第四十話 市街地決戦!
「グオオオッ!!」
雄叫びを上げる三つ首の巨人。
奴は腰をかがめると、巨体に似合わぬ驚異的な跳躍を見せた。
そして穴の縁に手をかけると、腕力に物を言わせて一気に身体を外に出そうとする。
「紅の壱、火球!」
全力の一撃をお見舞いする。
収束し青白い閃光と化した炎が、穴から這い上がろうとする巨人の背中に直撃した。
爆発。
炎が広がり、視界が焼き尽くされた。
衝撃の大きさに、姫様たちがたまらず後ずさる。
しかし――。
「げっ! 効いてない!?」
「そう言えば、ラヴァームは魔法がほとんど効かないと聞いたことありますわ!」
『どうやらあやつ、全身に防御魔法を纏っておるな。術式は単純じゃが、魔力量に物を言わせておるからなかなか骨が折れそうだ』
どこか楽しげな口調で語るリーフォルス。
追い詰められた状況だというのに、ずいぶんと余裕あるなぁ。
俺がおいおいとため息をつくと、リーフォルスはからからと笑う。
『なんの! この程度、千年前に竜王と戦った時のことを思えば軽い軽い!』
「え、そんなことやってたの!?」
『我を誰だと思っておる! 魔杖リーフォルスぞ!』
自信たっぷりなリーフォルス。
そうしている間にも、ラヴァームの半身が地下洞窟の外へと出た。
ええい、時間がないな!
何とか奴を追いかけないと、街が大変なことになるぞ!
「ノエル、抜け道がある!」
そう言ってネムが指さしたのは、岩陰に隠れた細い通路だった。
よくよく見れば、地面に小さいながらも足跡のようなものが見える。
どうやらここを取って、学園長や伯爵、そしてジェイクはやって来たらしい。
「よし、急いで先回りしましょう!」
「私たちは、姫様たちを安全な場所まで誘導していくわ!」
「伯爵たちも、放ってはおけない」
倒れた伯爵と学園長を見やるネム。
確かに、この場所に放置しておくのは少しばかり酷だな。
ラヴァームが暴れだしたら、崩落してしまう危険もあるし。
「わかった。けど、姫様を連れて運べる?」
「もちろん。力には自信ある」
ネムは伯爵の元に近づくと、ひょいっとその身体を担いでしまった。
おお、すっごいパワー!
がっしりした体格の伯爵を、よくもまあ軽々と持ち上げるものである。
続いて彼女は学園長の元へ駆け寄ると、その身体もがっしりと抱え上げる。
「警護はリーシャに任せた」
「わかったわ! 私がばっちり守る!」
「では、私たち三人は先に失礼しますわ。ノエル、健闘をお祈りしております!」
素早く走り去っていく姫様たち。
その後を追いかけて、俺も急いで地上へと出た。
すでに街は大混乱。
荷物を抱えた人々が、悲鳴を上げながら逃げていく。
「フハハハハ! すべて壊しつくしてやる!」
『いかんな、ラヴァームの意識がだんだんと強まっておる!』
「早いうちに止めないとな。でも、どうやって……!」
ラヴァームの身体に魔法は効かない。
魔導師である俺にとっては、天敵のような相手だ。
かといって、近接戦闘を挑んでも勝てる確率はほぼゼロ。
身体強化を全開にしたところで、大きさがあまりにも違いすぎる。
軽く踏みつぶされておしまいだ。
『そうだ、あれを使え!』
「あれ?」
『あそこじゃ、あそこの建築現場!』
ひとりでに揺れる杖の先。
そこにはまだ建築途中の家と木を組み合わせて作った足場があった。
そうか、あそこの資材ならいい武器になるぞ!
俺はすぐさま建築現場に近づくと、その端に置かれていた巨大な木材を持つ。
「すいません、あとで弁償しますから!」
えっちらおっちら。
一人では持ち上げることすらできない木材の先端を、どうにかラヴァームの方へと向けた。
そしてもう片方の端を手で押さえ――。
「地黄の肆、剛力!!」
身体全体を魔力が巡り、筋肉が爆発した。
先ほどまで、全身を酷使しても動かすのがやっとだった角材。
それが、その場に無いように感じられるほど軽い。
十倍――いや、百倍ぐらいには力が跳ね上がっていそうだ。
これなら、イケる!
「だりゃああああっ!!」
いずれは、家の大黒柱になったであろう巨大な角材。
それが轟音とともに飛び出し、信じがたいほどの速度でラヴァームの身体へと吸い込まれた。
直撃。
圧倒的な質量に物を言わせ、角材が黒鉄の肌にめり込んだ。
黒々とした血しぶきが上がる。
よっしゃ、効いた!!
絶叫してよろめくラヴァームの姿を見ながら、俺はガッツポーズをする。
「おのれ、生意気な!」
「おっりゃあ、もう一発!!」
「ぐぬっ!」
飛来した角材を、どうにか腕で払いのけようとしたラヴァーム。
しかしその威力はすさまじく、軌道をそらし切ることが出来なかった。
角材が肩へと突き刺さり、再び血が流れる。
このまま一気に押し切るぞ!
俺は三本目を構えると、改めてラヴァームの胸へと狙いを定めた。
するとここで――。
「グアアアアアアッ!!」
「のわっ!?」
『魔力攻撃か!』
ラヴァームの全身から衝撃波が放たれた。
周囲の建物が吹き飛び、刺さっていた角材も木っ端みじんに粉砕される。
身体強化を掛けていた俺は何とか堪えたが、持っていた角材は折れてしまった。
だいぶ弱ったと思ってたのに、まだまだこんな力が残ってたのかよ!
今ので、街の一角が壊滅してしまった。
「こりゃ、まだまだ簡単には倒せなさそうだな……」
『ううむ、国を壊滅寸前に追いやったというのは伊達ではないの』
「何か、手はないのか? このままだと、この街が滅ぶ!」
ラヴァームが好き勝手に暴れれば、一日でこの街は消えてなくなってしまうだろう。
一週間もすれば、国自体が危ない。
そうなる前に、何が何でもコイツを倒さなくてはいけなかった。
するとリーフォルスは、意を決したように重々しい口調で言う。
『……手がなくはない。だが、これはおぬしにとってかなり危険じゃ』
「まさか……とうとう、使うのか?」
リーフォルスの言葉で確信した。
いよいよ来たのだ、俺が中級魔法を使うときが!
よし、今度という今度は決めるぞ。
街の運命がかかっているんだ、失敗できない!
「わかった、やろう。中級魔法!」
『いや、違うぞ。おぬしに使ってもらいたいのは、初級魔法の奥義じゃ!』
奥義?
初級魔法に、そんなもんがあるの?
深刻な状況にもかかわらず、俺はちょっとばかり間抜けな顔をしてしまった。




