おばば様、「本当に認知症?」
「おばば様、でもどうやってオリンポスから、ここまで来れたのかな?」
はるなの疑問である.
「あ、そういうことは、ヘルメスに全面的に任せているから大丈なんだ、親父との面会の時も、大体ヘルメスが付き添いしてくれる.」ルシフェルの説明である.
プシコポンポス・ヘルメス、魂の仲介をするものは、高齢者の送り迎えもその重要な
仕事ということだろうか?
「でもあいつ、おばば様を別館の前にほっぽり出して、そのまま,また伝令の仕事にあちこち出かけちまったんだな.まあ大変な仕事ではあると思うが・・・・」
「私がちょこちょくご飯持って様子見に行くときには、別に変わったことはないのだけどね」ヘスティアは、オリンポスの厨房を守らないとダメなので、向こうにいることが多いから、この老母のことを時々見に行くのだが.前に行った時はこんなんじゃなかった気がするが」
いかんせん、ご飯を置いたら、すぐに帰ってきてしまうから、あまりゆっくりと話はしないのだ.
ここで、ドクトルとルシフェルが、ムラムラしてきた.患者として、おばば様を診察したくてムラムラしてきたということである.
デメテルと、ヘスティアに許可をもらって、ドクトルの病院に連れていって色々と検査をすることになった.
ここで、皆、はたと困った.
おばば様の年齢いくつにするか?という問題である.
ルシフェルこと、鬼丸厳一郎は、一応、昭和27年生まれということにしてあるが、その母親となると、昭和3年にしておくか?
「上に兄さんと姉さんがいるから、大正生まれ?」
「昭和3年生まれでも今なら97歳か・・・」
神々の問題は不死である他に、不老であること.おばば様はどうみても、97歳に見えない.大正生まれとなると、既に100歳を超えているということになるが・・・
まあ、受診の手続き上のことだけだから、ということで、おばば様の誕生日は
昭和3年1月10日とした.
「うーん、あと日付とか、どうしましょうか?こっちの暦のこととかわからないでしょう?」
「まあその辺は適当にしておこう・・・」とデメテル、ヘスティア、ルシフェルの兄弟が決めた.まあこの兄弟姉妹、大体において、大雑把なのだ.
後日、ドクトルの外来に、おばば様が受診した.
受診理由は、「物忘れ」である.
ドクトルの病院、「天使会セントミカエル病院」にはいわゆる、物忘れ外来とか、神経内科の外来はない.だから、認知症疑いの患者は脳外科の医者が交代で見ることになっている.
おばば様の受診は、ドクトルが担当の日にした.健ちゃん・愛ちゃんパパの日でもいいのだが、色々彼は手術前の患者さんとか忙しいので、なんか悪いということで.
朝から、おばば様は、着物をきっちり着て、お化粧をしようとするので、ルシフェルが、注意した.
「母さん、そんなにばっちり着物着込んだりしたら、診察の時に面倒だから、簡単な服にしときな、あと、化粧すると、顔色とかわからなくなるから、それもやめとけ、あ、あと香水とかもやめた方が、医者にとっては親切なんだぜ」
「ほお、そんなもんかい・・・」
おばば様は普段着の簡単な洋装にした.
別館を早めに出て、ルシフェルとはるなとデメテルに付き添われて、ドクトルの病院に向かう.おばば様、腰も膝も曲がっていなくて、足取りはしっかりしている.小刻みでもない.ふらつきもない.かくしゃくとしたおばあさんという感じである.
「母さん、あれがドクトルの病院だよ」
看板を見ていきなりおばあさんが怒り始めた
「何、ミカエル!あんた、またうちの大事な息子いじめたんかい!親を出せ!お尻だしな、今度いじめたらお尻ぺんぺんてこの前言ったよね、あんた、また大事な息子・・・」
ルシフェルはいじめられっ子だったのだろうか?
「あ、母さん、あのミカエルはいねえみたいだぜ、俺も最初は、入るのためらったけどな.病院の中、歩き回っても、ミカエルいねえみたいだ、だから安心しな」
ルシフェルは、ちょっとじんときた.いじめられて、怖がっている息子を庇って、いじめっ子にちゃんとお仕置きしようとしてくれている・・・
病院の玄関を通る.受付をした.
はるなの考えてくれた名前は、「鬼丸正子」さんである.
誕生日は、「昭和3年1月10日」(!)一応設定上は、97歳のお婆さんで、鬼丸厳一郎のお母さんということになっている.
「あ、鬼丸さん、おはようございます、今日は具合悪いの?」
受付の事務の人やら、すれ違う看護師さん達、皆ルシフェルを見るとニコニコして挨拶する.ルシフェルはそこらに挨拶して「よ」とか、「おお」、とか
「お、じいさん元気だったか」などと話している.
「鬼丸さん、今日はどうしたんだい?」すれ違った患者のじいさんは友達らしい.
「おお、今日はちょっと母親を見てもらいによ・・・」という感じである.
ドクトルは、患者の予約の少ない日を選んでくれたから、受付がすんで、外来の前で待っていると、すぐに呼ばれた.
「鬼丸正子様・・・」
デメテルと、ルシフェルが付き添って、おばば様は診察室に入っていった.
「お名前とお誕生日を教えてください・・・」
「鬼丸正子、鬼が丸いに正しい子供、鬼丸正子です.誕生日は、昭和3年、1月10日、西暦で言うと、1927年、干支は辰年です.こっちの息子は、厳一郎で、私が24の時の子供だから同じ辰年で、おや、あんたもう、72かい、誕生日、2月14日だから、誕生日が来たら、73かい!えらい爺さんになったもんだ・・・・」
「いやいやおばば様、聞かれたことだけ言えばいいから、ドクトルはわかっているから・・・」
「そうかい・・・」
調子良く喋っているのを邪魔された感じで、おばば様はちょっとだけ不機嫌になった.
日付とか、場所とか、まあいいか.
ちょっとだけ、記憶のテストとかしていいですか?
「数字を、前から3124」いってみてください.
「3124」おばば様、復唱はOKである逆から言ってみてください.「4213」で即答、O Kである.5桁の数字の順唱、逆唱も何なく答えた
「7桁の数字、3564761前からと逆から言ってみてください」
「前から言うと3564761,逆から言ったら、1674653」
ちなみに、病気でない人も、7桁の数字の逆唱はできなくていいと言うことになっている.
「これから言う三つの言葉覚えておいてください.桜、猫、自転車」
おばば様は復唱する「桜、猫、自転車・・・」
「すごいですね、じゃ、100から7ずつ引いていってみてください.」
「93、86、79、72・・・・」おばば様はすらすら答える.
付き添いのルシフェルも、デメテルもしっかりと淀みなく喋るおばば様をみて、呆気に取られている.
「さっき聞いた三つの言葉は?」
「桜、猫、自転車」
家族は皆、「おおお!」
「じゃ、記憶の検査の質問ですよ、ご兄弟の名前を全部お答えください」
「そんな簡単なのでいいの、一番上から言えばいいかい・・・」
神統記の通りに、淀みなく答える.
「深渦の巻く太洋オケアノス
コイオス
クレイオス
ヒュペリオン
イアぺトス
テイア
レイア
テミス
ムネモシュネ
黄金の冠つけたポイべ
愛らしいテテュス
これらの後から 末っ子 悪智恵長けたクロノス、クロノスってのが私の亭主なんだけどね・・・」
そこで、聞いてもいないのに兄弟姉妹のティタンの12神に関する、解説が入る.
「すぐ下の妹のテミスってのは、頭はいいけど堅物でね、裁判官さ、その下の妹の、ムネモシュネは記憶力抜群、音楽の才能もすごい、天才肌、そしてテティスは、一番上のオケアヌス兄さんのところに嫁いだ.子供が3000人って信じられるかい?全部言ってみようかい?」
「あ、それはいいです」ドクトルはおばば様のしゃべくりを制御するのに一苦労である.しかし質問すると、答えが即返ってくるのが気持ちよくて、余計なことを色々聞いてみた.
「キュクロプスの三兄弟は?」
「ブロンテス、ステロベス、アルゲス」
「ヘカトンケイルは?」
「コットス、ブレアレオス、ギュゲス」
手足の動きは、左右差なし.失調なし、麻痺なし.巧緻運動障害なし.
振戦、強剛、姿勢反射の障害、すくみ歩行等のパーキンソニズムを疑わせる所見もない.嗅覚の異常なし.夕方に強く出る幻視なし.夜中の徘徊、なし.
失調なし、自律神経の反射異常、起立性低血圧による失神、便秘等の症状もないらしい.
眼球運動障害なし、視力視野の異常もないようであった.
高次機能の異常はないみたいだし、明らかな神経学的異常もないようだが・・・
「今のところは問題になりそうな、症状はないようなのですが・・・」
「採血と、MRIはやっておきたいのですが、よろしいでしょうか?」
息子さんと娘さんが良いと言うので、本日採血を取りっぱなしで.
次回受診前にMRI ,VSRADを含めて、取ることにした.




