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第11話 夜明け

大好きだったおじいちゃんの棚田とそこで採れたおいしいお米。田舎の慣習にしばられながらも、陽子は棚田とおいしいお米の復活を目指します。

出会いは偶然?それとも・・・

 朝日を感じて陽子は目を覚ました。眠気でぼーっとする頭を軽く振りながら隣を見ると、良太がいない。半身を起こして車の外に目をやる。田んぼの水口から排水作業をする良太が目に入った。陽子はバックミラーで自分の姿を確認した。髪が所々ぼさぼさになっている。

『見られたか』

陽子はラックからヘアーブラシを取り出して髪を整えた。そして、もう一度ミラーを覗いて頷いた。

『良し』


 静かにドアを開けて陽子は車外に出た。台風で汚れた空気が流されたのか、濃青色の空を紫に染める朝日が眩しい。澄んだ光が棚田の水面に反射してきらきら輝いている。どの田んぼを見ても稲は元気に立っていた。畔の崩れもない。

 背中をこちらに向けて排水作業をしている良太に、陽子はゆっくり近づいて行った。

「良太さんおはよう」

できうる限りの優しい声を出して、陽子は良太に声を掛けた。

「おはよう」

振り返った良太は、無精ひげが伸びかけている頬の様子を気にしながらこちらに向かってくる。こんなことは彼が棚田の整備を手掛けるようになってから初めてのことだ。いつになく慌てた様子の良太。陽子は笑いをこらえるのに苦労した。

「陽子さん眠れた?大丈夫だった?」

自分を気遣う良太の気持ちが嬉しい。

「うん。でも、起きた時、隣にいてほしかったかな」

これは本音でもあり嘘でもあった。なんせ、隣にいられたら鏡で自分の顔を確認することができない。

『万が一よだれでも垂らしていたら、一生記憶に残りそうで嫌だしね』

そう陽子は考えた。

「あの、陽子さん。僕と結婚してください」

突然の話に陽子の時間が一瞬止まり、棚田の風景が鮮やかさを増した。無精ひげが生えているにもかかわらず朝日に照らされた良太の顔が妙に良い男に見えた。季節は夏、早朝の涼やかな風が陽子の髪を揺らしている。大好きな棚田の前でのプロポーズに陽子の体温は少しだけ上がった。

「うん。おじいちゃんの棚田を守ってくれるなら、いいよ」

陽子はやや俯いて言った。

「必ず守るよ。それに陽子さんに美味しいって言ってもらえるお米を作る。約束する」

良太が陽子の手を取って言った。

「お母さんは大丈夫だけど、お父さんにはちゃんと挨拶してね」

「わかった。ご両親にきちっと挨拶するから心配いらないよ」

良太の力強い約束がさわやかな風に溶け込んいくような感じがして、陽子は微笑んだ。


 家に戻ると、食卓には四人分の朝食が既に用意されていた。焼き魚も並んでいて、いつもより少し豪勢な印象を受ける。さすがに母親はわかっていると陽子は思った。

 昨夜の深酒にやや二日酔い気味の父親を前にして、良太は諸手をついて頭を下げた。

「親方、いや…えーっとお父さん、棚田と陽子さんを僕に下さい」

一瞬呆けた顔をした父と、してやったり顔の母。

「お、おお。よろしく頼む」

あっさりと許可が出てほっと胸を撫で下ろす良太に対して、陽子は心の中でつぶやいていた。


『あ、田んぼが先なの。ふーん…』

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