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亀が空を飛ぶ方法 (第二作)  作者: 比呂よし
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悪党のアジトか?

25. 悪党のアジトか?


 翌日は朝十時頃に、同じ通用門へ出かけた。生憎小雨だったが、昼までには止みそうだった。考える処があって小型の双眼鏡を持参していた。怪しまれないように離れた位置から、車の中にいて門番達の隙を窺がう為であった。


 改めて眺めると、彼らの人相はどう見ても外部の人間に親しみ難い無愛想な面構えだ。もし手元に0.22インチ口径のライフルの一丁でもあれば、門番達の眉間を狙って完全犯罪は簡単。仲間内で談笑している彼らは笑いの口を閉じる間も無く即死であろう。こっちは図書館で銀行強盗の覚悟を一年掛けて培った人間だから、少々の事で後へは引けない。


 執拗に観察を続けた。「よく観察し、少し考える」のが科学には大切な心なんだそうだ。双眼鏡で丸一日観察していて、警棒を携えている彼らに「弱点」があるのを突き止めた。


 「オッス!」と運転席から一声掛けて、ついでに窓から片手だけを挙げて、関所を難なく素通りする一台の小型トラックに気付いたのである。外の車や徒歩での入構者は全て止められて誰何すいかされるのに、その車だけは運転手が横着で下車もせず、フリーパスなのである。観察を続けると、出たり入ったり同じ車が日に数回「オッス!」で素通りしている。そうか、顔パスなのだ! 科学する心で少し考えた。


 ーーーその車に「もし」便乗させてくれれば、何のアポも電話も無しに、この巨大な工場内へ自由に出入り出来る筈だと「気が付いた」。書けば当たり前の事だが、筆者にすればノーベル賞級の発見である。小型トラックの側面に「S工業」と書いてあるのが双眼鏡で読めた。


 翌日は三日目になるが、双眼鏡を構えて心待ちにしていたら、夕方工場の終業時間になって、例のS工業の小型トラックが通用門からフラフラと外へ出て来た。これを待っていたのだ! 


 直ぐに車のエンジンを掛けるや、気付かれぬように尾行を開始。これくらいの判断力があったのだから大したもので、見どころがあった。三十分ほどノロノロと走って、敷地が二百五十坪程の鉄工所と見える建物の前に着いた。神戸の人なら誰でも知っている、ガラの悪い地区。鉄骨が剥き出しでくすんだ薄茶色の建物は、見上げるように高くそびえ立ち、荒野の西部劇みたいに殺風景である。


 風も無いのに辺りは何故か埃っぽく、空気さえ茶色にくすんで見えた。薄闇の迫る秋の夕暮れの中で、高い建物は見る人を圧迫して怪しげで、犯罪がうごめく闇社会のアジトという雰囲気。うっかり踏み込めば、何をされるか判らない。

 道路脇に止めた車に乗ったまま、筆者は油断無く建物へ目を配った。大小3~4台の車が建物正面の空き地に、放置されたようにして乗り捨ててある。目を離した隙に、尾行して来た小型トラックの運転手は降りたようで、気が付くと運転席は空っぽであった。


 鉄工所らしい建物は正面を開け放してあり、内部の薄暗い天井に走行クレーンが見える。ケバイ赤色はどうせ安物だろうが、その日の作業は終了したらしく、明かりが無くしんとしている。クレーンのある一階が鉄工所兼倉庫で、そこから高い二階へ、普通の建物なら三階というべき高所だが、鉄骨の階段が建物にへばり付くように取り付いていた。風にあおられたら転げ落ちそうな高さと不安定さだが、階段のてっぺんが事務所らしい。


 階段の登頂に命を張るべきか迷っている内に、気持が落ち着いて来た。造りは悪党の棲み家風だが、どうやら鉄材をA重工へ納入する「下請け業者」であるらしいと見当が付いた。要求の寸法に合わせて細かく切断した鉄材を各部門へ配るために、だから工場へ頻繁に出入りしていた訳だ。それなら、ある程度安心だと車の中でここまで思案した。




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