国譲り① 一夜明けて、次の朝・・・
一夜、とは、前の日、七福神カンファランスが別館で行われたその夜のこと.
学会そのものは、盛会のうちに終わった.
しかし、そこである事件が起こったことが問題であった.
学会の理事であり、演者、七福神の1人、恵比寿・事代主命が、事情があって、仮面をかぶって、発表していた.
仮面が取れて、スタッフの人たちに、顔が見えてしまった.当然、はるなも、スタッフの統括的な役割で、会場のアナウンスをしたりしていたのだが、なんと事代主が、長らく家を開けていた、兄、楠本事代であった、ということが判明した.
ルシフェル他、事情を知っていながら隠していた、面々以外はまさに
「えーー!!」という大事件だった.
事代主の弟、建御名方も、近くにいたのを見つかってしまい、はるなに事情聴取をされたということである.
事代主神
建御名方神
この2人、大国主命の子供.父にかわって、高天原との交渉を引き受け、
「国譲り」を、
彼らの国、葦原中国に非常に有利進めた、国家の英雄といっても良い兄弟である.
はるなのお兄さんたち、のお父さん、大国主命・・・
はるなのお父さんは、お兄ちゃんたちと同じ人・・・・
ということは、はるなのお父さん、は、なんと大国主命だったという、ことが判明してしまったのだ.
「あの神様は、何回も死んでるけど、その都度生き返って、そのうちに、地下の国に逃げ込んだりしているから・・・・」
「じゃ、きっとどこかで生きてるね・・・」
「え、そんなの知らない、お父さん生きているのなら、会いたい、会わせて・・・」
からのはるなの大号泣になったという事件があった、その夜である.
長らく開けていた家で、妹の作った夕ご飯を食べ、
建御名方は兄の事代主と布団を並べて、寝た.
よく眠れたようだ.
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建御名方神は、外が明るくなってから、
「は!」と目を覚ました.
隣で寝ていたはずの、兄はすでにいない.
「しまった!高天原の奴ら、兄者を!」とすぐに身構えてしまうのだ.
そのたびに、建御名方は、「あ、そうか、国譲り、もう終わってたんだ・・・」と思い直すのであった.
「おや、なんかいい匂い・・・懐かしい・・・」
昨夜、妹にあてがわれた、父のパジャマを着たまま、建御名方は、台所の方にふらふらと歩いて行った.
家の作りは自分が住んでいた時と、基本的に変わっていない.
廊下を歩いていると、子供が3人、廊下をモップがけしたり、拭き掃除をしている.
愛ちゃん、健ちゃん、アンテロスの3人である.
「ヨイショ、よいしょ・・・」
愛ちゃんが建御名方を見つけて、
「たけみのオジシャン、おはよう!」
「あ、ああ、おはよう・・・お嬢ちゃんが、あいちゃん・・・だっけ」
「そう、私があいちゃん、お兄ちゃんはけんちゃんで、アンテロスは、キューピーの弟だよ.ねえー」
健ちゃんとアンテロスはちょっと照れ臭そうにして、たけみのおじちゃんに、頭を下げて挨拶した.
この頃はアンテロスくんも勉強会に参加したり、日々のデューティーともいうべき朝のお掃除とか、洗濯をお手伝いするのだ.
廊下に海丸くんが、音を立てずに走ってきた.
「あ、建御名方のおじさん、おはようございます.みんな、起きるの、おじさん最後だから、掃除機使っていいし、洗濯機も回していいよ、みんなで手分けしてやろう!干すのは、後からドクトルか静香にお願いしてね.」
子供達は、「おお!」と持ち場に散って行った.
廊下の向こうから、キューピーが走ってきた.「洗濯機は回してきた」と海丸くんにいう.
「あ、ありがとう、じゃあ、あとは、各部屋の掃除だ.」
子供達は忙しそうに各部屋の掃除をして回る.
ここ、台所だったかな・・・・
建御名方は、ドアを静かに開けて中を覗く.間取りは変わっていない.新しい家電なんかが入っているかもしれない.
「懐かしいな・・・」
はるなは漬物を切っている.
炊き上がったご飯を、しゃもじでほぐしているのは、ヘスティアおばさん
静香は、鮭の切り身とか、だし巻き卵をさらに盛り付けている.
アフロディーテと、愛ちゃん・けんちゃんのママがテーブルに配膳をしている.
アフロディーテを、相手に、兄の事代主が、楽しそうに色々とおしゃべりをしている.かつては、国の命運をかけた、国難にほぼ1人で対処した、腕利きの外交官だけあって、国籍の違う人ともすぐ打ち解けた話ができるのは、この人の持ち味なんだろう.
「私も貧乏したから、わかるんですけど、事業が成功するって、なんかワクワクしますね・・・」今では、愛染結婚相談所のやり手の女社長も、別館での決まった分担仕事をこなしながら、会社の切り盛りをしているのだ.
「商売繁盛のお手伝い、あまり私できてないかもしれませんね・・・」
恵比寿様の重要な一面である.
「そんなことないですよ.私たちはしっかり儲けさせもらっていますよ・・」
「あ、建御にいちゃん、おはよ、ああ、そこにいると邪魔だから、ちょっと外行ってきて・・・そんで、デメテルの母さんと、ポセイドンのオトシャン、シヴァさんもいると思うから、みんなのこと呼んできて、そろそろご飯よ、って」
妹は、思い出したように追加の命令をしてくる.
「あ、後、ルシフェルと、ドクトルは、きっと図書室で、訳のわからない本読んでるから、一緒に呼んできて、図書室、ってほら、お父さんの書斎よ・・・・」
「お、おう・・・」
妹に言われるままに、建御名方は、サンダルを履いて庭の方に歩いて行った.
なんと、庭には、広大な田んぼがある.
「え、なんだ、こんな、広い田んぼ見たことねえ、高天原の奴ら、こんなとこに・・・」
モンペに麦わら帽子、軍手のデメテルの母さんが、田んぼの畦で草むしりをしていた.
彼女の方で先に気がついて、声をかけてきた、「おや、たけみちゃん、お目覚めかい・・・」
「あ、デメテル母さん、精が出ますね・・・流石に、豊穣の女神だけあって、この田んぼ、すごいですね・・・・」
「いや、いや、みんなが手伝ってくれたからねえ・・・」
「あの、はるなが、朝ご飯できたから、って」
「おや、もうそんな時間かね、じゃ行こうか・・・」
建御名方は、サンダルの音を立てながら歩く.
「さっき、ポセイドンと、シヴァが、庭で稽古してたみたいだから、そっち寄って行こうか・・・・」
縁側に面した広い庭には、ポセイドンと、シヴァが稽古をしていた.
シヴァ神は、大黒様として、七福神カンファランスの主要なメンバーであり、オリンポスの兄弟・姉妹とは、懇意の中である.もちろんゼウスを介してである.
「おお、ポセイドンよ、おめえ、なかなか腕を上げたな・・」
「いやー、シヴァの兄貴もなかなかのもんで、あっしらにはとてもとても太刀打ちできるもんではありませんぜ」
ポセイドンは、漁から戻って、朝の市場の寄って、残った魚を、別館の冷凍庫に保管して、たまたま庭で、シヴァ大先輩に、あって、お手合わせをしましょう、ということになったらしい.
縁側では、弁天様・サラスバティー、旦那のブラフマー、親友のヴィシュヌ、と大黒様の奥様のパールバティーさんが、2人の練習を眺めていた.
「あの、皆さん、朝ごはんの支度ができたみたいで・・・」
縁側の前でスリッパを脱いで、皆で一緒に食堂の方に行った.
ルシフェルとドクトルが、何やら医学のことを話ししながら、食堂の方に向かう.
別館の食事は、食べたい時に食べれるのだが、神々が色々旧交を温め合ういい機会なので、まとまって食べることが多いようである.
建御名方は、事代主のとなりに座って、用意されたご飯を食べた.
そこに、はるながきて、
「お兄ちゃんたち、ご飯が済んだら、話があります.お父さんの書斎まで・・・」
そういうとはるなはまた台所に戻っていった.
兄たちは、お互い、顔を合わせて、箸を止めて、しばらく沈黙していた.
しばらくして、は、と我にかえって、ご飯を全部食べ終えた.




