俺とみんなとお話
どぞー
「クソッ!迂闊だった!!」
身体をロープで三重に縛られ、更に両手首をきっちりと結ばれたガーゴイルーー名をガルというらしい。ーーを捕縛した俺たち。
ちなみに、メスだそうだ。
縛る時に胸元に縄を回したら怒られた。
「焦らず仲間を呼びに戻ってればこんな失態……!!」
「……まぁ、仕方ない気はしまっすけどね」
声を荒げて悪態を吐き続けるガルを取り囲むようにして立ち、少しでも情報を得ようと尋問を始めようとするが。
「いいか!絶対に何も喋らないからな!」
「……まだ何もいってないのだがな。まぁ、当然察するか」
このように、取りつく島もなく睨み返されてしまう。
勿論、こんなのは想定の範囲内だが、面倒である事に変わりない。
時間も無いのであまり手間をかけてはいられない。ガルには悪いが、少し手荒にいくしか無いだろう。
「……さて。俺たちはあまり時間がない。それはわかるな」
「はん!だったらさっさと行けばいい」
「当然そうするつもりだ。勿論、お前から有益な情報を得たらな」
「だから!何も話さないって言ってるだろ……って、え…」
それまでの威勢の良さが嘘のように口篭るガル。
理由は、首筋に近づけられた一本のクナイだ。
「ルフトさん、それ…」
「あぁ。少し借りるぞ、セラ」
「それは構いませんけど……」
不安げにこちらを見つめ、右手を胸の前で握るセラ。
知らぬ間に武器を拝借されていたんだ。怖くなるのも無理はない。
「お、おい。それ、どうするつもりだよ」
「尋問に刃物と言えば、後は決まってるだろ?」
一瞬、肩を震わせたガルの首にクナイの腹を触れさせ、更に恐怖を煽る。
「い、いい言っとくが!そんな脅しには屈しないからな!」
「だろうな。だから、脅しじゃない」
軽く、首元に刃を押し当てる。
微かにあがる悲鳴。同時に、刃の当てられた場所から赤い血が流れる。
「お、おいルフト…」
「小虎っち、静かに」
左隣からもあがる恐怖を帯びた声。だが、ここでやめるわけにはいかない。
「へぇ。魔物も血は赤いのか」
「……ガーゴイルのメスにはたまにいるだけだ。普通はお前達蛮族とは違う色をしてる」
「なら、仲間だな。その蛮族とやらに」
「……!!!ふざけんな!拷問と尋問の違いもわからん猿と同列に語るんじゃねぇ!」
ガルは食い込む刃を気に求めず、身を乗り出し激しく抗議する。
だが、軽く押し込んでやると、直ぐに身体を引いた。
「だったら話は早いな。拷問は趣味じゃないんだ。『尋問だった』と言えるうちに、さっさと話せ」
「ぐっ…!
チッ!いいさ!殺したきゃ殺せば良い!それで王が護れるなら本望だ!」
「……そうか。なら、話はもうおしまいだ」
ガルの意思を知り、尋問では口を破ることが出来ないと分かった。
だが、それで『はい。そうですか』と納得して帰してやれるほどこちらも半端な覚悟で乗り込んできたわけじゃない。
残された道は一つだ。
「みんな、暫く外を見張っててくれ」
「……ルフトさん」
「分かった。私達が責任を持って周囲を警戒しよう。
決して、邪魔が入らないように」
「悪い」
頷き、フタとナリが二人の背を押して扉の方へと行くのを確かめる。
「これで二人きりだ」
「好きにしろ。どうせ敵にあったら死ぬしかないんだ。大した事じゃない」
下唇を噛み締めてガルは俺を睨み付ける。
「まず、俺が聞きたいのは『お前達の王がどこにいるのか』。これさえ分かれば正直他の事はどうだって良い」
首元に当てたままだった刃を離し、クナイを逆手に握り変える。
「次に『安全にそこまで行くにはどうすればいいか』だ。可能な限り手薄な所を通って、出来るだけ疲労の少ない状態で戦いに臨みたい」
そうして、握り直したクナイを思い切り振り落とす。
ガルの太腿に目掛けて。
「あぐッ…!」
「最後に、『外への出口』。退路まで確保して初めて奇襲だからな。
ただ突っ込むのは突貫だ」
肉を裂き、中程まで突き刺さったクナイを二度、ぐるりと大きく回す。
ぐちぐちと不快な音を立てるガルの太腿。
赤黒い血が湧き水のように止めどなく溢れてくる。
「勿論、これを全部話せとは言わない。城での体裁だってあるだろうからな。受けた傷を見せてやれば少しは減刑される筈だ」
「フッ…!フゥッ……!!」
唇から血が滴る程強く食いしばり、必死に痛みを耐えようとするガル。
彼女の太腿から一度クナイを引き抜き、次は肩の付け根に先端を触れさせる。
「さっきので取り敢えず歩けなくなったな。
じゃあ次は、抵抗出来ないようにする」
「……!」
ツプリ。
鉛筆の先程の細さしかないクナイの先端を、ゆっくりと刺していく。
何が起きているのかを理解できるよう、唐突な痛みにだけ耐えれば良いわけではないと伝わるよう。
「さっきは悪かったな、いきなり突き刺したりして。凄い痛かっただろ?
だから今度は、きちんと頭で追えるようにじっくり刺すから安心して欲しい」
「はぁっ、はぁっ」
「大丈夫、そんなに慌てるな。ちゃんと全部刺してやるから。そうしたらもう一度回してやる。太腿の時と同じようにな」
絹を裂くほどの滑らかさで吸い込まれていくクナイ。
流れる血も、緩やかに筋を作って滴り落ちていく。
「痛いか?
魔物は人に比べて耐性が強いらしいが、それでも一方的にやられてるんなら気休め程度にしかならないんじゃないか?」
「だ、黙れ…!」
「どうして?痛いと言ってしまいそうになるからか?」
「黙れ!」
声を大きく荒げ、会話を拒むガル。
その時に、身を乗り出したせいか。
「ぐあぁぁ!」
「何やってんだよ。せっかく気を使ってやったのに」
根元の辺りまでクナイが差し込まれてしまった。
「……ふ、はは!ざまぁないな!
これで分かっただろ!拷問なんて意味ない!だから、さっさと行った方がいいぞ!時間の無駄だ!」
ガルは瞳を僅かに濡らして猛る。
……もう少しか。
「そうだな。時間の無駄かもしれない」
「だ、だろ!分かったらさっさと……ヒッ」
突き刺さっていたクナイを引き抜き、その先端を次はガルの右目の真ん前に持っていく。
「お、おい。冗談だよな?さっき無駄だって言ったばかりだよな……?」
「言った。けど、やめるとは言ってない。そうだよな?」
「う、うあ、あああ」
べっとりと自身の血がへばり付いた凶器を目の当たりにして、とうとう痛みを耐える事すら忘れてしまったらしい。
情けない声を出して、ロクに動かない左足を使って後退りを始めた。
「知ってるか。目玉って半分以上水分らしいぞ」
語りかけながら近づけていく。
「水の詰まった球体を、刃物で刺したらどうなるんだろうな。
破裂するのか、くり抜けるのか、液体だけが漏れ出るのか。どれだと思う?」
「や、やめ…」
「けど、教えてはくれないんだろ。じゃあ、さっきのどれなのかを確認するために時間を使うよ。
お前も気になってるだろうし」
あとほんの少し。
息を吹いて押すだけで突き刺さる程の高さまで先端が迫った頃だ。
「分かった!話す!全部、話す……!」
「……それは良かった」
恐怖ですっかり涙を溢れさせてしまったガルが、泣き出したように観念してくれた。
「……ま、こんなところか」
「中々、過激なんだな。ルフト」
「ちょっと怖かったでっす」
「ま、ちょっとな」
聞きたかった事を全て聞き出し終え、みんなと合流する。
縛られたままのガルは既に意識を失い、眠ってしまっている。
「さてと、これで取り敢えず全部分かった。後は進むだけだ」
そう言って扉の取手を握る。
外は多分大丈夫だろう。フタ達が見張っている間、特に誰かが来たわけでもないらしい。
元々あまり人通りが多くないのだろう。
恐らくガルは本当にたまたまここを通ってしまったようだ。
「ま、待てよルフト」
「どうした小虎」
いざ扉を開けようとした俺の肩に手を置き、何か言いたげにこちらを見る小虎。
彼女が心配する先は、ガルだ。
「あいつ、治さなくて良いのかよ。敵だけど、放って置くのはかわいそうだろ」
「……あ、あぁ。そうか。みんなにはそう見えてるのか」
一瞬、何故そんな事を言われるのか分からずに混乱するも、すぐに理由がわかった。
「大丈夫です、小虎ちゃん。あの魔物は無傷ですから」
「…は?」
「でっすね。まぁ、相当真に迫ってまっしたし、信じてしまうのも無理ないかと思いまっすが」
「だな。同じ立場だったらと思うと、ゾッとする」
俺と自分を除くみんなからそんな事を言われて首を傾げるしかない小虎。
その間に、俺は術を解除した。
「ほら、見てみろ」
「……あれ」
ガルを示し、周囲の状況が一変している事に更に首を傾げる。
「ま、そういう事だからさっさと行こう」
「……あーーー。分かった、ぜーんぶ理解した。
ルフト、お前最低なんだな」
「…否定はしない」
ようやく納得したらしい小虎に悪態を突かれつつも、王の待つ玉座へと急いだ。
to be next story.
それではまた次回。
さよーならー




