第四話:紡ぎ手の遺産とコンクリートの誓約
#第4話: 黒鉄家の呪われた血脈。エドが隠し持っていた写真の秘密。
雨が端島を濡らし始めた。コンクリートの屋根を叩く雨音は、建物の中に入り込もうとする何千もの指先の音のように聞こえた。部屋の中では、エドがアカリの頭を膝にのせ、忠実な使用人のような仕草で缶詰のフルーツを差し出していた。
「食べなよ、アカリ。織り手のために、君の血を整えなければならないんだ」エドが穏やかに言った。彼は時折、妻を極めて高価な罅入りの磁器であるかのように慈しんだ。
アカリはエドの瞳を見つめた。彼の瞳孔の周りには、今や蜘蛛の巣のような細い紋様が浮かび上がっていた。「どうしてこんなことをするの、エド? どうしてこの島じゃなきゃいけなかったの?」
エドはしばし沈黙し、その微笑みは苦いものへと変わった。彼はフルーツの缶を置くと、ベッドの下から古びた木箱を引き出した。中には古びた一枚の白黒写真が入っていた。
「これを見て」エドは、黒い着物を纏った女性の写真を見せた。「僕の母さんだ。人間の身体に宿った絡新婦。彼女は、黒鉄家という『鍛冶師』の一族の男に恋をしたんだ」
エドはその写真を愛おしそうに撫で、次にアカリの頬を撫でた。
「黒鉄家は、母さんの力を自分たちの『鉄』で制御できると思い込んでいた。彼らは母さんを地下に幽閉し、無理やり産ませたんだ……僕を。彼らは兵器を望んでいた。自らの神経で運命を縫い合わせる存在をね」
エドは顔をアカリの耳元に寄せた。「初めて君を見た時、確信したよ。君の存在こそが、僕の血管の中で燃え盛る熱い鉄を冷やすことができる。僕は君を救ったんだ。母さんのように、独り寂しく果てることのないようにね」
二人の運命が交差する箇所から、皮膚の下で小さな黒い結晶が芽生え始めていた。
「なんて美しいんだ」エドは執着に瞳を潤ませて囁いた。「これが端島の秘密さ。この炭鉱の底には、古い地脈が流れている。一九九一年の今、この『コンクリートの墓場』の上で、僕たちの儀式は完成する」
エドは次にアカリの手を取り、自らの胸に押し当てた。アカリはエドの鼓動とともに、その奥で鉄板のような硬い何かが蠢いているのを感じた。
「聞いて、愛しい人。僕の鼓動は君のためにある。僕の側から離れないで。この痛みはやがて一つになるための悦びへと変わるのだから」
エドの執着は深まり、彼の指先からは透明な神経の糸が這い出し、二人の境界をなくすかのように絡みついていく。
「この宿命を恨まないでおくれ、アカリ」エドが静かに告げた。「僕の網を潤すのに、これほど完璧な君自身を愛するんだ」
アカリは声もなく涙を流した。エドの「愛」が、肉と神経で造られた監獄のように感じられた。彼女は、このコンクリートの建物すべてが、自分を飲み込もうとするエドの意思の延長であるかのように感じていた。




