俺とネフェンとお出掛けと
オッスオッス。久しぶりといえば久しぶり、違うといえば久しぶりわない投稿です。
どーぞ。
舗装され見栄えさえ美しい石畳の上を歩く人々。
ある者は[あいす]と呼ばれる甘くて冷たいお菓子を食べ歩き、ある者は子供に公園へと急かされる。
雑踏と表現して差し支えない人通りの中で一際異彩を放つのは、べったりと俺にくっついて離れてくれないこの女性だ。
「ふふん。男と二人で栄える城下町を闊歩する、というのも中々に乙なものよな。
ま、問題点があるとすればその相手じゃがの」
呑気に鼻歌を歌うその女性の名はネフェン。
今日未明に王都へ訪れ、はやての如く俺を攫っていった張本人。
「だったら離れてくれ。歩き辛い」
「イヤじゃ」
そんな言葉をこの店に来るまでに五度程繰り返していた。
「さて、ここが目的地か。思ったより遠かったのぅ」
「まぁ、そうだな。通りで気になっても来なかったわけだ」
すれ違う人の波を背に見上げるのは[お食事処・ヴィルヘルム]とチグハグな単語同士が繋がれた看板を掲げたどこかお洒落なお店。
そもそもヴィルヘルムってなんなんだ。
「なんじゃ、知らんのか?」
思っていた言葉が漏れてたらしい。
悪戯っぽく口角を上げて口元を抑えるネフェンの顔が視線の先に割り込んできた。
「ヴィルヘルムというのはある国の、所謂英雄と呼ばれる人物でな。弓の名手だったんじゃ。
また、とある国では男性の名としても多かった。それに響きがかっこいいからの。言葉だけが一人歩きして幻獣や武器の名にもなったりしておるんじゃ」
「へぇ。知らなかった。物知りだな」
「まぁの」
ふふん、と腕組みをして得意げに微笑むネフェン。
テキトーな相槌なのにそんなに喜んでもらえるとなるとちょっと申し訳ない。
「…あんまり店の前で立ってないほうがいいよな。そろそろ入るか」
「じゃな。
…おっと、金を忘れてきたみたいじゃ」
「はぁ。わかったよ、立て替えとくから後で返せよ」
入り口での最後の会話を終え、扉を開ける。心地良い鈴の音と、同時に聞こえる楽しげな音楽。
視界の先に広がるのはゆったりと空間を使用した客席と、酒場では味わえない落ち着いた雰囲気。気のせいか席についてるのは男女一組ずつが多い。
「ふむふむ。どちらかというとこの店は喫茶店に近いんじゃな。かっぷるが多い上に雰囲気がいい」
「かっぷる?」
「…成る程。確かにルフェンは外来語を多用しなかったな」
「外来語?」
「気にするな。おいおい分かる」
よくわからないことを立て続けに言うネフェンに首を傾げていると、奥の方から女性の店員が現れた。
「いらっしゃいませ。2名様ですか?お席はあちらの恋人席で宜しいでしょうか」
尋ねているのか決め付けているのか、言葉を差し込む暇がない。
それどころか。
「うむ。そこで良い」
断るべき席への案内を促すアホのせいで、マントを翻すおかしな女と恋仲になってしまった。
「食後のコーヒーか。久しいな」
「俺はあんまり好きじゃないんだよなこれ。苦いだけだろ」
昼食を終えた俺たちはさっきの店員が運んできた、食事をしたお客には無料で提供しているというコーヒーを飲んでいた。
王都に来てから知った飲み物・コーヒー。ここ最近流通するようになったというのもあるからなのか、城下町にある店にはどこにでもある。酒さえ飲めればあとは誤差という考えのはずの酒場にもあったから驚きだ。
ついでに驚くことは、この苦い汁を好んで飲むという奇特な人種がいるということ。セラとナリとサルナはその人種で、今度一緒に飲みに行こうと約束さえしていた。
「ふっ。それはお前がまだまだ子供だということじゃ。ま、この味がわかるようになるのはもっと先じゃろうな」
「うるせぇ。匂いは好きなんだよ匂いは」
意地になって口へ運ぶもやはり苦味には勝てず顔をしかめてしまう。
そうして食休みも終えてそろそろ帰る頃かなと思っていると、ネフェンが神妙な面持ちで口を開いた。
「師として聞く。
お前、自分に術を使ったな?」
「…はい」
狩り人を彷彿とさせる眼光が肺を刺す。
今まで一度も受けたことのない激しい怒りを師匠から感じる。
「あれほど使うなと言ったにも関わらず使いおってバカ者が」
「…え?」
「『え?』ではないバカ。代償が大き過ぎるから使うなと口を酸っぱくしてアレほど…」
呆れたと言わんばかりに目を瞑り眉間にしわを寄せてコーヒーの残りを啜る師匠に、しかし俺は身に覚えがないと答える。
「あのなぁ。言い訳をするならもう少しマシなのを…」
こめかみをヒクつかせながら指先で卓士…もとい、テーブルと呼ばれた机を叩き続ける。
「いや、本当に知らないんですって!」
更なる怒りを買う前に弁明をする。
と言うのも、以前小虎と話した時に疑問に思った『骨』のことだが。
「…他の者は知っているのにお前だけ知らぬ、と?」
「正確には小虎からしか聞いてませんが。多分。」
「はぁ…。いやそうか。ふむ。はぁ…」
骨の話をするや否や急に額を抑えながらため息を吐くようになる。
てっきり、何の関係もないだろう!とでも言われて更に逆鱗に触れるのかと思っていたが違うようだ。
「嫌な予感が的中したな」
「嫌な予感?」
腕組みをして「どう話すか…」と呟くネフェン。こちらとしては何でもいいから知りたいところだけれど、少し待つしかなさなさそうだ。
それから少しして。
店員が少しだけ不満そうな顔をして持ってきた新しいコーヒーを半分程流し込んだ頃。
「…そうじゃな。そう話すか」
ようやく話し方が決まったのかそう言うと、まだ熱いコーヒーを口に運び「あっつ!」などと感想を述べる。
「まず、お前が自分に術を使ったのはこれで二度目じゃ。わしの知ってる範囲ではあるがな。
二度目はお前が故郷で戦った時の事。一度目は、わしとの修行が佳境に入った頃じゃ。
自分にその術を使う。言葉にすればなんてことはないが、実際はかなりの禁忌。自分の感情に上書きしておきながら意識下で行動する、なんて矛盾もいいところじゃろ。嫌だと思うものを好んで行えるようになり、本来なら絶対にしないことでさえ指先一つで行えるようになる。普通なら自己矛盾で頭がおかしくなるのを術によって抑え込む。
するとどうなるか。簡単じゃ。心が歯止めをして記憶が飛ぶ。しかも、術を行使した時間の全てではなく、特に自分が[嫌だ][知りたくなかった][したくなかった]と思った部分だけが虫食いの葉のように欠落していく。勿論その前後の事もな。まぁこれは誤差に近いがの」
いつもの師匠からは思いもしない真摯で丁寧な話に思わず面食らうも、一言一句聞き違えないように受け止める。
「その結果、骨の話は誤差ではあるけど記憶から無くなった、ってことですか?」
「お前から貰った情報だけだとそうなるの。
けれど、他の皆がお前に気を使って言っていない事実があり、それと骨がなんらかの理由で繋がっておる可能性も充分に考えられる。
そうなった場合、骨が核心部になる可能性もあるが…まぁ、それはないじゃろ」
残ったコーヒーを一気に飲み干すとそのままネフェンは立ち上がる。
「ほれ、要件は済んだ。そろそろ行くぞ」
そう言うとそそくさと出口の方まで足早に向かう。
どうやら師匠としての話は終わったらしく、普段のように戻ったらしい。
「ま、待てってまずは会計を…!」
財布を出しつつ立ち上がるも上手いこと取り出せず、しかもテープルと椅子の間に挟まり立ち上がり辛い。
ついでに言えば周りから哀れむような視線を向けられるという三重苦。
別に俺は振られたわけじゃないってのに。
苛立ちを抑えつつ隙間から脱出し、間違いなく財布を取り出す。
後は出て行った女性を追えばいいのだろうけど、そもそも付き合ってないのに追うと言う表現があっているのだろうか?などと考えていると。
「お会計、まだですよ」
扉付近で体格の良い黒服のお兄さんに肩を掴まれた。
「む、ようやく帰ってきたか。遅いぞルフト」
扉を開け、居間…ネフェンやサルナが言うにはリビング?に息も絶え絶え倒れ込んだ俺の目に映ったのは優雅に紅茶を飲むネフェンとセラ。
「あんたが置いてったんだろうが。
あの後大変だったんだぞ。変な男三人組に囲まれて危うく憲兵団に突き出されるところだったんだからな!」
「まぁそう言うでない。お前が遊んでいる間にわしはわしで情報を集めておったのだ」
カップを皿の上に置きしたり顔をするネフェンに、対照的にどこか不安げなセラ。
ネフェンの言う情報と言うのは多分、骨のこと。というか、虫食いになってる俺の記憶のことだろう。
「あの、それじゃあ私はこれから武器の手入れがあるので…」
何に怯えているのかセラはカチャカチャとカップを震わせて皿に置き、それを持って台所の方へと消える。
「どうじゃ?お前も飲むか?」
再び手にしたカップを差し出すようにして口に運ぶネフェンに俺は首を振る。
「そうか。
何にも飲めないんじゃなお前」
「緑色をしたお茶なら大好きだ。この辺じゃ売ってないから飲めないけどな」
そうして。
再び狩り人のような視線を露わにしたネフェンと、二度目の会話が始まった。
To be next story.
私はコーヒー好きですよ(弁解)
でも初めて飲んだ時は「なんだこれにげぇ汁だな(孫悟空)」と言ってたのでその時の感じで書きました。
後なぜヴィルヘルム?と思ったそこの方。
だってかっこいいじゃん。響きが良すぎる。あとなんかブリヤァーーー⤴︎⤴︎⤴︎って言いそう(クソにわか)
では(唐突)次の投稿でまた会いましょう。
さよーならー。




