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1・学校一の美少女

 下校途中。


「あれは清水か……? なにしてるんだ?」


 人通りの少ない道ばたで、一人うずくまっている女の子を見つけた。


 後ろ姿からでも分かる。


 ——清水彩羽しみず あやは


 つい一週間前にこの街に引っ越ししてきて、クラスメイトになった同級生だ。


 清水はメッチャモテる。

 まだ転校してきて日も浅いというのに、その可憐な容姿からたちまち校内で有名になった。

『学校一の美少女』と呼ばれ、たった一週間で告白された数も二桁に達すると言われる。


 その清水だが……どうやらなにか困っているようだ。

 このまま通り過ぎるのも、あんまりだと思ったので、


「どうしたんだ?」


 と彼女に近付き話しかけてみた。


 しかし。


「あなたには関係ない。あっち行って」


 返ってきたのは、そんなぶっきらぼうな答えであった。

 それを聞いて思わず俺は溜息を吐く。


 ——清水は美少女だ。


 しかし男を遠ざけるような言動をたびたびすることがあり、そのことから『いばらの美少女』とも呼ばれている。

 そのせいで心を折られた男は三桁にも及ぶとか。


 普通ならここで諦めてよかったかもしれない。

 だが、自分で言うのもなんだが、俺は諦めが悪い。


「関係なくはないだろ。せめて事情くらいは話してくれよ」


 そこではじめて俺は清水の前に回り込んだ。


 すると清水は、


「だから——って悠真君!?」


 一転、慌てたように俺の名前——加賀悠真かが ゆうまの名前を呼んでくれたのだ。

 清水の顔をあらためて見る。


 長い睫。腰付近まで伸びている黒い髪は、まるで清流のようであった。

 ……うん。これは学校一の美少女と呼ばれるのも無理はないな。


「俺のこと、覚えてくれていたのか」


「え、う、うん。もちろんだよ。だって……」


 さっきとは違って、清水は「あわ、わわっ」と変な声を上げていた。


「そうだよな。クラスメイトだしな」


 清水からの答えを全て待たずそう言うと、何故だか彼女は不満げな顔を見せた。


「それで……どうしたんだ?」


 しゃがんでいる清水は右足首を押さえている。

 俺から逃げようともしない。


 これは……。


「もしかして、足でもひねったのか?」


 そう質問すると「う、うん……」と清水は伏し目がちに言った。


「見せてみろ」


 俺は彼女の細い足首に顔を近付ける。

 清水が手をどけると、そこは赤くれていた。

 痛そうだ。


「心配してくれてありがと。でも平気。あんまり大したことないから」


 そう気丈に振る舞う清水。

 彼女はそのまま立ち上がろうとするが「……っ!」と一瞬痛そうな顔をした。


「なにが平気だ。痛そうじゃないか」


「ううん。大丈夫だから……もう少しで家だし」


 しかしこの様子では、そこまで辿り着くのも一苦労だろう。

 仕方ない。


「ほら」


「え?」


 彼女が目を丸くする。


「乗れよ。そこまでおんぶしてやるから」


 後ろを向いて手招きするが、清水が乗ってくる気配はない。

 少し強引すぎたか?


「で、でも……悠真君にそんなことやらせるの申し訳ないし」


「いいから。女の子なんだし、無茶をするのはいけない」


「——っ!」


 後ろで彼女が息を呑む音が聞こえた。

 一体なんなんだ?


「じゃ、じゃあお願いします……!」


 清水がゆっくりと俺の背中に乗ってくる。


 軽い。

 これなら大丈夫そうだな。

 彼女の案内に従って、ゆっくりと歩き出す。


「うぅ……悠真君におんぶしてもらってるよぉ。顔から火が出そう……」


 背中から清水の声。

 その言葉を裏付けるかのように、彼女の体温がだんだん上昇していった。


 そりゃそうだよな。

 俺みたいな男におんぶしてもらうなんて、()()()()()に違いない。


 やがて彼女の家の前まで辿り着いた。


「親は家にいるか?」


「うん」


「だったら、一応車で病院まで連れて行ってもらった方がいいかもしれない。ただの捻挫だと思うけど、大事だいじになってからでは遅いからな」


 最後にそう言い残して、そそくさと俺は清水の前から去ろうとした。

 だが、一歩目を踏み出した瞬間。


「悠真君……わたしのこと、()()()くれてる?」


 と清水の声。


「当たり前だろ」


 振り返らずに、俺はこう続けた。



幼馴染おさななじみだしな」



「——っ!」


 彼女の顔が真っ赤になった。


 しまった……言っちまった。

 このことを清水が覚えているかどうかも分からないのに。


「じゃ、じゃあ俺はもう行くから」


「ちょ、ちょっと待って——!」


 彼女からの返答を待たず、俺はそのまま走り去るのであった。


 ◆ ◆


 翌日。

 学校に着いて自分の席に座っていると、ガラガラという音が聞こえ、続けて清水が教室に入ってきた。



「棘の美少女が来たぜ……!」

「やっぱり可愛いなあ。俺、もう一回告白してみようかな」

「止めとけ。どうせまた冷たくあしらわれるだけだ」



 それを見て、遠巻きに男子達が羨望の眼差しを向ける。

 一方、女子達はそんな男達を見て不満げだ。


 誰も清水の可愛い顔にしか目がいっていないようだが、俺には分かる。

 彼女の右足首に視線を移すと、そこに包帯が巻かれていたのを。



『昨日のこと、大丈夫だったか?』



 清水にそう問いかけてみたかったが、そんなこと出来るわけない。

 彼女にとって昨日の出来事は恥ずかしいことなんだろう。

 俺と昔仲がよかったことも覚えていなさそうだし。

 清水はつんとした表情のまま席に座った。


「起立! 礼!」


 程なくして、先生も教室に入ってきて授業がはじまった。

 今日も代わり映えのない退屈な日々が開始する。

 そう思っていた。



 ブルル。



「ん?」


 マナーモードにしていたスマホが震え、俺はすぐさま手に取って画面を見た。

 思わず声を上げそうになってしまう。



『あやは:昨日はありがとう。お礼させて』



 と通知画面に表示されていたからだ。


 あやは……って、あの清水彩羽だよな?


 動揺している俺に続けざまこういう通知がきた。


『あやは:悠真君がわたしのこと覚えてくれていて、嬉しい。幼馴染みだもんね』


 ……その、なんだ。

 どうやら今日はなにかが起こりそうだ。

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