俺とユキミと両成敗
では、どうぞ。
努力の甲斐あってユキミの浴衣姿を見た後。
「こぉんの大馬鹿!!」
部屋に戻って待っていたのは、女将の説教だった。
「「ごめんなさーい!!」」
突然現れた女将は、有無を言わさず俺とユキミをその場に正座させ、手にしたハリセンで一度ずつ頭を叩いた。
「覗きたいのはわかるよ!?けど、命を懸けてまで見たいとは普通思わないだろう!?
アンタ、あそこから落ちだらどうなるかも分からないほどの馬鹿じゃないだろう?」
バシン、バシンと二度頭をハリセンで叩かれる。
女将の言う通り、あのねずみ返しのある位置から下に落ちれば良くて良くて骨折、悪ければ死ぬことだってありうる。
「うう…どうしても、見たくて…」
それでも、追わなきゃいけない夢がある。あの時は本気でそう考えていた。
「旅の仲間なんだろ?言えば見せてくれただろうに」
「それはない」
「はい、無いですね」
「あり得ないな」
呆れ気味に言葉を漏らした女将に即答する三人。
…まぁ、仮に[見せてやる]と言われても困るには困るのだが。
「…と、とにかく。アンタみたいな大馬鹿は初めてだよ。今回はほかのお客様に迷惑があったわけじゃ無いし、咎めはしないけど、次同じことやったら裸で市中を引きずり回すからね?」
「は、はい。分かりました」
三度ハリセンで叩かれ、一先ず俺に言いたいことが済んだのか女将はユキミの方へ向き直る。
「問題は貴女ですよ。ユキミさん」
女将はハリセンを持っている手で額を抑えて口を開いた。
「四英傑である貴女が覗きだなんて…。他の者に示しがつきませんよ。何を考えているんですか」
俺とは打って変わった口調に少々ムッとしながらも、同時に、そう言われても仕方がないのか、と感じる。
国を挙げての英雄、その一人が宿屋で覗き、だなんて、後に続く人たちの手本になるとはとてもじゃないが思えない。
「…別に、ルフトと同じように叱ってくれて良いんですよ?女将さん」
「そういうわけには行きませんよ。今でさえ、誰かが間違って入ってきて見られたらどうしようかとオドオドしてるんですから。
貴女のような英雄が、私のような一般人に説教を受けている、なんで知れたら、四英傑全員の尊厳に関わります。
…公には出来ませんし、お咎めはありませんけど、二度と同じことをしないで下さいね?」
「……分かりました。気をつけます」
深く、頭を下げたユキミを見ると、女将は壁際に座って見ていたツキミに振り向くと。
「先程はユキミさんをこんな物で叩いてしまいましたが、どうかご容赦を。
私共も生活がかかっています故…」
「うん、大丈夫。今回の件はこちらに全て非がある。私たちから外部に漏らすことはないよ」
「有難う御座います。
……それでは」
恭しく頭を下げると、女将は部屋を後にした。
「全く。何をやってるんだ二人は。肝が冷えたぞ?
追い出されなくてよかったよ、ホントに」
ツキミは安堵のため息と共に壁に寄りかかる。
「ここを追い出されたら、他の泊まれる場所を探さなくてはいけなかったからな。
客足自体はここ最近の侵略行為のせいで遠のいてはいたが、それでも遊びに訪れる者は多い。
すぐに代わりが見つかるかは怪しい」
「そういえば、どうして心ノ町にはそれほど被害が出ていないんでしょうか?」
「言われてみればそうだな。今日通ってきた場所を見る限りだと、ヒビの入った壁すらなかった」
セラとフタの疑問に、間に座るツキミが少し悩ましげな顔をして答える。
「それが、私たちにもわからないんだ。
攻められた当初は、町の出入りを禁止して堅牢な防衛を徹していたが、三日経ってもアリの子一匹攻めに来ない。
初めは我々の防衛に手をこまねいているのかとも思っていたけど、さらに三日経っても偵察兵一人見えなかった。
その頃から刃ノ町の方が激戦になり始めてね。
人手を回す都合上、少しずつ手薄になっていったんだけど、やっぱり攻めにこない。
観光客からの不満の声もあって、外出を許すようになっても攻めに来る雰囲気は無くて、次第に防衛も形だけになっていたんだ」
「ふむ。
そこまで油断させるのが作戦だったのでは?と、思ってしまうが」
「それでも攻められなかった、ということですか?」
「うん。そういうことなんだ。
約一週間だっだが、その間に失われた収入は凄まじくてな。そういったこともあり、[泊まる者は自己責任で〜]と現状を書いた看板を町の入り口に建てて、今に至るわけだ」
腕組みをしてツキミは小首を傾げる。
リアンが死んでしまった今、その真相を知るには刃ノ町で捕らえている敵兵に答えてもらうしかないだろう。
「……さて。わたくしは少し外の空気でも吸って来ましょうか」
ツキミ達の会話も終わり、少しの沈黙があった後、ユキミはこぼすようにそう言って立ち上がった。
「うん?なら、私も行こうかな。久し振りに見て回りた…」
「約束があるから、ねぇさんは待ってて」
言い終えるよりも早く…まるで、ツキミを拒むようにして告げる。
「そ、そうなんだ…。
誰に合うかは知らないけど、よろしくいっておいてくれ」
「えぇ」
小さく微笑むと、ユキミは部屋を出ていった。
「…どうかしたんでっすか?」
「ユキミとケンカでもしたのか?」
それと入れ違いに入ってきたのは、ナリと小虎。
二人とも手拭いを手にしているところから、今までずっと温泉に浸かっていたんだろう。
「いえ、喧嘩はしてませんけど…」
「私たちにもよくわからんのだ」
セラとフタの返答に首をかしげる二人。
「まぁ、それならその内戻ってくるか」
「ところで、コドウはどこでっすか?」
「あぁ、ヤツなら確か…」
「(ルフトくん。悪いけど、ユキの様子を見てきてくれないか?)」
四人の様子を眺めていると、いつの間にか側に寄ってきていたツキミにそんな事を耳打ちされた。
「(え?
別にいいけど、ツキミはいかないのか?)」
何か会話をしている四人の邪魔にならないよう声を潜めて返事をすると、ツキミは少し寂しそうな顔をして頷いた。
「(姉妹だからこそいえない悩みもあるものなんだ。
私の他にユキと親しいのは君だけだし、頼まれてくれないか?)」
「(…わかった。行ってくる)」
ツキミから漏れる切実な思いを受け取って、俺は部屋を後にした。
To be next story.
それではまた次回。
さよーならー




