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92.闇の神の加護

「オシアーナ、聞こえるか? 奴の他に、もう一人、回復魔法を使えるやつがいる。そっちでなんとかできるか?」


俺は、脳内でSOS信号を送った。そいつを放置しておくと、俺の計画は台無しになる。下手したら、ここで命を落とすことになる。


「了解。こっちでなんとかするわ」


「助かる。頼んだぞ」


オシアーナは、【精神感応】を遮断すると、杖を構え、何もない空間へと向けた。


「この場所を吹き飛ばしちゃダメって言われてるけど……人を探すくらいは、問題ないわよね。出てきなさい」


「え、こ、ここに誰かいるんですか!?」


聖女はまだ何も感じ取れていないようだったが、オシアーナはすでに戦闘態勢に入っていた。聖女もまた、慌てて本を取り出し、身構える。


その瞬間、何もなかった空間に、漆黒の物質が湧き出し、周囲を飲み込まんばかりの勢いで広がっていく。


「影の空間……ライトと同じ能力ね」


オシアーナは、驚きもせず、漆黒の物質が広がっていく様を、ただ静かに見つめていた。


「ほぅ、お嬢様、なかなかお目が高い。これは闇の神の加護を受けた我々にのみ扱える力。ところで、ライトとは一体?」


漆黒の物質の中から、人影が現れる。音もなく二人の前に姿を現したそれは、優雅に挨拶をした。

「く、黒い!?」


聖女は、思わず叫んでしまった。


「ああ、これは加護によるものだ。気にするな」


人影は、少し不機嫌そうに言った。よほど、自分の肌の色について気にしているらしい。


(で、でも、吸血鬼って、肌が白いんじゃ……? なんで、黒いの……?)


聖女は、混乱していた。


「私の知ってる吸血鬼と、ちょっと違うみたいね。私の記憶違いかしら? それとも、新種?」


オシアーナは、わざとらしく首を傾げた。本当に気にしていないのか、それとも、気にしないふりをしているだけなのか、彼女の真意は、誰にもわからなかった。


「い、いえ、本来は白いんです! 彼は、闇の神の加護を受けているから、こうなっているんです!」

聖女は、慌てて説明する。それと同時に、昔聞いた伝説を思い出していた。


(闇の神の加護……まさか、こんなところで出会うなんて……運命……?)


遠い昔、神々の世界で、壮絶な戦いが繰り広げられた。神々は二つの派閥に分かれ、互いに滅ぼし合おうとした。


その中心にいたのが、闇の神と至高神だ。


至高神は、現在、人間界で広く信仰されている神である。しかし、闇の神については、あまり知られていない。なぜなら、闇の神は、最終決戦で至高神に敗北し、その魂は、どこかに封印されてしまったからだと言われているからだ。


しかし、目の前にいる男は、自分が闇の神の加護を受けていると言い、その力を見せつけた。つまり、伝説は真実ではなかったのだ。少なくとも、最後の部分は。


聖女は、幼い頃から修道院で育ち、至高神の教えを受けてきた。しかし、そのような環境で育ったからこそ、彼女は、早くから教会の教えに疑問を抱いていた。だから、目の前の光景を目にしても、それほど動揺することはなかった。


しかし、気になることが一つあった。オシアーナが先ほど、「ライトと同じ能力」と言ったことだ。

「あの……オシアーナ様。ライト様も、この力を使えるのですか?」


「ええ、もちろん。彼の方が、ずっと上手よ」


オシアーナは、即答した。


その言葉は、当然、男の耳にも届いていた。


「ふっ……面白いことを言う。闇の神の加護を受けられる者は、吸血鬼の中でもごくわずかだ。ライトとやらは、今頃、私の仲間によって殺されるところだろうがな」


「ええ、あなたが言ってるのは、きっと、この私を追いかけてきた吸血鬼のことでしょう。でも、彼は、ライトには絶対に殺されないわ」


二人の間には、ピリピリとした空気が流れ始める。そんな中、聖女は、不安そうにオシアーナに whisper した。


「オシアーナ様……あの方の言っていることは、本当なのでしょうか? ライト様は、今、命を狙われているのですか?」


「ええ、本当よ。ライトは今、怒り狂った吸血鬼に追いかけられているの」


「そ、そんな! 早く助けに行かなければ……!」


聖女がそう言いかけた時、彼女の頭を、誰かがポンと叩いた。


「もう……私より背の低い子供を慰めるのに、つま先立ちしなきゃいけないなんて……」


オシアーナは、不満そうに呟きながら言った。


「大丈夫よ、心配ないわ。ライトは、追いかけられている時の方が、生き生きしてるんだから」

「え、どうして……?」


「だって、彼は、逃げるのが得意なんだもの」


「…………それって、褒めてます……?」


二人は、そんな他愛もない会話を続けている。目の前の敵のことなど、全く眼中にないかのようだ。

「俺を無視するとはいい度胸だな! 貴様ら! 俺の相手をしてもらおうか!!」


ずっと無視され続けた男は、ついに堪忍袋の緒を切らしたらしい。どこからともなく錐のような武器を取り出すと、二人に向かって突進してきた。


「面倒ね……【束縛】」


オシアーナは、杖を使うことすらなく、軽く手を振った。すると、どこからともなく鎖が出現し、男の体を縛り上げる。


その間、聖女も手をこまねいていたわけではなかった。彼女は、本を開くと、何かを唱え始めた。状況から判断するに、吸血鬼に効果がある呪文だろう。


「ぐっ!? な、なぜだ……この程度の魔法で、俺が……!」


男は、必死に抵抗しようとするが、鎖はびくともしない。


「だから言ったでしょう? あなたは、ライトに比べて、全然ダメだって」


オシアーナは、聖なる光に包まれ苦しむ男の姿を、哀れむように見つめた。


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