15
「ーーどうか! パンを! パンをお与えてください!」
ん? なんか賑やかだなぁ?
今日は休日。引きこもりの私は珍しく外に出てみる今、レオの家にいる。
庭でレオとお茶をしていたら何人かの女性が城の出入口の門に押し寄せ、口々にそんなことを門番に言っていた。
レオも不思議そうにその様子を眺めている。
「そういえば、国のお金がまたかなり使われてて、今じゃ街の人達はパンを買うお金もないらしいよね」
「あー。それは俺も父上から聞いたぞ」
当然のようにお金問題はストーリー通り発生し、しっかりと私達が疑われている。
だが、証拠がないため現状は誰が使ってるかわからない状態。
普通にやばいよね。ゲームだと堂々とアンナ達が使ってたと思ったけど現実は誰かがこっそりと使ってる。これって泥棒じゃん。
もちろん私達は使ってないためこの件に関してはまっったくわからない。
レオは紅茶を啜り、コトっと音を立ててコップを置くとポツリと呟いた。
「ーーパンがなければお菓子を食べればいいのに」
手元にある1口サイズのクッキーをつまみ上げ冗談とも本気とも言えない表情でみている。
え、あなたは異世界版マリーアントワネットですか? 生まれ変わりですか?
頭の中に革命エンドがよぎり私は思わず「レオ!」と声を荒らげてしまった。
「あのね! パンが買えないならお菓子も買えないんだよ! これはテストには出ないと思うけど、覚えといて!」
「え? そうなのか? こんなちっちゃいのに」
「そうなの! だから、パンがない人達はお金持ちの人から譲ってもらうしかないの!」
レオはつまみ上げたクッキーを口の中に放り入れようとしたが、躊躇ってもう一度お皿に戻した。
「それなら、俺達がパンをあげればいい。でも……」
「でも?」
優しい思考にうつったレオだが、言葉を濁し唇をキュッと噛んだ。
いつもなら自信満々で堂々としてるが、今のレオはどこか自信がなさそうな表情。
パンをあげれない理由でもあるのだろうか?
「俺は勝手に動けん。パンひとつ減らしただけでも俺は城のヤツらから悪い方へと疑われる。ただでさえ国の金の問題でかなり俺が言われてるからな」
「そう……なんだ……」
嘲笑の笑みを浮かべるレオに胸がチクッと痛んだ。
レオがチラッと門番の方を見て、門番がいなくなった隙を狙いクッキーの乗ったお皿を持って女性達の方へと向かった。
「れ、レオ!?」
私も慌ててレオを追いかけた。
レオは門を開き、女性達に向かってクッキーを皿ごと差し出した。
「これやるよ。少ないし、あまり腹の足しにはならねぇかもしれないけど……」
そんなレオの様子を見て、私は思わず呆然としてしまった。それと同時に普段なら絶対にやりそうにない行動に驚きと嬉しさが込み上げてくる。
しかしーー。
パァンっとレオの手が弾かれ皿とクッキーが全て地面に落ちた。皿は割れ、クッキーも土がついてしまい、食べられそうにない。
「ーーあなたのせいよ! あなたのせいで今私達が苦しんでるの! あなたに渡されたものなんて死にそうでも口にしたくないわ!」
1人の女性が声を荒らげて言い放つと周りも口々に同意の声を上げてる。
レオは怒りもせず、悲しむ様子も見せず、能面のような表情になって落ちたクッキーを見つめた。それから、しゃがみこんで割れた皿とクッキーを文句一つ言わずに拾い上げた。
な、なんでよ……レオはあなた達のためにやってあげたのに……レオの優しさを無下にするなんて……
怒りで肩がわなわなと震えグッと拳を握った。
「ーーいい加減にして! あなた達にレオの何がわかるっていうの!? レオの何を知ってるの!? 何もやってないレオが善良の気持ちで譲ろうとしてたのに、いくらなんでも酷すぎるよ!」
レオを庇うように前に出て私は大声で喚き、女性達は一瞬怯んだ。
レオはやってない。お金に関係することはレオは関わってない。なのになんで噂だけ独り歩きしてレオが疑われなきゃならないんだろう。
だけど、私が言ったところで何も意味は無い。
だって、所詮私も嫌われ者だから。
女性達は「あなただってレオ様と同じよ!」と文句を吐き捨て城から立ち去っていった。
おこだよ! 私おこだよ!
何も出来ない悔しさに唇をかみ締め、クッキーを拾い終えて立ち上がったレオの方を向いた。
「気にしなくていいからね! 誰がなんと言おうと私はレオを信じてるから!」
レオは土がついたクッキーをみてから、私の方に視線を向け力なく笑った。
その表情があまりにも悲しげで辛そうで見てられない。
「おう。お前がいてくれればなんだっていい。悪になろうとも暴君になろうとも」
自暴自棄になりかけているレオ。
だ、ダメだよ……それじゃ……
本物の悪になったらもう後戻り出来なくなるよ……
国のお金がなくなる事件、レオが疑われてるけどレオがやった証拠が何もない。
そんなの当たり前だ。やってないんだもん。
それならーー。
「今からだって間に合うから絶対に私達2人で信用を取り戻そうよ! それで真犯人を捕まえよ! ね!?」
「無理だって。見たろ? 俺の嫌われようを」
「安心して! 私もレオ並に嫌われてるから!」
私がめちゃくちゃダサくて悲しいセリフで胸を張ると、レオは苦笑を浮かべた。
「安心する要素ねぇだろ」
「うっ……確かに……でも、2人なら乗り越えていける。私はレオがいてくれればなんだって出来る気がする!」
根拠はない。でも、気合論での必死の訴えにレオは口をもごもごとさせ、躊躇いがちにコクッと頷いた。
「そこまで言うんなら俺も努力する」
「本当に!?」
受け入れてくれたことに顔を輝かせるとレオはさっきとは少し違う儚い笑みを見せた。
「あぁ。だけど、それでも無理なら……俺と一緒に死んでくれ」
…………はい?




