俺とみんなと驚愕の白と
お久しぶりです!
久々の更新となりました。
今回でようやく王都につきます。
それでは、お楽しみ下さい。
「いやぁ、2日近く何も食べてなかったので有り難いで…あ、そのお肉も貰って良いですか?」
予想もしていなかった緊急事態ーー配達人ラルとの再会により、休息を挟まずに王都へ向かう予定を変更した俺たち。
今はラルを囲むようにして半円を描いて座し、空腹だと言うのでネフェンから持たされた食事を振舞っている途中だ。
「ど、どうぞ…」
若干引き気味に、今では冷めてしまったベーコンを差し出したセラ。
「それで、どうして捕まってたんでっすか?」
ナリの問い掛けに、咀嚼していたベーコンを飲み込んだラルは急に真面目な顔になる。
瞬間に俺たちにも緊張が伝う。
ーーコレは、何かとてつもなく重い事情があるのかも知れない。きっと、踏み入ってはいけない領域の話題だーー
そんな思考が、ラル以外のその場にいた全員に走る。
「実は…ですね」
「「「「「ゴクリ」」」」」
僅か1秒にも満たない《間》が永劫と等しいだけの時と錯覚できる。それ程の緊張感。緊迫感。
ラルの一挙手一投足全てが、この空間の重力を増させる要因になっていた。
「実…は…」
そうして、再び開いた口を閉じさせる事は誰にも不可能だと、瞬時に理解した。
そこから発せられるのは果たして絶望か。
それとも…
「女王様の命であなた方の元へもう一度行こうとしたら捕まっちゃいまして!あ、そのお肉も貰って良いですか?」
ラルは、それまでの緊張が嘘のようにあっけらかんと言い放ってしまった。
「あ、そのお肉貰ってもいいですか?」
一体何枚肉を食べれば気が済むんだ、と言おうとした矢先。
(プチッ)
俺の隣に座っていた小虎のこめかみが鳴った。
そうして開かれた小虎の口を閉じさせる事は誰にも不可能だと、瞬時に察した。
「「ごめんなさい。おふざけが(言い)過ぎました。ごめんなさい…」」
口元を脂でテラテラとさせつつもその場で土下座をして謝り続けるラルと、似たような体制で半泣き状態の小虎。
以前のように小虎がこっ酷く叱り倒し、例の如くセラが口の過ぎる小虎をお母さん宜しく叱り付けるという一連の流れが少し前まで起きていたのだ。
「それで本題だが、ラル殿は何故また私達に会いに来たんだ?」
セラの教育的指導も治った頃、フタの当然の疑問にラルを除く全員が頷いた。
「あ、それはですね。
この辺の小さな森で最近奇妙な出来事が起きるという事件が多発していまして、その事を伝えに行くようにと女王様の命を授かり、お迎えに上がった次第でして」
「なるほど。
…でも、どうして宅配人であるラルさんがそんな事を伝えに来たんでっすか?」
「そうですね。そのような旨でしたら直属の兵士さんが適任なのでは?」
と、こちらももっともな疑問に首を傾げている。
「え、何を言ってるんですか?僕、一応兵士ですよ」
僅かな沈黙の後、目を丸くした俺たちは顔を見合わせる。
「「「「え!?」」」」
「『え!?』とは何ですか!何処の世界にこんなに鍛え抜かれた好青年の宅配人がいるんですか!」
土下座の格好から急に立ち上がり息巻くラル。
その目は、いや、目を見ずとも、明らかに怒っているのがわかる。
「い、いやいや、だって初めて会った時は宅配人みたいな格好してたじゃないか!そ、それに『お客様に迷惑を〜』とか何とかとも言ってたし!」
「それは雰囲気を出す為ですよ!
普通に考えておかしいと思いません?女王様直々の品々をお贈りするのを一介の民間人に頼むわけ無いでしょう!?」
怒涛に届けられた至極真っ当な言い分に言葉を失う俺たち。
確かにあの時、ラルは一言も自分の事を『宅配人』とは言っていなかった。
「すみません、取り乱してしまいました。…それでは改めて自己紹介をさせて下さい」
額を拭いながら荒くなった呼吸を整え、その場で片膝と右拳を床につける。
「私の名はラル。
ルフェン女王の第三近衛兵にて伝令部隊を纏める者。これまでの数々の御無礼、どうか御容赦を」
そうして見得を切ったラルのそれは、先程までの無邪気に食事を楽しむ宅配人らしい人物ではなく、兵として幾度と無く修練で己を律した武人だった。
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「それでは皆さん、今から通る道の事は他言無用でお願いしますね?
一応、ここから先はごく一部の上層部と伝令部隊以外絶対に知られてはならない道ですから」
キャロの小屋を出てからおよそ30分。
ラルの後をついて行き辿り着いたのは、人が1人通れるくらい細い隙間に出来たジメジメと湿っていそうな洞窟の入り口。
「ここはまだ、王都が王都では無かった頃からあるとされる歴史の深い洞窟です。
ここを通れば本来なら2日はかかる道のりを半日にまで短縮出来ます」
「本当にそんな事が!?一体どういう原理なんだ…」
「フタさんの困惑も最もです。
詳しくは分かっていませんが、王都一の歴史館に置かれた歴史書曰く【大変力のある術使いがその生涯を持って作り上げた瞬間移動装置】だとか。
真偽は定かではありませんがね」
何度目かわからない質問に、絵顔で答えるラル。
この洞窟に至るまでの道中、彼は小虎やナリの問いに悉く答えていた。
やはり女王の近衛兵なだけあって生半可な知識量では無い。
それを余す事なく俺たちに与えてくれるのだから、ラルは真面目なのだろう。
他にも道中の話で判明したのは、元々は小さな国だったものを今の女王がまとめ上げ幾つかの国に仕上げたらしく、王都では不定期的に刃傷沙汰があるとか無いとか。
と言っても、それは昔の話で、今は温厚な人ばかりらしい。
刃傷沙汰なんて以ての外。
わかっている範囲では泥棒どころか器物破損すらないそうだ。
「…トさん…ルフトさん!みんな行ってしまいますよ!」
「何ぼーっとしてるんだ、行くぞ」
セラと小虎に声をかけられて我に戻った俺は、先に歩くラルやフタやナリの後に着いて洞窟の中へと向かった。
「この下には地下水が流れていまして、王都で使われている水の殆どはここの物なんですよ」
「…ホントでっすね!耳を澄ませると確かに水の流れる音が聞こえまっす!」
橙色に輝く光が二つ、仄暗い洞窟の中を支配するようにして進んで行く。
先頭を行くラルと最後尾である俺が持つ松明の火だ。
「ところで、皆さんはどういった経緯で仲間となったのですか?
まだ道行きは長いですし、差し支えがなければ教えて欲しいのですが」
洞窟を歩く事、幾許。
おもむろにラルが口を開いた。
「あぁ、確かに気になるところではあるだろうな。
どうかな、ルフトくん。話してしまっても構わないか?」
どこか嬉しそうにそう言うフタ。
当然、断る理由なんてない。
「勿論いいぞー」
フタとの間には若干の距離があるため少し大きめの声で返事を返すと、洞窟内に声が響いた。
「…まずルフトくんとセラはギルドが正式に認めた伴侶だ。
そんな彼らが初めてのクエストを進行中、私と私の伴侶であるナリがあの辺一体を牛耳っていたドラゴンに襲われてな、命辛々というところで2人に助けられたのだ。
あの時僅かにでも遅ければ私たちのどちらか、或いは両方が屍と変なり、地に還っていた事だろう」
「けれど、僕たちを救ってくれたルフくんは生死を彷徨う重傷を、セラっちも決して浅く無い傷を負いまっして…
ですから、あの日は有耶無耶になってまっすが、僕たち2人はルフくんとセラっちに恩を返すため、こうして行動を共にすると決めたんでっす」
嬉しそうに話す2人の話を聞き終えたラルは二度三度頷くと、小首を傾げた。
「では、小虎さんは?
どうして旅を共にしているのですか?」
「「それは知らないな(でっす)」」
「おぉい!忘れるなよ!」
フタとナリが言い切るや否や大声を張り上げる小虎。
その声は洞窟内に反響して少しの間響き続けた。
「急に大声を出さないで下さい!心臓に悪いですから!」
「ご、ごめんなさい…」
さっき叱られたのが効いているのだろう。
小虎は俺の後ろに隠れるようにしてからセラに謝ると、二回ほど咳払いをして話を続けた。
「いいか、オレはこの中で一番ルフトとの付き合いが長いからな、ルフトが故郷に帰るんならひと目見ておこうと思って着いていったんだ!
別に、それ以外の理由はない!」
小虎は先ほどよりも大きな声で、腕を組み、得意げに話をした。
となれば、勿論みんなは耳を塞いでいる。
「五月蝿い!声が反響して耳に刺さるだろ!」
そう注意すると小虎は不貞腐れたような顔をしてソッポを向いてしまった。
「っはは、なるほど。小虎さんはそういった理由で着いてきたのですね。
確かに気になりますよね、《付き合いの長い方の故郷》は」
ニヤニヤと意地悪く笑うラルの顔は、近衛兵と言うには余りに世間話好きのおばちゃんのように見えた。
「そう言えば、ラルは急に話し方を変えたけどどうしてだ?」
ふと、思い出した事を聞いてみた。
「あぁ、それはまぁ、多少はって感じですね」
急に返答が歯切れ悪くなる。
どうやら答え辛いところを突いてしまったらしい。
「っと、そこの平地が丁度中間地点です。思ったより早く着きましたね。
ここから先は休めそうな場所が殆どないので、ここで充分に休息してから出かけましょう」
そう言いつつラルが指をさしたのは殆ど凹凸が無く平らな地面。
野営地なんかにはうってつけの場所だ。
「王都まではここから6時間程かかりますし、一度辺りで仮眠でもとりましょうか。
流石に皆さんもお疲れでしょうから」
「そうですね、今朝から殆ど通しで行動していましたし、正直、ちょっとだけ眠いです」
セラの言葉に他のみんなも頷き、すぐに簡単な野営が出来るように準備を始めた。
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手に持っていた松明の灯りもあと少しで消えるとなった頃。
不意に強風が正面から吹いて来た。
その勢いは余りにも強く、持っていた松明の灯りはおろか、松明そのものすら洞窟のどこかへと飛んで行ってしまった。
「思ったよりも早く着きましたね。もう少しですか、みなさん頑張って下さい。
あと5分も経たずに洞窟から抜けられますよ」
ラルの言葉を聞くと、僅かに緊張した。
それもそうだ。
これから向かうのはこの世界で一番栄えている場所ーーー王都ネルアス。
あらゆる食材、あらゆる道具にあらゆる人材。それらが揃うとまで言われている。
更には、様々な国から訪れた旅人達のお陰で王都ネルアスは独特の進化を遂げたらしく、一度訪れてから半年後に再び訪れると以前とはまるで別の国のようになっている、なんて噂まで流れる次第だ。
そんな話ばかり聞けば、嫌が応にも緊張の一つくらいする。
それに、緊張しているのは俺だけじゃないみたいだし。
「(そわそわそわそわ)」
縄を伝って感じ取れた小虎の貧乏揺すりや。
「(きょろきょろきょろきょろ)」
あからさまに挙動不審になり辺りを見回すセラ。
フタとナリに関しては洞窟内が暗くてよく見えないが、雰囲気で緊張しているのが感じられる。
なんて事を考えながら歩いていると、目の前が真っ白に覆われた。
「眩しっ…!」
両腕で顔をかばうようにしてそれでも道を進むと、今までは正面からしか受けることのできなかった風を全身で感じられる場所へと出ることができた。
暗闇に慣れたせいで目がズキズキと痛む。
鼻孔はさっきまでの湿った匂いとは真逆の草木の香りに包まれ、足元はガチガチに固まった岩肌から踏み慣れだ砂道へと変わる。
「みなさん、目を傷つけないように慣れるまで開かないでくださいね!慌てなくともネルアスは逃げませんから」
ラルに言われた通り目を光に慣らすため、ゆっくりと開いていく。
「す、凄い…!」
初めはフタの声だった。
正に驚嘆というにふさわしいおどろき方をしている。
「わー!すっごいでっす!おっきいでっすねー!」
「これが、王都と呼ばれる場所…なのですね。
開いた口が閉じません…」
「なんだアレ!どういう事だ!?」
続いてナリ、セラ、小虎と次々に感想を言い合った。
そして最後は俺だ。
「うぉ!でかっ!…って!なんだこれ、何も見えない!」
そう、俺たちの目の前に現れたのは、豪華絢爛な城でも、栄えに栄えた街並みでも何でもない。
「ようこそ、御一行様。
ここが、私が生涯をかけて仕えると誓ったルフェン女王のおわします城塞!
王都ネルアスにございます!!」
声高々に紹介されたそこは見上げてもまだ足りない程に高く高くそびえ立つ、堅牢な白璧の景色だった。
To be next story.
如何でしたか?
面白いと思って頂けたのなら幸いです。
今回のサブタイは白と城をかけてみました。
くだらないとか言わないで下さい笑
それではまた暫くの後にお会いしましょう。