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第三十九話 封じられし者

「やった、やったぞ……!!」


 俺たちの間を走り抜け、扉の中へと入り込んだ人物。

 それはあろうことか……ジェイクであった。

 服はよれよれ、髪はぼさぼさ、身体は垢にまみれてすっかり汚れている。

 しかしその顔は間違いなくジェイクの物であった。

 身体はいくらか痩せていたが、眼光の鋭さなどはちっとも衰えてはいない。


「油断したな、ノエル! どこでそんな力を身に着けたかは知らんが、詰めの甘さは昔のままだ!」

「ジェイク……どうしてここに!」

「さっき奴が言ってなかったか? 俺を牢から解放したって。気づかれないようにずーっと見てたんだぜ」


 そう言うと、胸を反らして笑うジェイク。

 しまったな、魔族の方に気を取られて気づかなかった……!

 この地下洞窟には岩陰が多いから、そこに上手いこと潜んでいたようだ。


「しかし、これは素晴らしいな! 魔族が手に入れようとしただけのことはある!」


 ジェイクは暗がりの奥を見やると、高笑いをした。

 こちらからではよく見えないが……何があるというのだ?

 俺たちが怪訝な表情をすると、ジェイクが振り返って言う。


「おっと、お前たちには見えないか。いいだろう、見せてやる」


 パチンッと指を弾くジェイク。

 それと同時に、暗かった宝物庫の中に次々と光が灯った。

 たちまち、巨大な影が照らし出される。

 こいつは……!!


「巨人?」

「オーガの三倍はあるわね……」

「頭が三つ? この魔物は、まさか……!」


 宝物庫の中心に立っていたのは、三つ首の巨人であった。

 背丈はざっと、十メートルと言ったところだろうか。

 皮膚は黒く、盛り上がった筋肉は巌のよう。

 見ているだけで、押しつぶされるような重圧を感じる。

 その姿を目にした途端、姫様の顔が引きつった。


「ラ、ラヴァームですわ! かつてこの国を壊滅寸前に追いやった、大悪魔の!」

「なっ!? あれが!?」


 ラヴァームと言えば、俺でも聞いたことがあるほどの怪物だ。

 数百年前、この国のほとんどを荒野に変えた悪夢の巨人。

 山を動かすほどの力を持ち、三つの顔で火・水・風を操るという。

 

「ははは! コイツの力さえあれば、俺はこの国の王にだってなれる!」

「何を言っていますの! 制御できるわけありませんわ!」

「して見せるさ! 俺がもう一度のし上がるための踏み台にしてやる!」


 そう言うと、ジェイクはネムの方を見やった。

 そしてその顔を見ながら、ニタァっと不気味なほどの笑みを浮かべる。


「ネム、もう一度俺の奴隷になれ。そうしたら命だけは生かしてやるよ。姫とそこの女冒険者もだ。性格はともかく、顔は気に入った。ノエルを捨てて俺に従えよ」

「何を馬鹿なこと言ってんのよ!」

「その通り。だいたい、姫も言ったように制御できるわけがない」


 魔物を制御するための魔法は存在する。

 しかし、当然ながら強大な魔物であればあるほど制御が難しい。

 ラヴァームほどの魔物を、ジェイクの力で操ることなどできるはずがなかった。


「ふん! それはどうかな。あの魔族、俺にもちょっとばかり力をくれたんだ」


 そう言うと、ジェイクは右手を顔の前に掲げた。

 たちまち、掌から黒い炎のようなものが立ち上る。

 どうやらロズウェルトは、ジェイクのことも僕として利用するつもりだったらしい。

 ただならぬ闇の魔力が、その身体から発せられているのがわかる。


「ふふふ……さあ、ラヴァームよ! 俺に従え!!」

『いかん! 奴を止めるのじゃ!!』


 急いでジェイクの元へと駆け寄る俺たち。

 その途端、猛烈な魔力が暴風となって吹き荒れた。

 衝撃。

 何か巨大な手で押し出されるかのように、身体が飛ばされてしまう。


「くっ!」

「ははは! すごい、すごいぞ! 力がどんどん満ちてくる!」


 ジェイクの身体が闇に呑まれた。

 黒色の竜巻と化した彼は、そのままラヴァームの口へと吸い込まれていく。

 虚ろな目がにわかに輝いた。

 黒褐色の身体が、わずかにだが揺らぐ。

 ラヴァームの四肢を縛る太い鎖が、大きくたわんで軋みを上げた。

 

「ウオオオオオッ!!」


 雄叫び。

 床に刻まれていた封印用の魔法陣が砕けた。

 こりゃ、予想以上にヤバいぞ……!!

 膨れ続けるどす黒い魔力。

 濁流のようなそれに、意識が持って行かれそうだ。


「な、なにこれ……!!」

「半端じゃない」

「皆さま、気を確かに! ひゃっ!」

「姫様ッ!」


 倒れそうになった姫様の身体を、慌てて支える。

 そうしている間に、ついにラヴァームの封印は完全に破られた。

 やつは宝物庫の壁をぶち破ると、大空洞の方へと出てくる。


「……成功だ! ラヴァームの力が我がものとなった!」

『何という精神の強さよ。あやつめ、あのラヴァームの身体を乗っ取りおった!』

「ありゃ、精神というより欲望が強いのよ!」

「ウオオオッ!!」


 リーシャさんが叫ぶと同時に、ラヴァームの口の一つから稲妻が飛び出した。

 天井に向かって放たれたそれは、一撃で強固な岩盤に風穴をあける。


『まずい、外に出る気じゃ! 何としてでも奴を止めねば!』

「わかってる!」


 こうして俺たちの戦いが、再び始まった――。


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