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サヴァン少女アリス

草木はそよぎ、時折吹き抜ける風が花びらや草の葉を空へ飛ばす。

森の中開けた円形の草原にしゃがんでいる少女がいた。

年の頃は10歳ほどであろうか。少女は黙々と薬草を摘んでいる。

そして摘み取った薬草を、バックパックへ入れて行く。

少女の両の手は薬草の汁で緑色に染まっていた。

刻は彼女を照らす光が影を少し伸ばす時間になっていた。

「ふぅ。」少女は一息つくとポケットからハンカチを取り出し

手を拭く。たぷんと揺れる腰の布の袋を外し

袋の中に入っている紅茶を飲むため口をつけ、コクコクと喉を鳴らす。

「ふぅ。」再び息をつき、空を見上げる。

チチチチ……小鳥が飛び回っているのが目に入る。

少女の顔には柔らかな笑みが浮かんでいた。

何時もと変わらぬ日常。

少女は薬草を摘んでは、とあるポーション屋に卸していた。

その薬草が群生しているのが、ここなのだ。

少女は軽い疲労感から、草原にねそべりながらボーっと

流れて行く雲を眺めていた。


「はっ?!」少女が気が付くと既に日は傾き

夕方になっていた。眠ってしまっていたのだ。

『うーん眠っちゃったみたい。帰らなきゃ。』

体を起こすと服についていた草葉が落ちる。

「よいしょ。」少女は口にすると森へと入っていった。

森の中には獣道があり、街への通路は分かり易く迷う事はなかった。

そうして町へ帰り、ポーション屋の裏口をノックする。

コンコンコン

「ヨハンさんアリスです。」

少女はそういうとドアの向こうから

足音が聞こえてきた。

ガチャッ

「やぁアリスちゃん今日もお疲れ様。」

ドアから出てきたのは40歳くらいに見える男性ヨハンという。

ポーション屋店主だ。

アリスはバックパックから薬草を取り出しヨハンに見せる。

「今日はちょっと少ないね。悪いけど少し銅貨は減るけどいいかい?」

アリスは苦笑いして答える。

「もちろんです。実は休憩の時にうっかり昼寝をしてしまったのです。」

ヨハンは答える。

「そうだったのかい、いつも頑張ってるからね。

じゃあ今日は銅貨8枚ね。」

そういうと薬草の束と引き換えにアリスは銅貨8枚を受け取る。

「いつもありがとうございます。ヨハンさん。」

そういうとお辞儀をして立ち去る。

バタンと扉を閉め『まだ小さいのに偉いねぇ。』ヨハンは心で呟いた。

小さいながらも夕刻を過ぎた町は各々仕事も終わり喧騒が支配する。

帰りを急ぐ者、酒を酌み交わす者、色とりどりの人模様だ。

アリスは何時もより遅れたため宿屋への道を急ぎ、裏通りを選んだ。

裏通りの出口にはゴロツキの男がいた。

危険を感じたアリスは入ってきた路地入口へと向かうが

そこにも同じようなゴロツキの男がいた。

「あ……あの……何ですか……?」

怯えながらアリスは聞く。

男たちはじりじりと間隔を狭めアリスを追い詰めてくる。

「ジョーチャンお金持ってたら、おじさん達にくれないかなぁ?」

正面の男は声色と裏腹に下卑た笑みを浮かべにじり寄ってくる。

アリスは後悔した。何故表通りで帰らなかったのだろうかと。

「おい!聞こえなかったのかよ!金出せって言ってんだよ!!」

後ろの男が怒鳴りつけてきた。

「ヒッ……。」

アリスは身じろいだ。恐ろしくて言葉が出ない。

「無視かよ!あぁん?!」

キレた後ろの男は突然拳を振り上げアリスの

左耳の少し上の部分を強く殴った。

ドサッ

気を失い倒れたアリスのバックパックを男たちは物色する。

「銅貨8枚かよ。しけてんな。ペッ!」

男たちは気を失った少女に唾を吐きかけ銅貨を奪いその場を後にする。


アリスが気付いたのは深夜だった。

顔に吐きかけられた唾をハンカチで拭う。

バックパックを確認すると案の定、今日の宿代は盗られてしまっていた。

町から出ると草原で火を起こし焚火を起こした。

傍で腰を下ろし、じっと火を見つめた。

火をくべる音がいつもよりも鋭く耳に入ってくる感じがした。

揺れる焚き火の炎が、まるで一枚一枚の静止画が連続しているように

不自然にゆっくりと、かつ鮮明に見える瞬間ががある事に気づいた。

アリスは泣かなかった。そもそも感情があまりなかった。

唯一彼女が涙を流すのは物語で心を動かされた時だけ。

それ以外で泣く事も、心を動かされることはなかった。

おなかも空いたけれど、食べるものはないので

火に寄り添うように体を横たえた。

火のパチパチという音に混ざり、やけに遠くの音が聞こえたが

眠りに落ちて行った。

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