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! 全 力 悪 妻 !  作者: 反省会(一発屋)


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7(6)

「は? 全部?」


「そのようです」


使い捨てにする奴隷を仕入れている商家がなくなった。

なくなったというか、とある人物が丸ごと買い取ったらしい。


「いやまさか。あんな場所にあるとはいえ、国をひっくり返しても出せないくらいの価値があるんだぞ」


あの場所にいる奴隷は特殊だ。

種族ごとの特性を活かした暗殺も妨害もスパイも成功率が高いし、何より別種族なのでこちらへの追及の手が浅い。

今でこそ国家間の大きな戦争はないけれど、過去を引きずって当てどころのない妄想的な恨みを募らせた若い世代が隠密に復讐の機会を狙っている。そいう連中である可能性がある限り、後始末が楽なわけだ。

だから、程よく使っていたわけだが。


「俺達、"ハウンド"が使っていることを知らないのか」


「それが……お嬢がお仕えしている主人に教えたようでして……」


「は? ってことは、ローズウェルか?」


確か、家主があの屋敷に派遣したはずだ。

珍しく浄化が使えるからと、その能力でメイドになり、花嫁修業としてもぐりこんで新当主を誑し込むように伝えられていたはず。

ということは。


「逆に取り込まれたのか? あの青二才に」


「い、いえそれが……奥方の方に仕えている様子で」


「なんだと?」


奥方?

ということは、辺境から来たとかいう粗雑な娘の方か?


「なぜだ」


これといった特徴のない、ただ単に魔力が大きいというだけの娘。

だからこそ、付け入る隙があると踏んでのことであったはず。

あれだけ親密にしていた王女との関係も、あれだけの身分がありながら諦めるような腑抜けなのだから、簡単に篭絡もできたはずなのだが。


「しかし、状況から考えるに……おそらくお嬢様は唯一を見つけたのではないかと」


「なに?」


「そうでなければ家門の重要な情報を簡単に教えるわけがないではないですか」


それもそうだ。

期せずして長いため息が漏れた。


「そうだな……」


お嬢様が唯一を見つけたというのならば、それには協力をするべきだ。

絶対にそのもののそばから離れないのだから、取り込んでしまうのが最も効率がいい。

味方として近付き、すべてを奪い取るのが”ハウンド”なのだから。


だが、その小娘が何を持っているのだ。

さすがに役目を果たせなかった娘を、いくら身内といえど家主が放っておくとも思えない。


「とんだ失態だな……」


とはいえ、主人を見つけてしまったならば仕方ない。

こちらも家臣とはいえ、ハウンドの傍系。永遠にそばに、とまでは執着しなくとも、仕えると決めた相手にはそれ相応の愛着がある。

たとえそれが、裏切りと呼ばれる結果になろうとも。


「引き続きお嬢様の様子を探ってくれ」


できるだけ本家に状況がばれないように工作するしかない。

幸か不幸か、お嬢様は彼らから大した関心を向けられているわけではない。そもそもが、本家内での立場を強くするための任務でもあった程度のことだ。

唯一が見つけられたというのならば、祝福してやるのが家族というものだ。


さすがに商家がローズウェルの所属になったとなれば誤魔化すのも骨が折れるかもしれないが。


「新しい取引先……ローズウェルを通した新事業……破壊工作の作戦変更……」


考えることはいくらでもある。

整合性を取って、本家に来る依頼を問題なく処理し、同時にお嬢様に有利になるようにことを運ぶ。

いつも通りだ。

裏稼業なんて自らを揶揄して、大切なものを守り抜く。それくらいできなくて、”ハウンド”は務まらない――。




***




艶を失った体。

張りのあった栗毛の馬体は、今はしわが寄ってどうにも弱々しい。


「売れねぇよ、そいつは。早く処分しちまえ」


父さんはそういうけれど。


「でもずっと、一緒に育ってきたんだ」


「だからって、無駄飯ぐらいをいつまでも生かしてやれねぇぞ」


「うん……」


昔はいくらでも売れたらしい馬が、今はほとんど売れない。

たまに買い付けに来る外国人はいるけれど、その収入だけではとてもやっていけないんだそうだ。

だから、こんな風に弱い馬は殺して食べてしまう。

でも、カラントは僕が初めて面倒を見た子だ。先に大人になって、先に死んでしまうとわかっているけれど、一番の親友で、家族で、かけがえのない存在。

初めて僕に風を教えてくれたのも彼だ。


「ねえ……どうしたらいいのかな」


きっとこんなところで考えていたって結論は出ない。

わかってる。さっさと見切りをつけてしまうのが一番なんだって。

カラントの目が、僕の決断ならば受け入れるといっている。

でも、それでも、だからこそ。


「どうしたらいいんだ……」


どうにもならない問題は、どうしようもない不幸だ。

誰かに助けてほしい。

誰かを祈る前に結論を出したほうがいい。

わかっていても動き出すことができない。

そうやって堂々巡りを繰り返すうちに、時間だけが過ぎていく。


そのうちきっと決断できない僕に代わって、父さんがカラントを処分するのだろう。


「離れたくないよ」


そして僕は今日も決められない――。


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