二十五話 灰空とブランコ
毎日ルーチェは公園へ来ていた。
灰色の空。
静かな風。
誰もいない遊具。
それでも。
待ってしまう。
お兄ちゃんは昔から突然いなくなることがあった。
でも。
最後にはちゃんと帰ってきた。
だから今回も。
きっと。
ルーチェはブランコへ座る。
ギィ、と鎖が鳴る。
胸元には。
昔お兄ちゃんにもらった小さな鈴。
子供の頃。
祭りの日にもらったものだった。
“迷子になるなよ”
そう言って。
ぶっきらぼうに渡された。
ルーチェは鈴を指で撫でる。
自然と笑みが漏れた。
思い出す。
あの日の夜。
夏祭り。
人混み。
灯り。
ルーチェは小さかった。
すぐにはぐれた。
泣きそうになっていた時。
遠くから声がした。
グロウ『ルーチェ!!』
息を切らしながら走ってくる。
額に汗。
怒った顔。
グロウ『勝手にいなくなるな!!』
ルーチェ『ご、ごめ……っ』
怒ってるのに。
その目は泣きそうだった。
お兄ちゃんは乱暴にルーチェの手を掴む。
グロウ『……探した』
その声だけ。
すごく優しかった。
ルーチェの胸が熱くなる。
それから。
二人で屋台を回った。
焼き菓子。
ラムネ。
安っぽい玩具。
何でもない時間。
でも。
世界で一番楽しかった。
最後に。
丘の上から花火を見た。
夜空いっぱいの光。
ルーチェ『綺麗……』
グロウ『だな』
花火の光が横顔を照らす。
その顔が。
どうしようもなく好きだった。
胸が苦しい。
息が出来ない。
だから。
聞いてしまった。
ルーチェ『……ねぇ、お兄ちゃん』
グロウ『ん』
ルーチェ『もしさ』
少し震える声。
ルーチェ『私がお兄ちゃんのお嫁さんになりたいって言ったらどうする?』
花火が上がる。
轟音。
光。
お兄ちゃんが目を丸くする。
そして。
口を開きかけた。
グロウ『……それは――』
そこで。
記憶が途切れる。
ルーチェはハッと目を開けた。
気づけば。
呼吸が苦しい。
視界が揺れる。
ルーチェ「……っ」
胸を押さえる。
最近。
時々こうなる。
でも。
今日は酷かった。
立ち上がろうとして。
足に力が入らない。
世界がぐにゃりと歪む。
遠くで。
誰かの声がした。
女「ちょっと!!」
男「おい、大丈夫か!?」
ルーチェの身体が崩れる。
ブランコの鎖が揺れる。
灰色の空。
ぼやける視界。
その中で。
ルーチェは最後まで探していた。
黒い髪。
ぶっきらぼうな声。
“探した”
あの優しい声を。
ルーチェ「……お兄ちゃん……」
そこで。
意識が落ちた。
その後。
村では小さな噂になっていた。
“ルーチェちゃん、公園で倒れたらしい”
“誰かが車で運んでったって”
“病院のある大きな街へ連れてかれたとか……”
けれど。
どこの街なのか。
誰が連れていったのか。
本当のことを知る者はいなかった。
ただ。
灰色の空だけが。
静かに街を覆っていた。
つづく




