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タイムスリップビール~黒船来航、ビールで対抗~  作者: ルッぱらかなえ
傾奇ブルワー、江戸に飛ぶ
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麦酒は黙して育ち、黒船は町を睨む 其ノ拾漆

先頭に立つのは、痩せた、小さな男だった。その目だけが、異様に深い。赤く濁り、笑っているのに、まるで笑っていない。


その後ろに大きな男が2人。明らかに鍛えた体つきをしており、その手には刃物が握られている。


「……おお、こわやこわや。そんなに睨みつけないでください」


痩せた男が口を開く。その甲高い声は、耳の中でざらざらと響いた。


2人は素早く周囲を見渡した。狭い通り。両側には家が並んでおり、逃げられるような場所はない。目の前には3人男たち。ならば後ろに……


素早く後方に目をやるも、暗闇の中で男が刀を構えているのが見えた。


(どうする?どうすれば……)


喜兵寿はごくりと唾を飲んだ。息がうまくできない。脈の音が、やけに大きく耳の奥で打っていてうるさかった。


「……弥彦は別に、あなたたちを捕まえようなんて思っちゃいません。ただ」


痩せた男は首を傾げ、すうっと目を細めた。


「ここで静かに死んでもらえればと」


そこからは一瞬だった。影のように男たちは動き、気づけば喜兵寿の腕は後ろにねじ上げられていた。頬に砂利が刺さる。手も、足も、言うことをきかなかった。少し離れた場所で、地面に押さえつけられている直が目に入る。


(……直!)


しかし叫ぼうにも、声すら出すことができなかった。息が浅くなり、視界が揺れる。


その時、ひやりとしたものが首にあたった。刀だ。少しでも動けば血が吹き出る、はっきりとそれがわかった。


――終わる


そう思った時だった。


「だーれーかああああああああ!!!」


直が叫び声をあげた。


「助けてくれええええーーーーーー!!!」


それは掠れて、裏返って、小さなものだった。しかしその叫び声に呼応するかのように、ざああああっと強い風が吹き、雲の切れ間から月が顔を覗かせた。


「……おい、何をしている。彼らはワシの宿の客だ」


がたん。少し離れた家の戸が開き、老人が姿を現した。片足を引きずりながら、でも真っすぐにこちらに向かって歩いてくる。


「おぉ、こわやこわや……村の人は巻き込むつもりはなかったのですが……」


痩せた男は、両手を擦り合わせながら、手下の男たちに目をやった。


「顔を見られてしまいましたので……一緒に死んでいただく、ということで」


男たちは、無言で刀を構えた。しかし老人は臆する様子もなく、黙って男たちを睨みつける。


「じいちゃん!!!」


押さえつけられたまま、直は再び叫んだ。


「誰か!助けてくれ!」


先程よりも大きな声。それは通り全体に響き渡った。


「どうした!なにがあった!」

「大丈夫か?!」


通りのあちこちで戸が開く音がし、ふんどし姿の男たちが現れた。手にはもりかいを握りしめている。


「おい、昨夜の兄ちゃんたちじゃねえか!」


直と喜兵寿に気付いた男たちは、「ふざけんな」と通りに飛び出す。


「漁師なめんじゃねえぞ!」


「あぁ……こわやこわや。これは少し、面倒なことになりましたね」


痩せた男はため息をつくと、


「では、一旦は撤退ということで」


そう言い残し、夜の闇へと消えていった。それと同時に大柄な男たちの姿も、影のように散っていった。


直と喜兵寿は、通りに横たわったまま、激しくむせた。押さえつけられていた場所が、ずきずきと痛む。


「おい、大丈夫か?」


村の男たちは、2人を取り囲んだ。言いたいことも、聞きたいこともあるだろうに、皆黙って、喜兵寿と直の着物の泥を払ってくれる。


「……ありがとう。助かった」


直ががさがさの声で言うと、「どうってこっちゃねぇよ」と男たちは笑った。


「おい、お前たちはどこに向かっている?」


声の方を見ると、宿の老人だった。鋭い目つきのまま、睨みつけるようにこちらを見ている。


「浦賀。この酒を黒船に届ける」


直が言うと、老人は「……そうか」と軽く頷いた。


「おい、誰かこいつらを浦賀まで送ってやれ」


そう言って、周囲の男たちを見回す。


「夜明け前の出航だ、誰か行ける奴はいるか?」


すると、昨晩喜兵寿と握手を交わした男が手を挙げた。


「俺がいこう。風と潮さえ読めりゃ、どこにだって行ける」


突然の流れに、直と喜兵寿は互いに顔を見合わせた。


「いや、ありがたいが……さすがにそこまでしてもらうわけには……」


「今の見てただろ?!そんなことしたら、巻きこんじまう」


しかし、老人は「なんだそんなこと」と、舌打ちをした。


「海はワシらの場所。追ってこれるわけあるまい」


それにな、と眉間に皺を寄せながら続ける。


「一度迎えると決めたからには、もう仲間同然だ。こっちは腹をくくっとる。遠慮などいらん」


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