第八十八話 仲間と共に…
エリムの言葉を受けた王国軍。
このまま戦っていても無駄な犠牲を確実に増やすだけ。
革命軍に道を譲り、王城への道を開いた。
「国は確実に落ちるぞ」
「通さなくてもその結果は変わりないだろう」
グフの言葉に対し、エリムはそう言った。
幸いにもここにいた王国軍側にはほとんど犠牲者はいなかった。
怪我人が多少出た程度だ。
こう着状態であったことが幸いしたのだろう。
ここにはいない、街に散った者達にはいくらか犠牲者は出ているようだが…
「他の者たちは街にいる怪我人を回収してほしい」
「わかりました!」
「シルトのことも頼む…!」
王国軍の兵士に怪我を負ったシルト・シュパーベインのことを任せる。
そしてこの場に残っていた王国軍の者達は街の各地へ散っていった。
街の各地では怪我人が放置されているかもしれない。
また、まだ街の各地で戦っている軍の者に戦いを止めることを伝える意味もある。
「まかせたぞ」
エリムのその言葉をうけ、街の各地へ散っていく兵士たち。
と、そこへ…
「おいパンコ!王国軍の奴らが散っていったぞ!」
「あ、オリオンさん」
「いったいどういうことだ?」
そう言いながら現れたのはオリオンだった。
革命軍のリーダーである青年。
彼の登場に無意識のうちに身構えるエリムとグフ。
パンコが彼に今までの流れを説明した。
「…っていうわけっす」
「そうか、わかった!俺はみんなの後を追う、ここは任せたパンコ!」
先に進んだ革命軍を追うため、オリオンはその場から去っていった。
グフも残った兵士数人を連れ、彼の後を追っていった。
もし革命軍が暴走するようなことがあるとまずい。
それを考えてのことだろう。
数人でどうにかなるとは思えないが。
後に残ったのはパンコとエリムの二人のみ。
「ありがとうっす。えっと…」
「エリムだ」
「あ、エリムさん。けど何で…?」
「勝ち目のない戦いほど意味のないモノは無い。それに…」
この一連の騒動の火付け役。
それは間違いなくキルヴァだ。
もし彼の騒動が無ければ、革命は遅れていただろう。
勢いも多少は収まり、王国軍による鎮圧もできたかもしれない。
「勇者キルヴァ、彼は私が愛した男だ」
「愛した…?」
「だから知りたいんだ。真実を…」
もう嘘はいらない。
残った真実を知りたい。
今生き残っているコロナ、そしてミーフィアの口から…
「彼がノリンと結婚する前…確かに…ッ」
あの時のキルヴァは言った。
『ノリンとはあくまで形式上結婚するだけだ。本当の心はお前にある』、と。
その言葉がどこまで本当なのか。
何を信じればいいのか。
エリムはそれを知りたかった。
それを聞いたパンコは…
「だから私は…んむッ!?」
「んん…」
エリムの言葉を遮るように、彼女の唇をふさぐよう口づけをするパンコ。
その手をエリムの肌をなぞるように下へと持っていく。
そして彼女の股へと手をのばし…
「やめろ!何を考えているんだ!」
突然のパンコの行動に驚き、彼女を突き飛ばすエリム。
いきなり性行為の前戯紛いの行動をして何を考えているのか。
しかし、その行動には意味があった。
それは…
「こんな感じじゃなかったっすか?キルヴァさんのやり方…」
「…えッ?」
「ノリンちゃんや聖女サマも以前言っていたっす。『だいたいこんな感じでする』って…」
パンコは知っていた。
当然だ、彼女もされたのだから。
人の癖、というのはどうしても出てしまう。
毎回同じ、という訳ではないだろうが、かすってはいるはずだ。
彼女たち以外にも、連れ込んだ女たちに対しても同じようにやっていたというのはノリンから聞いていた。
「口説き文句も同じようなもんっす。ウチも言われた」
「そんな…」
「…聖女サマは王城にいるっすね」
「ああ…」
「一緒に行くっすよ」
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このテルーブ王国の『王』との戦い。
コロナとカケスギ、『王』の三人の戦いがついに始まった。
ぶつかり合う三人の攻撃。
既に長期戦になりつつある。
だが、三人に疲労はまだ見えない。
「ぬぅッ!?」
コロナの剣の斬撃を受ける『王』。
有効打にこそならないが、確実にダメージは与えている。
これまでの彼の戦い方とは打って変わり、拳では無く剣を主体とした戦い方だ。
その戦術は三年前の『護人 コロナ』そのもの。
「よぉコロナ。その剣、絶好調じゃないか」
「まぁな」
「斬れなかったのは単に不調だったからか?」
「いや、この『剣の性質』さ」
この剣は人の『想いの強さ』に共鳴してその切れ味を上げる。
以前のアレックス・サンダーとの戦いの中でそれをはっきりと実感した。
カケスギと共に確実に攻撃を通していく。
しかし…
「ふん!」
「くッ…」
それまで攻撃の受けに回っていた『王』の反撃。
拳による一撃をカケスギに放った。
彼はそれを避けた。
しかしそれは囮。
「なにぃ!?がッ…!」
大剣による斬撃。
それがカケスギの身体に叩き込まれた。
咄嗟の回避も間に合わず。
彼の身体に深々と刻まれる斬撃痕。
「カケスギ!?」
「人の心配をしている場合か?」
「ぬおッ!俺の剣が!?」
弾き飛ばされるコロナの剣。
そのまま壁に深々と突き刺さってしまった。
いくら切れ味がよくても、手放してしまえば意味が無い。
さらに瞬間的に距離を詰める『王』。
「終わりだ、護人」
かつて与えられた護人の称号。
しかしそんなものは何の役にも立たなかった。
護った者に裏切られた。
そして護りたい者すら守れない。
そんな称号…
「くッ…」
なんとか後ろに跳ぼうとするも、この距離では間に合わない。
しかし…
「させるかぁッ!火夏狼ッ!!」
コロナが攻撃を受けるその瞬間。
その一瞬の間にレービュの魔法が割って入った。
少し遅れてきた彼女。
その攻撃が奇跡的に間に合ったのだ。
炎で形成された魔物。
その大きな口を開き、勢いよく『王』を包み込む。
「こんなもの…!」
だが『王』の身体には対してダメージを与えることはできなかった。
しかし、それでよかった。
この技のおかげでほんの少し、『隙』が生まれた。
態勢を立て直したコロナ。
しかし武器である剣は既に失われている。
と、その時…
「コロナぁッ!」
「カケスギ!?」
カケスギの怒号。
それと共に彼がある物を投げつけた。
それは彼の愛刀『五光姫狐』だった。
残された力をすべて使い、コロナにそれを渡すべく。
全力でそれを投擲したのだった。
「助かる!」
左手で五光姫狐を受け取る。
そしてその勢いのまま、『王』に突撃する。
斬りかかるのでは意味が無い。
確実に貫き殺す。
心臓、頭。
どちらでもよかった。
ただその刀が指し示す場所へ…
「そんなもの…!」
とはいえ所詮はでたらめな突撃でしかない。
コロナの行動。
それは『王』にとって、単なる愚行にしか見えなかった。
軽く避ければいい。
それだけだった。
しかし…
「なッ…」
脚の動きが鈍い。
そのせいで一瞬反応が遅れた。
何故鈍い、避けることができない。
そう考えた時には既に遅かった。
「ぐッ…ガアァァァァァァァッ!!」
コロナの構えたカケスギの愛刀『五光姫狐』。
その刀身が『王』の胸を貫いた。
本来ならば避けられるはずの一撃。
それが『王』は避けられなかったのだ。
「な…ぜ…」
絶命の一撃。
その薄れゆく意識の中、『王』の目にうつったもの。
それは…
「う、動かないで…くれた…か…」
「へへッ…」
叩きつけられ、気絶していたはずの二人。
レイスとシンバー・ホーンズ。
その二人が『王』の脚を押さえつけていたのだ。
完全に抑えられたわけでは無い。
しかし、動きを鈍らせるには十分すぎた。
「ふ、二人とも…」
「は、はは…」
軽く笑いながらその場に腰を下ろすカケスギ。
そしてゆっくりと刀を引き抜くコロナ。
倒れる『王』。
心臓を貫かれたのだ、当然だろう。
「やった…か…」
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