斎藤道三
「アンタを社員として雇ったら、会社は儲かるだろうなーーー。アンタに比べたら、会社の器が小さいよ」 諸富支店長はベタ褒めである。
「ーーーー?」
「アンタの方がもっと本物の経営者らしく見える。社長を交代すべきじゃないのかい、日本の国益と発展の為に?」と、大袈裟に持ち上げた。
まるで、日本の産業界が英雄の出現を待ち望んでいるかのように、暗示的な言い方でそそのかした。
37. 斎藤道三
そうこうする内に、この販売会社R社内で、各地の支店長を集めて全国会議が開かれた。その席で諸富支店長は、筆者の活動振りと商品を自社内で大々的に提案した: 「(XXX(筆者)さんと)一緒に組んでこの商品を売れば、R社も一緒に儲かるじゃないか!」
これが切っ掛で、R社の「加古川支店」→大阪支社→東京支社→全社へと山火事のように商品の販路が広がっていった。
細かな経緯は省くが、時間差攻撃で、同じような作戦で他の矢張り別の全国規模の中堅商社K社とも提携する運びになった。例の口からウンコのどんぐり目君の所属する肉盛屋の会社である。
この様子を眺めて商売というものの面白さを知った。けれども皮肉な事に、これら数々の成功は、筆者を思い上がらせた:日本の産業界は英雄を待ち望んでおり、諸富支店長の言う通り確かに世界は筆者の手の内にあるーーー気がしたのである。
どんな会社でも、社内で力を持ち過ぎた部下の存在は、上役に猜疑心を呼び起こすもの。筆者の英雄心理と相手の猜疑心の二つが、相乗効果で作用した。神様の辺りで我慢しておけば良かったものを、どさくさ紛れて筆者はその上を狙ったから、大事になった。
大倉山の図書館で読んだ事のある、司馬遼太郎の戦国期の武将の話が筆者を励ました:一介の「油売り」(=筆者の場合、失業者)から身を起こし、主君を亡き者にして国を乗っ取り、美濃のマムシと恐れられた斎藤道三という凄腕の武将である。道三の乗っ取りと下剋上の物語に、筆者は魅了されていた:
歴史の教えを現代に生かすべきで、同じ手法を使い、筆者も主君を「亡き者」にして会社を乗っ取る算段をしたのである。幸いな事に、罪を犯してもこの時分の死刑制度は今より緩やかだったから、やり易いと思った。




