side02 思い描いて
「お兄ちゃん、ありがとー!」
「うん……もう心配かけちゃだめだよ」
仁藤浩紀はそう言うと、母親を見つけた子供を見送った。
下校中に迷子になった子供を発見した彼は、その子供に対して声をかけたことが始まりとなった。そこからしばらく子供の親を探し、1時間程度一緒にいたところで発見した。
そこまでの顛末を話すだけなら変なところなどないが、やはりどうしても気になることがあった。
その最たる異変は、突然子供が彼になついたところだった。
彼は生来なのかは知らないが、喋るときにどもる傾向がある。それを悪いとは思わないが、子供たちに良い印象を与えるものではない。
実際彼が声をかけた時、子供はその助け舟を見ても泣き止むことはなかったのだから。
それが突然なついて、いとも簡単に手をつないでしまったのだから驚きだ。
これは花音が感じた違和感と同じものだ。
彼女の話がなければこの現象に異変を感じることもなかった。その程度の違和感だ。
だが、一つ目に着けばすべてのことが疑心暗鬼に見えてくる。
なぜ彼が普通に他人と接することができているのか。子供と話しているときだけ、なぜどもることがないのか。
そして、なぜ彼は人助けをしているときに苦しそうな表情を見せ、子供はそれについて一切気づかないのだろうか。
少し彼の瞳孔を見てみたが、一度疑ってしまったのがいけない。
フラットな目で見ることができない。
花音を惑わせ、あんな表情をさせたことに対する私怨から正常な推察ができない。
まあ、これを自覚できている時点で幾分かマシなのかもしれないが。
それを加味しても不明点が多い。やはり、直接の接触が唯一の僕の手段か。
そう考え、迷子だった子供と別れた仁藤浩紀に声をかける。
「やあ」
「あ、れいら―――ん、げほっ!?」
僕が話しかけた瞬間、我慢できなくなったとばかりにせき込み始めた。
そう言えば彼は花音と話した直後もせき込んでいた。しかも、その瞬間に彼女に対する魅了のようなものも止まったのか、彼女が恐怖の色を示した。
なにかこれが関係しているのか?
「辛そうだね?」
「ま、まあ……うん―――その、なにか用かな?」
「単純に聞きたいことがあっただけさ。君、花音になにをした?」
「な、にをって」
「明らかに精神になんらかの干渉をしただろう」
「さ、催眠ってやつかな?ぼ、ぼくに、そういうのはできないよ……」
「どうかな。僕の知る力なら、それができてもおかしくはない」
「力……?なにを言ってるの?」
あくまでもシラを切るか。まあ、確かに僕は彼の証拠を一つとしてつかんだこともない。認めなければ―――と、言いたいところだが、僕は残念ながら警察ではない。少々強引なやり方でも問題ない。
少々脅すような野蛮な真似はあまり好きではないが、僕も少し気が立っているんだ。
ここは人の往来も決して多くはない。だが、消音機はつけておこう。
そう考え、僕は懐に手を入れてあるものを取り出した。
「ひっ!?そ、それは……」
「たとえ力を持っていようとも、変身しなければ君は無力な人間のままだ」
「だ、だから何を言ってるのさ……」
「この問答も面倒だ。答えなにのなら殺す。多少短絡的であっても、リアクトを数を削れるという利点も加味すれば割合妥当な判断だ」
「ち、ちょっと待ってよ―――」
「もう待たない。やはり君と話すのはストレスがたまる」
そう言って僕は引き金を引いた。
だが、放たれた弾丸は彼に当たらなかった。
代わりに目の前にあった姿はなくなり、後方から咳が聞こえてくる。
「ごほっ、げほっ……なにするんだよ」
「どう避けた……?」
「僕は、ただ銃弾が見える反応速度を―――そう思っただけだよ」
「そう思った……それが君の力かい?」
「うん、だから僕は小説も商業作まで上り詰めたし、リレーの選抜に選ばれるほどの足の速さも手に入れた。後は、紀里谷さんに―――そう思ってたのになあ……」
どもるような口調はなくなった。だが、なんだ、この妙に癇に障るしゃべり方は。
これもまた彼の望んだ姿か?
だが、彼の言葉から能力の名はわかった。
Art―――つまり、彼は彼の想像で作った自分を現実にできる。
だから、彼は足も速くなるし、銃弾を避けられる。子供に気に入られるし、人を魅了することもできる。
厄介な力に覚醒していたな……
まあいい。これでリアクトであることも自白した。後は戦えばいいだけだ。
「最後に―――なぜ花音を魅了した?」
「そんなの決まってるじゃないか。好きだからだよ。弱々しいけど、彼女なりの彼女がある。美しく、かわいらしい―――そんな姿を僕は見てきたんだ。中学生のころから。この力に覚醒して、僕は彼女にアプローチしようとしていた。これから恋の物語が始まるのだと思っていたよ。でも、もう君が取っていた。そんな狡いじゃないか!」
「君の行動が遅かったゆえに言葉だね。見苦しく、おぞましい」
そう言って発砲する。
とにかくスマホを出した瞬間に破壊する、変身する間もなく戦闘を終わらせる。そうすれば、事は簡単に―――
その瞬間、僕の手首から先が消滅した。
正確には、銃ごと手が斬られた。
すぐさま後ろに下がって状況を読み直す。
なにが起きた?状況の確認と入ったが、さすがに今の一瞬では何もわからない。
だが、僕の体に傷をつけた。一般の人間ごときでは不可能なこと。つまり、それが意味していることは―――
「すでに変身済みだったのか!」
だが、いつ!
必要性を感じた僕はすぐに変身する。
斬られた手はそれで再生し、銃も生成した。
変身後即座に身構えるのだが、すでに彼の姿はもうない。
今度は『誰からも見えなくなる自分』を望んだのだろうか?だが、隠せないこともある。
カツン……
「そこだ」
「ぐはっ……!?」
移動音―――それすらも消せるかは知らないが、存在を隠せても、存在はする。ならば、この世界の道理からは逃げられない。
移動すれば足音が鳴る。空気が凪ぐ。
それを読めるから、僕は今までの戦いも乗り越えてきている。
彼の話を鵜呑みにするのなら、彼は戦闘経験も浅いはず。
だが、彼の望む姿がどう能力によって反映されるのか。それは未知数だ。
即時拘束、デバイスを破壊する。
そう考え、銃のレバーを倒し、ロングホーンを展開した。
突如現れた角によって仁藤浩紀は拘束された。
「悪いが、君の欲はこれで終わりだ」




