訂正せずに放置
42. 訂正せずに放置
「電話をようしない」以外に、もし他のセールスマンと違った処が筆者にあったとすれば、人が笑い飛ばす何気ない言葉の端や、偶然に起きたように見える現象を注意深く観察して見逃さなかった事だろうか。初めて成功した不倫みたいに、「シッ!うまくいったね」だけで終わらせなかったのだ。結果を分析し、二回・三回と上手く行かせる普遍的なルールをつかみ取ったようなものだ。(これ、たとえ話だから本気にしないで。)
例えば、ドングリ目君が筆者の紋切型の説明を茶化して笑ったのを見逃さず、直感的にそこに真理を見出してルール化し、「他へ活用」して行った。才能というよりも、メカニズムを分析してみたがる理系人間のクセであったろうか。振り返って見ると、営業には(世間一般で言う)「熱意とか根性」という曖昧なものは、入り込む余地の無いのが判る。 有るのは人の心理を計算した、数学のような合理性だけ。
ドングリ目君の売上げ増を見て、先輩らが「将棋倒し」に寄って来たが、これも一皮めくれば(自分の成績を上げたいから)という人の「損得勘定」。 安井親分が、「熊手」みたいに沢山の情報を掻き集めてくれたのも、(男同士の愛よりも)10円の電話で60万円の利を得られるからの、「欲の皮」であった。
それら販売店の人たちとの付き合いで、所謂飲食でおごったりおごられたりしたのは一度も無かった。日々の昼食や一緒にちょっと入る喫茶店では、何時も割り勘。筆者は元々下戸な上、人付き合いも悪かったから、一緒に飲みに行った事もない。それが出来ないから、やらないからといって商売に差支えた事はない。無論、世の中にはそんな方面を重視する業界も無いではないが、それは決して大多数ではなく、「営業の本道」ではない。
さて、そのように先の定理を活用して、第二・第三・ーーーの「筆者」の数が増えてくると、集る情報が多すぎて面倒を見切れなくなる。已む無く一計を案じた:
選別して、受注確度が高い処だけに絞って訪問する事にしたのである。販売店から同行を頼まれても、見込み度の低くそうな顧客は、何かと理由を付けて訪問を先延ばしにした。これは自然な成り行きで、特別な販売ノウハウではない。が、同じ事をトップセールスマンがやると、結果は神様が出来上がる。レシピはこんな風に:
(情報が多すぎて)「私は超多忙」→「時間が足りない」→「見込み度の高い処だけに絞って、訪問せざるを得ない」→(顧客を選別する結果として)「高い確度で受注が決まる」→(傍から眺めると)「アノ男が訪問すれば、必ず注文が決る!」(ように見える)→「百発百中じゃないか!」→「人間ワザではない!」→「神樣に違いない!」となったのである。
数ある中から、受注確実な処だけを選り好んで訪問するのだから、「百発百中」は当たり前で不思議は無い。だが、人はそう見ない。勝手に誤解して、「販売の神様」と信じ込んでしまう。大抵の神秘は種明かしをすれば単純なものなのだが、誤解が自分に都合の良い方向に起きる時は、私は敢えて訂正せず放置する事にしている。よって、そのまま神様になりすます事にした。
応用は次のようにやった:




