第八十九話 ミーフィアの足掻き
『王』との戦い。
それはコロナが制した。
いや、彼だけでは無い。
レイス、シンバー、レービュ…
そして何よりもカケスギの…
彼らの力があっての勝利だった。
「やった…か…」
そう言ってその場にしゃがみ込むコロナ。
アレックス・サンダーを超える、この国『最強の男』。
それを倒したのだ。
全身の力がどっと抜ける。
だが…
「う…ヴぐッ…ガッ…」
心臓を貫かれた『王』。
しかし彼は死んではいなかった。
口の中に溜まった血を吐きだした。
驚きつつも、コロナは刺さったままの五光姫狐に再び力を込める。
「まだ生きて…ッ!」
「待て、何か言いたいようだ」
刀を引き抜こうとするコロナ。
その彼をカケスギが制した。
もうこの傷では治癒魔法も意味をなさない。
効果が現れる前に絶命するだろう。
この『王』の命はもう長くは無い。
「この国を…どうする…?」
「古い体制を壊し『近代化』するんだ」
シンバーが『王』の問いに対し答えた。
海の向こうの大国、そこでは既に新しい時代が始まっている。
その周囲の国も既に近代化を始めている。
このテルーブ王国もそれに倣おうというのだ。
「近代化…そう簡単にうまくいくと…思うか…?」
「してみせるさ」
レイスがそう言った。
この国の高官や一部の民間学者には近代化を推奨する者もいる。
また、実際に海外の別の国に行き視察をする者も。
そういった者達の意見を聞こうというのだ。
もちろん、それがすぐに実を結ぶわけでは無い。
しばらくは国は混乱に包まれるだろう。
しかし…
「いつかは国は変わらなければならない、それが『今』なんだ」
勇者制度を初めとする古い時代のしきたり。
それを残しておいては近代化は不可能。
いつかは変わらなければならない。
絶対に。
「ふふ…それは楽しみだ…」
「…」
「あの世で…見ているぞ…」
そう言い残してこの国の王は死んだ。
失敗を嘲笑う意味での『楽しみ』なのか。
それとも…?
「お、王は…?」
レービュが『王』の生死を確認する。
間違いない。
確実に死んでいる。
もう息を吹き返すことは無いだろう。
「やったな、シンバー」
「は、はは…まだ現実感が無いぜ…」
そう言いながら達成感に浸るレイスとシンバー。
彼らは革命のためにここまで走り抜けてきた。
きっとこの二人には…
いや、パンコやオリオン達もだ。
彼らには革命後にも多数の試練が待ち受けているのかもしれない。
国を変える、という重大な試練が。
しかし…
「カケスギ。アンタの刀、借りるぞ」
「ハハハ…やる気か?」
「ああ。俺にはまだやるべきことがある」
王の亡骸からゆっくりと五光姫狐を引き抜く。
カケスギの愛刀、だが今だけはコロナにそれを託してある。
重傷でカケスギは動けない。
治癒魔法で止血をすれば多少は動けるかもしれないが…
「レービュ、一緒に来てくれないか?」
「そうか、お前にはまだやることが残ってたよなぁ」
「ああ…」
コロナに残った最後の仕事。
それは『聖女ミーフィアの始末』。
本来ならば王を倒す前にやるべきだったのかもしれない。
順序が逆になってしまった。
「だけど場所は分かるのかい?」
「ああ。わかるんだ。今の俺には…」
「そうか、お前は《聖女の護人》だったよな」
レービュのその言葉を聞き軽く頷くコロナ。
勝利を喜ぶレイスとシンバー。
その二人を尻目に、コロナとレービュの二人はミーフィアのいる場所へと向かった。
彼女のいる場所、それは…
「中庭だ!」
そう言って中庭へと向かうコロナたち。
その予想は当たっていた。
ミーフィアは中庭にいた。
しかし、どこか様子がおかしい。
なにやら誰かと言い争いをしているようだ。
「あんたなんか聖女でもなんでもない!単なる詐欺師だ!」
「好き勝手言わないでよナグモ!」
ナグモの手には小ぶりの刀が握られていた。
この距離ならば、ミーフィアが魔法を放つ前に攻撃ができる。
彼女にとっては最悪の相手といえる。
「大体、あなただって私の身体を…」
「この騒動も全部あんたたちのせいだ!」
ナグモと言い争いをするミーフィア。
将軍の懐刀である密偵の少年ナグモ。
彼を懐柔したつもりのミーフィアだったが、その心の奥底までは見抜けなかったようだ。
そもそもミーフィアに彼が渡していた情報はたいして重要でもないもの。
将軍に渡した情報の残りカスのようなモノだったのだから。
と、そこに…
「聖女さま~」
「パ、パンコちゃん!なんでここに?」
「あなたのためっすよ」
ミーフィアの前に現れた少女。
それはパンコだった。
いつもと変わらぬ笑顔で、パンコはそう言った。
ノリンの友人であり、自分たちと同じくキルヴァの愛を受けたその少女。
その彼女であれば、きっと今の自分を助けてくれるはずだ。
そう思い、ミーフィアは彼女に助けを求めた。
「た、助けて!あの子が…ナグモが…!」
泣き真似をしながらパンコに縋りつくミーフィア。
その様子は、偶然にもキルヴァの最期に似ていた。
キルヴァを助けたパンコ。
その彼女を利用しようとしていたあの時のキルヴァのようだった。
しかし…
「お前は革命軍の…!」
「そうっすよ~」
「…え?」
ナグモの言葉に対し、肯定の言葉で答えるパンコ。
彼女の言葉。
その答えに対し絶句するミーフィア。
ミーフィアは知らなかったのだ。
パンコが革命軍と繋がっていること。
「革命軍のお前がどうしてここへ!?」
「マルク将軍とリーヴィス藩将が通してくれたっすよ」
そう。
もう王国には革命軍を押さえるだけの力は残されていない。
そして王の敗北。
将軍のマルクは独断で開城したのだ。
それはつまり降伏を意味する。
抵抗はしない、だから可能な限り部下の命は助けてほしい、と。
「ということは城は…」
「落ちたっす」
「…そうか」
「けどあくまで開城っすから。それに…」
そう話すパンコとナグモ。
色々と話ナグモも納得はしたようだ。
少なくとも主君である将軍マルクは死んでいない。
それを聞き胸を撫で下ろす。
そして…
「ミーフィア!」
「エ、エリムさん!丁度よかった!この子たちを…」
「お前に聞きたいことがある!すべて真実を話せ!」
剣を引き抜きミーフィアに詰め寄るエリム。
その眼に宿った怒り。
それは明らかにミーフィアへと向けられたものだ。
「もうここからは絶対に逃がさない!」
「どうするつもりっすか聖女サマ?」
「すべて真実を話せ!もう小手先の嘘は通用せんぞ!」
ナグモ、パンコ、そしてエリム。
三人に囲まれるミーフィア。
これまで嘘で塗り固めてきた彼女の地盤。
それが脆くも崩れ落ちた瞬間だった。
「ま、まって三人とも。これにはわけが…」
「そのわけとやら、ぜひ俺も聞きたいね」
「ヒッ…こ、コロナ…っ」
そしてその場に割って入るコロナ。
ナグモ、パンコ、エリム。
その三人に加えコロナまで出てきてはもはや収拾もつかなくなる。
これはマズイ。
そう考えたミーフィアは半ば無理矢理に魔法を使用した。
逃げるための追放魔法、それを自身に使用したのだ。
しかし…
「逃がさん!火災龍!」
ミーフィアの逃亡を阻止するため、レービュが放った大技。
全身の魔力で発生させた炎の大竜巻。
それと周囲に散らばる瓦礫を混ぜ、放つ強烈な一撃。
それでミーフィアを弾き返し、逃亡を阻止したのだ。
「ギャッ!?」
そのまま地面に叩きつけられるミーフィア。
それと同時に彼女を囲む五人。
さすがにこの状況から逃げるのは不可能。
「ま、待って!許して!」
「無理に決まってるだろ…」
「これだけいろいろやったんすからね」
必死で許しを請うミーフィア。
もはやエリムを口車に乗せることすらできなくなるほど追いつめられているのだろう。
しかしそれは却下された。
それでも必死で許しを請い続けるミーフィア。
「私の…私のお腹には…」
彼女の様子はどこかいつもとは違った。
その言葉と共に衝撃の告白をした。
それは聖女とはとても思えぬものだった…
「あの人の子どもがいるのよぉ!」
「なんだって!?」
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