女は赤色が好き
41. 女は赤色が好き
これまでの「解法の定理」を大別すると:
(1)
A重工やB重工や製鉄所などの巨大工場は、鋼材卸業者のS工業のように「ソコ命」とする安井親分型の「ウッス!」の呪文を利用して、隅々まで開拓する →「親分・子分の基本定理」
(2)
巨大工場以外の「まばら」に点在する(大きくもない)中規模の見込み客(工場群)に対しては、「肉盛り屋」に代表される専門商社に同行する。ドングリ目君のように「定期出入り」を活用して絨毯爆撃 →「御用聞きの基本定理」
(1)と(2)を使い分けて、大小多くの見込み客を次々網羅するようにして行った。こうなると手持ち情報はどんどん増え、比例して筆者の売り上げは同僚の数倍となり、桁違いになった。「どえらい男」の域を超え、やがて天才と呼ばれるようになった。
けれども、筆者の本質が(落ちこぼれていた)図書館時代から変化した訳ではなかった。距離を縮めたとは言え、本物の天才アインシュタインとの差は大きい。S工業の安井親分や肉盛り屋のドングリ目君と気安く付き合いながらも、矢張り顧客へ「電話(でアポ取り)をようしなかった」から、本物の天才ではない。これをダメと言うなら、ダメセールスマンであり続けた事になる。何故顧客に電話をようしないかーーー、人は訝しく思うかも知れない。
はにかみ屋でシャイな処が抜けきれず、筆者はこの歳でも治らない赤面症である。会社を経営するようになった今も、社の中年の女事務員の前でも、自分の配偶者に対してさえ赤くなる時がある。赤くなるのを眺めて、ウチの女事務員は誤解しているに違いない:「社長は私に気があるーーー」
顧客へ電話を掛けて売り込みを図るなんてーーー相手はきっと嫌がるだろうし、忙しいから迷惑に思うに違いないーーーと思いやる。自分の都合で厚かましく頼み事をするなんて、と気を病むのだ。そう思うと、よう電話を掛けない。誰もがやれる筈の「電話を掛ける」という営業の基本をまともにやれない人間が、誰が何と言おうと天才である筈はない。ただ、代わりにこう言えるかも知れない:
「電話をようしない」という苦手があればこそ、電話をしなくて済む「販売店の活用」を工夫して、次々定理を発明して習熟して行った。 習熟してみれば、もはや顧客に電話をする必要が無くなってしまい、同時に莫大な見込み情報を「収集する」結果になった。「短所が最大の長所」に化けたのだから、人は面白い。
因みに、そう言えば赤面症という短所のお陰で、筆者は案外女に持てるから不思議である: 「この人、私に赤くなってる! キャッハー、可愛いっ! ひょっとしたら、童貞なのね」
若い女は、赤信号と童貞が好きなようだ。言われたのは六十七の時である。




