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俺とみんなと小休止

すっげー久々に書いたゾ〜。

忘れてたわけじゃないってはっきりわかんだね。


では、どうぞ(唐突)


「今日は珍しくすぐに来ましたね」


サルナの口火によって謁見の間に集められた俺たちに緊張が走る。


「流石に女王様の一大事ともなれば遅刻は出来ないと言ってましたよ」


他の二人を連れて来たラルは、定位置なのかサルナの横に立ちながらそう言った。


「前置きはいい、要点だけ話せ。

…どうして部外者がここに居るのかも、な」


初めに入って来たのは如何にも歴戦の戦士といった風体の男で、ラルを一瞥すると、振り向いてギロリと猛獣のような眼で睨んできた。

ルフェン女王の一件が無ければ膝をついていたかもしれない程に強烈な圧力だ。

少しでも気を抜けば膝が笑ってしまう。


「まぁそう言うんじゃねぇって。いいじゃないか、このご時世どいつもこいつも鎧だ兜だ着込んで飾ってるってのに、着流しじみた格好だぜ?ちっとは見込みがあるってもんだ!」


そう言ってゲラゲラと大笑いするのは屈強な肩から顔を覗かせる、白い長袖とタボついたズボンを履いた痩せ気味の男。


「お前はそうやって軽々しく話すんじゃねぇよ」


「おいおい、男の嫉妬はみっともないなぁ?」


「ぶち殺すぞ!?」


獣を相手するように白服の男は戦士然とした男をなだめると、俺の視線に気づき、こっちに手を振ってきた。

思わず振り返そうとしたが、下ろした時に見えた手の甲は皮膚の色がチグハグで、奇妙な感覚がそれを拒んだ。


「(彼らが残りの近衛兵、か。女王を護る兵士なのだから、てっきりもっといるものだと思っていたのだが…)」


「(いいや。フタなら解るはず…でっす。彼らは只者ではない事が。

見ただけでっすが、そこの二人の戦闘能力はあの時のドラゴンなら軽く倒せる位にはあるはずでっす。恐らく、【これ以上は必要ない】という事なのでしょう)」


隣で話すフタとナリの会話が全て聞こえたわけではないが、どうやら相当の手練れらしい。

確かに、戦士然とした方は筋骨隆々で無骨な肉体派だと一目でわかった事や、あの眼光からも味方にすれば頼もしい存在だろう。

そしてその男を相手に軽口を叩けるあの白服の男も只者ではない、という事だろう。

そこに加えられるラルとサルナだが、あの二人も普段は隠しているだけで本当は何か凄い力を持っているんだろうか…?


「確かに、彼らについての説明がまだでしたね。

彼らは例の老いたドラゴンが縄張りにしていた土地の、ある町から来た一行です」


話題がこちらに向き、俺たちは思わず姿勢を正してしまう。


「まず、そこにいる少年の名をルフト、隣に立っている杖を持った少女がセラ、続けて茶髪の男せ…いえ失礼、女性はフタでその隣にいる空色の女せ…すみません、男性、はナリです」


呼ばれた順に頭を軽く下げて挨拶をする俺たち。

フタとナリの性別を見抜いたのか、或いは前もって聞いていたのかは分からないが、やはりこうも見た目が本来のらしさからかけ離れていると言い違えてしまうようだ。

それにしても、女王の側近だけあってきちんと説明してくれた。

さっきの一件があるからてっきり、『変質者の男』くらい言われるのかと。


「そして、そこでサラシを巻いてダボついたズボンを履いた不敬者の塊のような女が小虎です」


「なんでオレだけ当たりが強いんだ!?」


そんな中、最後に紹介された小虎は、特大の嫌悪感を投げつけられていた。

どうやら、俺とラルの事は事故として認めてくれていたようだ。


「チッ。

…いえいえ、そんなつもりは毛頭ないですよ。たまたまです、たまたま。

ルフェン女王様と同じお部屋で寝るよう言ったのは私ですし、そのためにベッドをラルと運び入れたのも私ですが、まさかそこに寝かせたはずの小虎が、ルフェン女王様のベッドの中に忍び込んだとは思いもしませんでた。しかし、これも人助け。怒りなど持ち合わせていませんよ?」


その点、小虎は故意にしたと思われたらしく、ニッコリと笑ったサルナにこれでもかと嫌味を叩きつけられている。


「舌打ちが聞こえたんだが!?」


そして、とうとう我慢の限界に来たのか小虎は涙目で反論を始めた。


「(そっちなんですね、小虎さん……)」


隣では、「もっと問題視するべきところがあると思うのですが…」と肩を落とすセラがいた。


「幻聴では?」


指摘された事に対して、全く悪びれた様子の無いサルナの厚顔具合には思わず苦笑いが出てしまう。

というか、女王と同じ部屋を使わなければならないほどこの城は寝床が足りないのだろうか?


「(そう言えばルフトさんは知りませんでしたね)」


俺の疑問に気付いたらしく、隣に立っていたセラが説明してくれた。


「(なんでも、このお城はあまり女性が優遇されないらしいのです。ルフェン女王や近衛兵の方達とは別に偉い人達がいるそうなのですが、そちらがあまりいい顔をしないのだとか。

彼らの意見を無視して男女の扱いを公平にすると多方面で問題が起きるらしく、小隊長クラスは本来なら四人部屋をあてがわれるらしいのですが、女性だと所謂一等兵などと同じ大部屋になるそうです。それでも、部隊ごとに女性部屋を分けられたのはルフェン女王の尽力あってだそうです)」


悲しくも怒りに満ちた声でセラは言い終える。

俺の住んでる町では殆ど聞かなかった事だが、以前に一度だけテピュラスが教えてくれた事があった。

『場所によっては男尊女卑だったり、真逆の女尊男卑だったりがあるからそういった場所のクエストに行く場合はそこのルールに従えよ』と。

情報で知っていても、やはり実感できる形で知ると違和感が湧いて来る。


「(なんだそりゃ。じゃあ、サルナさんも大部屋なのか?)」


「(いえ、それは違うそうです。やはり近衛兵クラスの兵士が他の兵と同じ部屋だというのは幾ら何でもおかしいと、ラルさんやあちらに立っている御二方と直談判したそうです。ルフェン女王も同様に頼み込んだのだとか)」


「(それはまた凄い話だな)」


どうやら男尊女卑的なルールのある王都だが、徹底しているという訳でもないらしい。

それも、治るのが女王だから、なのだろうか。


「(はい。全く失礼な話ですよね、女性に対して当たりが強いだなんて、酷いにもほどがあります。男性兵士用の部屋にはまだ幾らでも空きがあるそうですよ?そういった部屋をちゃんと貸し出してくれれば、私たち三人がサルナさんのベッドを占領することもなく、サルナさんが椅子で寝ることも無かったのに)」


俯いて言葉にするセラは、手にした杖を力強く握っている。


「…という訳です。これが取り敢えずの状況方向になりますね。正直、この事実の深刻さは実際に目の当たりにしないと理解できないでしょう。

ルフェン女王とネフェン…さんに伺いに行ったラルが戻り次第、部屋に入る事にしましょう」


「どう思うよ、リグ」


「…とても信じられない、と言うのが本音だけど、サルナ君がこんな冗談を言えるほど安い人間ではないし、ましてや嘘をつくとは思えない」


俺がセラから王都の事情を聴いている間に小虎を弄んだあとにサルナは、さっきまで起きていた事の説明をしていたらしい。

その内容から溢れる現実味のなさに戦士然とした男ーーラグーーは隣に立つ白服の男ーーリグーーと共に顔をしかめる。


「聡明なリグでも直ぐには信用出来ませんか。

まぁ、逆の立場だったとしたら当然、同じ感想が出ますがね」


「皆さん、女王様の心の準備が出来たそうです」


どこか不安げな面持ちをしたラルが帰ってくると、その言葉にサルナが頷いた。


「…分かりました。正直に言うと心底不安ですが気をしっかり保ちましょう」


サルナは左右の手をきゅっと握り、歩き出す。


「…そんなに酷いのかい?ええと、フタ、ちゃん?」


「!?」


唐突なフタの臨戦態勢に、近くにいた俺たちも武器に手を伸ばす。

だが、今、武器らしい武器を手にしているのはセラだけだ。

安心を手に出来ず、さらなる緊張が筋肉を強張らせる。

途端、背筋から足裏にかけてが凍り付いたように動かなくなる。

比喩ではなく、本当に動かない。

今動かせるのは、辛うじて首だけだ。

それも、一センチにも満たない僅かな範囲。


(このままじゃ殺られる…!)


死を受け入れかけた時、前のめりになって身体が倒れる。

そのまま重力に身を任せれば顔面の損傷は免れない。だが、驚く事にすんなりと出た右足で全体重を支えられた。

意図しての行為ではなく、完全な反射だ。

まるで嘘だったのか、首から下が何不自由なく動くようになっていた。


「おっと!そんなに身構えないで、大丈夫だからさ」


けたけたと笑っているのは頭に手を組んでいるリグだ。


「なるほど。偽物ではないようだ。

ちょい気になるところはあるが…。ま、ラルに限ってそんな事はないか!」


小気味よい、だが俺たちにとっては不気味に過ぎる、笑い声を残して、リグは前方を歩くラグへと軽い足取りで去っていった。


「…冗談だろ。殺気もないのに死ぬかも知れないと思ったぞ」


「はい。私の反応速度では杖に手を伸ばすので精一杯でした」


セラは、右腕に捕まった怯えて声も出せない小虎の頭に手を当てて冷や汗をかいている。


「名前を呼ばれるまで、自分の耳元にいる事に気が付かなかった。なんなんだ、あの男は…」


右手で左腕を掴み、震える身体を落ち着かせようとするフタに、ナリが近寄る。


「(探っていた。私たちが本当に老ドラゴンを倒せるだけの力があるのかを確かめたんだ。

あのリグとかいう男、想像以上の戦士だ)」


「(ええ。少し気にかけておきます)」


二人の不穏な空気に、小さいながらも確実な緊張が走る。

これ以上の圧迫感は小虎には不味い。

気絶でもされたら大変だ。


「…ナリ、フタ?」


「る、ルフくん!どうかしたんでっすか!?」


「お、おや!向こうで皆が待っているようだな!早く行こうか!」


そう思って妙な緊張感を放つ二人に話しかけてみたのだが、予想もしない慌てぶりにむしろこっちが面喰らってしまった。


「えっ?いや、あ、おい!」


俺の制止も聞かずに二人は足早にラル達の方に向かっていった。


「二人共どうしたんでしょうか?それほど慌てるような言い方だったとは思いませんが…?」


「…まぁ、そうだな。オレから見てても、ルフトの言葉にはそんなに重さはなかった」


「なんだろうな?

っと、いつの間にか皆んなルフェン女王の部屋の前に着いてるな。俺たちも急ごう」


俺の言葉にセラと小虎は頷き、小走りで扉の前へと向かった。

そこでは痺れを切らしたサルナが膝の辺りを指先でコツコツと叩いて待っていた。


「ようやく来ましたか。

…では、行きますよ?皆さん準備はいいですか?私ですか?私はいつでもいいですよ」


取っ手を握り、背後で待機する俺たちに準備を問うサルナ。

状況を知っている仲間でさえ神妙な声に固唾を飲んでいる。


「いいですか?扉を開けますよ。三、二、一、失礼します。で開けますからね?いいですか、絶対ですよ?間違っても、一、の時に開けたりはしな」


「じゃあ僕が開けますね。失礼します」


「あー!」


一番心の準備出来ていなかったのはサルナのようだった。

口角が固定された笑顔のラルがサルナの手を取っ手から剥がし、扉を開けた。

その先で待っていたのは、記憶の再現だった。


「随分と楽しそうだなラル。ここに私がいると知っての行いでなければ、余とて一笑でもしたのだがな」


いや、それ以上の圧だ。

初めて受けたのがこれだったら、大袈裟ではなく死んでいただろう。

臓器が押し潰されるように苦しい。

呼吸が限りなく削られる。

だが何よりも堪えるのは。


《よしよし、なかなか上手くなったの!》


この外道ネフェンの声だ。


「本当ですかおねぇさま!!」


《だが、まだすこーしばかり恐怖感が足らんのぅ…。どうしたもんじゃろうか…》


「あぅ…。ごめんなさいです」


ルフェン女王の言葉の先にあるのは翡翠の宝石。

女王かのじょは掌の上に乗せている宝石に対して、喜んだり悲しんだり時には謝ったりしている。

その姿は、二人の関係を知らなければ異様な光景に見える事だろう。

そして、俺の見解が正しい事は彼らが証明してくれた。


「「ええええええええええ!!??」


ラグは顎が外れんばかりに口を開け、リグは腰を抜かして尻餅をついている。

とてもじゃないが近衛兵が女王の前でしていい態度じゃない。


「お、おい!なんだよこれは!サルナ!!」


「そうだよ!まるでさっきの話みたいじゃないか!!」


二人は隣にいるサルナに顔を向けて抗議…のようなものをしている。


「そのものズバリですけどね。まさか、手の込んだ悪戯だとでも?」


綺麗な顔に不釣り合いな怒りを露わにするサルナ。


「そりゃあ、サルナとラルが組むと結構酷いから…」


「ああ。だいぶ前だが、『馬鹿には見えない服をお持ちしました』とか何とか言って、あん時の性悪な大臣を素っ裸で街を歩かせたりしたからな。ありゃあ傑作だったが、今思うととんでもねぇ話だよ」


「そっ、その話はよしてください!あれはほんの出来心で…」


途端にサルナは顔を紅くしてチラチラとルフェン女王を覗き見し始めた。


「はは、懐かしいですね。ですが、今は思い出話をする時ではありません。

ほら、ラグとリグはさっさと態度を直して。サルナも、そんなに紅い顔で女王に会うんですか?」


「い、いえ。失礼しました。もう大丈夫です」


三人の間にラルが入ると陽気な雰囲気はすぐに消え、少し前の緊張感へと戻った。


《もうよいかの?ではルフェン、我が妹よ。彼らにすべて説明するんじゃ》


ピシリと緊張の糸が張り直される。

知らず知らずのうちに生唾を飲み込んだ音が室内に小さく鳴る。


「だけれど、やっぱり何もかもと言うのは…」


《事ここに至ってはしょうがなかろうて。わしらの関係も聞かずして誰がこんな石ころを信用する?

それに、お前の心配はもうしなくてよい。その者も、許してくれるはずじゃ。お前の認めた者なのだから》


「…うん。わかった。

…まず、この場にいるすべての者に誓って欲しい。今からここで話す全ての事は事実であり一切を受け入れるという事、また、絶対に口外してはならない事。この二つさえ守ってくれるなら余からは何もない。怒り狂おうが蔑もうがどんな不敬であっても許す。当然、その職を降りようとも構わない。その後の事も心配しなくていい。誓いさえ破らなければ」


そう語ったルフェン女王は、近衛兵も含めた俺たち全員の頷きを見ると、俺とセラに話した事と同じ内容をみんなに聞かせた。








話が終わると、前もって知っていた俺とセラを除いたみんなはそれぞれが複雑な顔をしていた。

俯いたり、歯を食いしばったり、静かに窓の外を見つめたり。

全員が共通して感じているのはまず間違いなく、困惑だろう。


「以上が、余…いいえ、私と姉であるネフェンおねぇさまの話です。

何か、質問があれば伺います」


ルフェン女王の言葉にはもう圧力は無く、ただの少しだけ大人びただけの少女の口調だった。

だが、率先して挙手する者はいない。

城下街を歩く見ず知らずの少女にでもできる口調だからこそ、誰も聞く事ができないんだ。



【今までの女王とは全く違う人間】に見えてしまうから。



「あの、私から一つ、いいですか?」


そんな中、恐る恐る手を挙げたのは、ある種の免疫があるセラだった。


「どうぞ。何でも質問してください」


「その、ルフェン女王は、いつからこのお城の主に?」


「それは…

いえ、答えます。私がここを治めたのは遥か昔。神話にも書かれている【始まりの乙女】がこの私です」


「なっ!ほ、本当なんですか!?ルフェン女王様!!」


誰よりも先に大声を出したのはサルナだ。


「はい。間違いありません。あの時代、この場所、今ですらなおもこの胸中に皆の事を覚えています。

総ての戦いの終わり。つまりは、人魔時代から人獣時代に変わる時、当時の全部隊の隊長だったゴーリが言ったのです。『不老不死の君が王になるべきだ』と。

『この時代を知る者は今後永久に君と、君が信じる姉だけになる。だからこそ、君がここに築かれる城の王となってくれ』そう言われました」


「で、でしたら!なぜ今まで一度もたりとも、誰も女王が同一人物だと指摘されなかったんですか!?」


「大昔には一度ありましたよ。神話にもある【魔女と女王】の項目です」


「や、やはりその話なのですね」


「はい。そこにも書かれている通り、魔女と呼ばれた私は一度この城を追われています。ですが、それは当時の側近だったカリィ。つまりはサルナ、貴女の遠い血縁の女性が私を助けてくれたのです」


「…母の言っていたあの話はホントだったんだ…」


力無くへたり込んでしまうサルナ。

その床の上には楕円のシミが幾つも形作られている。


「…いずれは話さなければと思っていました。ですが、事情が事情なだけに難しい問題だったのです。

お恥ずかしい話、何度か失敗していますからね…」


ルフェン女王は無念そうに顔を落とす。


「私の王位継承やその他の事については、サルナに後ほど詳しく話すとして、あなた達には私がどうやって今までこの王都を護ったかをお教えします。

私が玉座に座るのはおおよそ五十年。それを超えると次の王と女王に変わります。その後私は相談役となり影から国を動かします。やがて三組目の王と女王に席を渡すのです。二組目から三組目に変わる際にどれほどの時間がかかるか分かりませんのでその時々によって対応は変わりますが、大体は私が途中で亡くなったことにして、その時の女王に言うのです。『困ったら森の賢者に頼りなさい。そして、貴女方が困った時に送られてきた助言には必ず耳を貸しなさい』と」


そこまで話すとルフェン女王は小さく息を吐く。


「あとはもう分かりますね。

私から数えて三代目の女王に変わる頃には私の顔を覚えている者はもういません。四代目として何食わぬ顔で女王として返り咲き、再び同じ事を繰り返していくのです」


「待ってください」


ルフェン女王の話に割り込む形で声を上げたのはラルだ。


「私が知る限り女王となるのは当時の王に見初められた者だけです。そう都合よくお相手に選ばれるとは思えません」


彼の疑問はもっともだ。

確かにルフェン女王は美人と言える顔つきと身体を持っている。

けれど、狙った時に毎回必ず選ばれるとはとても思えない。


「いいえ。選ばれるんです。ラル」


そう答えたのはルフェン女王ではなく、いつの間にか立ち上がっていたサルナだった。


「というと?」


「…私の家系は代々、女王の側近としてこの城に仕えているのは知っていますよね?

そのお仕事の内容というのが女王の身の回りのお世話だけでなく、跡継ぎになられる王子様の教育係です」


「…つまり、その王子様の恋の相談役も担うって事か?」


ラグの質問に頷きでサルナは返す。


「私は幼いころから言い聞かされていたんです。『貴女はある意味ではこの城の長よりも力がある。けれど、絶対に驕ってはダメ。必ず女王に尽くしなさい』と。

今までは女王様に一番近い立場だからだと思っていたのですが…まさか、そういう意味だったとは夢にも思いませんでした」


「なるほど。確かに貴女の立ち場を使えば可能でした」


ラルの言葉を最後に、誰も声を出さなくなった。

気まずい沈黙。

とてもじゃないがさっきまでのように簡単に質問できない雰囲気だ。

だが、それでも、聞かなきゃならない事がある。

俺は意を決して声を出した。


「その、いいですか?」


この問題について、俺たちは根本的に部外者だ。

俺やセラに関しては例外にしても、他の四人は完全に巻き込まれた形になる。

だからこそ聞かなければならない。


「はい。勿論です」


「例の取引はまだ生きていますか?」


例の取引、それはこの会議室で俺とセラの二人にしか秘密を打ち明けられていない時の『従うか否か』というやつだ。


《ルフト…?》


「それは…」


この場でその質問の意味を理解しているのはあの時会議室にいた四人のみだ。


「もしも生きているなら、私たちに一日だけ時間を下さい。明日、その返答をしたいです」


この場で俺の提案の意味を理解している人間は恐らく俺以外にはいないだろう。


「…分かりました。ただ訂正を。皆が私たちの秘密を知った今、あなた達二人の事を殺すなどという行いはさして大きな意味を持ちません。それどころか、生きていてもらっている方が都合がいい。

…彼らほど優秀な兵を失うのはあまりに惜しい。何より、これだけの人を処刑するとなれば他のお偉方が何かを勘ぐるのは間違いないですから」


次々と出てくる不穏な単語にその場にいる全員の身体が硬直していく。

普段ならば冗談の域を出ない『殺す』といった単語でも、ルフェン女王が口にすれば後戻りのできない言葉になる。

『処刑』などはその先端に位置するだろう。


「まぁ、『旅人と結託して謀反を企てた』とでも言えば一応の説明はできますけどね」


少女はにこやか極まる顔をした。

見ている方まで爽やかな気分になる笑顔で言われると、こちらも覚悟するしかなく…。


「ラ、ラル?どうして短剣を首筋に当てているんです?サルナも、ハサミとはいえ先端を喉元に突き立てると危ないですよ?」


《あののぅ…お前の立場でそれを言うと冗談にならんのじゃぞ?》


「あ…!す、すみません!つ、つい…!」


全く、殺す気なのだろうか。

出会ったばかりの俺たちですら一瞬息が止まったというのに、今まで一緒にいた近衛兵の彼らが平気なはずない。

思いとどまってくれてありがとう、と言ってあげるべきだ。


「女王、あまりお戯れせんでください。心臓に悪いですから」


「全くですよ。これは暫く心が休まりそうにないですね」


あっはっはっは、と笑うリグとラグだが、声が震えすぎていて全く笑えていない。


《ふむ。ラルとサルナも落ち着いてくれたようじゃし、一度解散とするか。

ルフトの言った事についても、他の者から何かあるようじゃしのぅ。なあ?》


その言葉にギクリと背を伸ばす俺とセラ。

さっきから受けている強い視線は気のせいではなかったようで…


「まぁあ?この後、ちゃんと説明してもらえるんだろうからなぁ。オレたちはそれで納得してるから。な?」


「でっす」


「ああ」


それぞれが面白い抑揚で話すものだから違和感が凄い。

思わず冷や汗が出てくる。


《では、そろそろお開きとするかのう》


「そうですね。

今日の返事は明日としましょう。ルフト君達に時刻は追って伝えます。

それと、ラル?」


「はい」


ラルが行く間にルフェン女王は紙に何かを書きを終える。


「これを宿の亭主に見せなさい。簡素ではありますが女王からの紹介状です。ルフト君たちに出来る限りのもてなしをするように書いてあります。

これを、城下町でも顔の利く貴方が持っていきなさい」


几帳面に折りたたまれた紙をラルが受け取る。


「了解しました」


深くお辞儀をするとこちらに向き直り。


「ではみなさん、行きましょうか。ついて来てください」


そう言って会議室の扉に立った。


「わかった。

それじゃあみなさん、お騒がせしました…。でいいのかな?」


《この場合は、また明日会いましょう、ではないのかの?》


「ならそれで。みなさん、また明日会いましょう」


後ろ髪引かれる事無く、ラルの後について会議室を後にした。








正直、これ以上あの部屋に居たくないというのが本音だった。

明るいのは雰囲気だけ。

それぞれが胸の内にある不安や葛藤を隠すために纏っただけの空気だった。

当然俺もだ。

色んなことがあり過ぎて頭も心も追いついていない。

だから一度どこかで考えをまとめたかった。

それを知ってか知らずかネフェンは、他の誰かが何かを言い出す前に送り出してくれたのが有り難かった。

そのせいでネフェンを置いて来てしまったがまあいいだろう。

その方が向こうも都合がいいだろうし、何となく話しづらい。


「みなさん、店主と話をしてきました。王都に滞在中は毎日使っても構わないそうです。

あぁ、勿論金銭面の問題は考えなくて大丈夫ですよ。その辺りも含めて納得していただけましたから」


ラルの声で意識が戻る。


「えっ?あ、あぁ、ありがとう」


気がつくと、もう目的地に着いていたみたいだ。

かなり考え込んでいたようで、道中ずっと上の空だったらしい。

どうやってここまで来たのか、歩いていたこと以外全く分からない。


「それでは私はこの辺で失礼しますね。

明日またお会いしましょう」


呆けた返事に何か言うでもなく、俺たちに礼をするとそのまま城の方へと帰っていった。


「オレたちも宿に入らねぇか?ここ何日かですげー疲れたぞ」


へなへなと今にもその場に屈みそうにならふ小虎にセラが続ける。


「そうですね。ルフトさんが気を失ってから約二日間、お城で過ごしていましたから気疲れもあるんでしょう。小虎さんにしてみれば、初めての旅ということもあり私達以上に疲れているでしょうし」


セラは持っている杖に手を乗せて伸びをする。


「そうだな。私もそろそろゆったりとした寝床にありつきたい。

提供して貰った側ではあるが、サルナさん一人用のところに三人で寝ていたからな。彼女には悪いがあまりよく眠れなかったのだ」


「でっすねぇ〜。特に首の辺りが痛いでっす」


フタとナリは首や肩を回してコリをほぐしているようだ。


「よし、取り敢えず風呂に入って飯を食おう!話はそれからだ!」


「「「「そーしよー!」」」」


俺の掛け声に合わせてみんなが声を揃えた。





To be next story.

本文を短くして投稿を早くすると言ったな?アレは嘘だ。


次回はいつになるかわかりませんが、思い出して気が向いたらまた読みに来てください。

ではまた。

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