は数時間、
体幹失調は数日以内、
意識症状がいも徐々に改善するが、80%はKorsakoff症候群に移行する.
前向性健忘、逆行性健忘、失見当識、作話傾向を特徴とする.
アルコール性大脳萎縮と、認知症
飲酒常習者の半数以上で脳萎縮が認められる.
臨床的な認知症との関連は明らかでない.
禁酒と栄養管理とによりある程度改善する
過量のエタノールと、ビタミンB1欠乏による複合作用と考えられる.
総論でも書いたように、若年性の認知症疾患にアルコールが絡むと、診断が面倒になる.
ペラグラ ニコチン酸の不足?
皮膚障害(dermatitis)、認知障害(dementia)、下痢(diarrhea)で三つのD.
Marchiafava-Bignami病
平野朝雄先生の神経病理の教科書には載っていなかった.脳梁膨大部の深部にできると言われている.若い外科の先生が、そういう所見はどういう病気が考えられるかと、聞いてきたので、上記の病名を言ったら感心された.おそらく教科書であらかじめ勉強してからカマをかけてきたということなのだろう.実際にそれらしい画像を見たことはない.むしろ、インフルエンザなどのウイルス感染で起こる、MERS:mild encephalitis with a reversible splenial lesionが、何例か見たことがあるが、印象的だった.可逆的な病変で、何もしないでそのうちに画像所見が改善したと思う.あるいはヘルペス感染を想定してゾビラックスあたりを使ったかもしれない.インフルエンザの治療はやったかもしれない.しかしどっちのウイルスでもなかった気もする.
橋中心性髄鞘崩壊症 CPM
は、アルコール多飲者以外に、低ナトリウム血症の急速な補正で起こりうることがよく知られている.低ナトリウム血症の補正速度が、12mmol/ L/ 日以上で起こりうるので、8mmol/ L/ 日以下の速度で補正するようにと教科書には書いてある.
アルコール性小脳変性症
萎縮は、前葉と虫部に起こりやすい.purkinje細胞が脱落する
上肢の失調は軽度
下肢と体幹に強い失調が起こり歩行障害をきたす
栄養障害と、エタノールの影響.ビタミンB1による改善は、乏しい
アルコール性ニューロパシー
糖尿病とか、アルコール関連で、滑車神経麻痺、、何例か、見たことがあるかも・・・
アルコール性ミオパシー 何がそうなのかよくわからない.
視神経ニューロパシー
メタノール中毒で生成される、蟻酸が視神経に良くないらしい.
エチレングリコール中毒?強烈なアシドーシスと、高シュウ酸カルシウム血症による、尿路結石が問題になるらしい.
最後の方は駆け足になってしまった.興味がある人は教科書を見ましょう.
「慢性硬膜下血腫の手術、実は脳外科で一番多い手術なのだけど・・・」
「うんうん・・・」
「学生とか研修医の頃に、この病気は、お酒飲みの年配の男性に多い、と言われたんです.」
「うんうん・・・」
「ただしね、お酒を飲まない、女性も転んだ後には起こるんですよね」
「あ、あとね、都市伝説的な話あるのだけど・・・」
「新潟県、冬の間、特に1月とか2月、雪が凍って、滑りやすくなる.頭部外傷が多い.すると、3週間以降、2、3月たった頃、慢性硬膜下血腫の診断が増えるかということを調べてみたことがあるのですが・・・」
「あるのですが・・・・」
「そんで?」
「あんまり関係ないみたいでした.」
「なーんだ・・・」
こういう肩透かしの話をするときのドクトルはのっているとき、かもしれない.
アルコールの話、勉強しながら物語を描いてみると、自分の勉強が深まるものだ.
いろんなテーマを勉強しながら、書いてみようと思います.
「だから皆さん、ぜひ読んでね!」
ぱちぱちぱち・・・・
いつの間にか遊びに来ていた、健ちゃんと愛ちゃんと、ママが拍手をしてくれた.




