side02 贈るべきと思ったまで
「二人は付き合ってるの?」
仁藤浩紀はそう言った。
僕と花音がともにいるのを見て、疑ったのだろうか?それとも、僕たちが付き合っていると何か不都合があるのだろうか。
よくわからないが、ここは真実を伝える以外にやることもない。
なので、僕は花音をグッと自分のもとへと引き寄せながら彼に伝える。
「ひゃっ!?」
「君の言葉の通り、僕たちは恋人?関係?というものをやっている。まあ、最も物語でよくあるデートらしいことはあまりやっていないかもしれないけどね」
「そ、そうなんだ……」
「思い出しついでに、デートと言うものをしてみるかい?」
「わ、私は今みたいにゆっくりしてるのも悪くないかなぁ、って」
この状況、仁藤は追いついていないが、僕たちは先へと進んでいく。
先ほどの言葉の通り、僕たちはあまりデートらしいデートはしていない。
まあ、リアクトやコアの案件に巻き込まれた彼女がそこまで時間があったようにも思えない。
外に対する忌避感を覚えていても何らの不思議もない。
だが、このままでも十分という彼女―――こういった時はプレゼントだとどこかの本で読んだ覚えがある。よし、さっそく明日に実行しよう。どうせ、学校に行って、ここに来る以外の用事なんてないのだから簡単に事は済むだろう。
「あ、あの……」
おっと、仁藤浩紀の存在を忘れていた。
なんのために来たんだっけ?ああ、そうだ。本の感想をしゃべりたいみたいなことを言っていたな。
もう正直花音と一緒にいることのほうが楽しいから、さっさと帰ってほしいものだ。
「もう、帰ります……」
「……?」
「本の話は?」
「本……『狼と涙』のこと?」
僕の思惑と違って、仁藤浩紀はさっさとコーヒーを飲んで立ち去ろうとする。
いくらかのお金を置いて、彼は立ち上がった。
「そ、その―――二人の邪魔したくなくて、その、あの……」
「仁藤君、そんな焦んなくてもいいよ。ちゃんと聞いてるし、笑ったりしないから」
「うっ……その、ごちそうさまでした!」
「あっ、あ、えぇ……ありがととうございました。で、いいのかな?」
「いいんじゃない?あ、そうだ」
彼はすぐさま店を出ようとしていたが、僕はとにかく彼が出る前に目的だけは果たし置こうと考えた。
「特に話さなかったが、『狼と涙』あれは面白い作品だ。戦いの中で技名を言う。物語のキメとしてみるとなかなか見ごたえがある。これからの展開も楽しみなものだ」
「あ、ありがとう―――っ!」
そう言うと彼は転びそうになりながら店の扉を開けて走り去っていった。
その時、花音が「あっ!あぁ……」とよくわからない声を出していたが、気にしないようにしておくか。
「なんだったんだろう……」
「さあ……話したいと言っていたのに、帰っていったね。まあ、僕としてはこのまま花音と一緒に入れるから―――」
「かのーん!ちょっと手伝ってくれー!」
一緒に入れるそう思った矢先に、彼女は店の奥から呼び出される。
その声に花音は思い出したように言った。
「そうだ!搬入があったから荷物の整理をしないといけないんだった。うへぇ……」
「そんなに大変なのか?」
「うん……結構重いんだよね。卵とか、牛乳とか―――やっぱり業務用のものとかもあるからすごく重いの」
「そうか……じゃあ、手伝おうか。毎日、ここで過ごさせてもらってるからね」
「そう?ありがとう」
店の奥へと向かうと、そこにはいくつかのダンボールが積み上げられていた。
この店のランチタイムは結構な卵の消費がされる。オムライスが看板メニューなのだから当たり前ではあるのだが。
その時間、僕たちは学校でいないので、パートの人を雇って店を回している。
ちなみにパートの人は一度しか見たことがない。
本当に顔を合わせたレベルのものなので、名前も知らない。聞けばわかるのだろうが、平日の昼にしかいないのだから知りようもない。
荷物と相対した僕は、肩を少しだけ鳴らして箱を持ち上げた。
「重くない?」
「この程度、なんでもない。僕は軽トラくらいなら無傷かつ片手で止められるくらいの力はあるよ」
「すごすぎて実感がわかないよ」
「ふっ、ならやってみせようか?」
「駄目だよ。みんなに迷惑かけたら」
そう言って花音は僕の言葉を諫める。いや、最初からやるつもりなどないけど。
さすがにそんなことで騒ぎをでかくするのもよくない。しかも、店の近辺でやれば悪評が立って客足が遠のいて、彼女が悲しむし、僕も心安らげる場所を失ってしまう。
そんな利のないことはしない。
重い荷物を一個二個と片付けていき、ものの30分程度で搬入の荷物はなくなっていた。
「ふぅ……ありがとね」
「問題ない。だが、いつもこんなに多いのかい?」
「ううん、今日は店のものがなくなることが重なって、たまたま搬入日がかぶっちゃったの」
「そうか……まあ、こういう手伝いくらいなら僕でもできる。いつでも手伝おう」
「いいの?私、これ大変だから助かるよ」
「もちろんバイト代はもらわないよ」
「悪いよぉー」
そんな冗談を言い合いながら、お互いの手を握り合う。
こんな何でもないときにでも彼女とつながっていたいと思ったのだから不思議だ。
「こーら、二人とも店の裏でイチャイチャするな。裏と言っても、道には面しているんだから皆に見られるぞ。というか、近所では噂になってるぞ。うちの可愛い娘に彼氏ができたー、って」
「うひゃあっ!?」
「そうは言うが、間違いはないのだから問題こそないだろう?」
「そうだが―――まあ控えておけ。やるなら店の中にしておくんだな。まだここより見られることはない。今の時間は客足も少ないしな。花音はもう休憩入っていいぞ」
「ほんと?やった」
店長である花音の母に言われて、彼女は休憩に入った。
なので、今の時間からは彼女と僕の自由時間となる。
「あ、そういえば仁藤君、1万円も置いていったんだよね」
「さすがに多すぎないかい?コーヒーとコーヒーゼリーでも1000円いかなかったと思うのだが」
「そうなんだよねえ……まあいいや。次に会った時におつり返せばいいよね」
「カッコつけておつりはいらないっていうのだったりして」
「颯二君はやっちゃだめだよ?こういうのはちゃんとしなきゃなんだから」
「しっかりしてるね」
「お母さんの子供だからね―――ああ、颯二君に愛想をつかれないようにするためでもあるよ」
「そんなこと気にしなくても大丈夫だよ。君はいつでも愛くるしいさ」




